大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

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入学後

ノイシスとの関係

 リンゼイと親しくなった頃に、学院の寮へ帰ればノイシスがいた。
 待ち伏せされるのは数回目だ。

『人の家に勝手に侵入するのは、不法侵入だって教わらなかったか? 王子様』
『教わらなかったな。私が入ってはいけない場所は三つ星以上の場所だけだ』
『はいはい。王子様は特別だからね』

 俺の部屋のソファで踏ん反り返っている。
 護衛は外にいて、俺と二人きりだった。
 早く追い出したい。

『いい加減私のものになれ』
『言い方! 誤解されそうな事を平気で言うな!』
『私の専属は私のものだろう?』
『俺はお前のそういう所が嫌いだ……』

 自分が間違ってないと思い込んでいる。

『そんなに俺がいいのか?』
『ああ。私はお前がいい』

 王子という立場は色々と苦労があるんだろう。
 信用できるやつを側に置きたいと思うのも納得できる。
 だからって俺がこいつの専属になる理由も義理もない。

『諦めろ』
『──そうだな……振り向かないやつを追いかけるほど私も暇ではない』
『やけに物分かりがいいな……』

 ニヤリと笑った顔が何か企んでいそうだ。

『エルド。先ほどお前を探していて、とある光景を見た』
『何を見たって?』
『お前と一緒にいた黒髪の男は、お前のなんだ?』

 リンゼイと一緒にいる所を見られた。
 心臓が冷えた気がした。
 取り繕う事なんてできなかった。
 ノイシスの胸ぐらを掴んで立たせた。

『リンゼイに何かしてみろ、王族なんか全員殺してやる』

 脅したつもりだったが、ノイシスはそれほど驚いてもいなかった。
 俺がこうする事を見越して護衛を外にやっていたのかもしれない。じゃなきゃ、護衛の全員を返り討ちにしてやった所だ。

『言い方が悪かったな。お前はそのリンゼイという男の前では普通に笑うんだな』
『何が言いたい?』
『何と言うか……嫉妬したのかもしれない』
『…………』

 空いた口が塞がらなかった。
 一気に脱力してノイシスから手を離して頭を抱える。

『お前……結婚してるよな……?』

 同性婚も認められている国だけれど、王子の側室に男とか笑えない。

『そういう意味じゃない。親友を取られてしまったような気持ちだ』

 なんてまぎらわしい。

『俺がいつからお前の親友になったんだ!』
『じゃあ私たちの関係はなんだ?』
『俺に聞くなよ!』

 疲れる……この男は本当に疲れる。

『城の魔法使いの話も専属の話も諦めよう。だが、私はお前が好きだ』
『だから、言い方どうにかしろ!』
『親友というものがいた事がなくてな』

 いつの間にか親友認定されている……。

『私が出歩く事はあまりできないんだ。エルドが話しに城に来い。城の出入りは自由にしてやる』
『ぜってーやだ』
『そういう所が悪くない』

 拒否してもスポンジみたいに手ごたえがない。
 もちろん俺は行かなかったし、ノイシスにもそれ以来会わなかった。

 俺が大魔法使いになった時、城で会うまでは──。

『お前、どうしてあんな事をした?』

 俺に与えられた客室で、ノイシスは怒っていた。
 究極魔法を使って相手の国を壊滅状態にした事を手放しで褒めるものと、ノイシスのように責めるものと半々だった。どちらの言葉も俺には響いてこない。所詮は俺の事を何も知らない他人の言う言葉だ。

『俺が【冷酷無慈悲な悪魔】だからだろ』

 鼻で笑ってやる。

『バカか? あんな事をすれば、お前はもう周りが放っておかなくなる』

 言い方は厳しいが、一応俺の心配をしてくれているらしい。

『誰がなんて言おうが、俺は後悔していない。お前が見てきた事実が全てだ』

 ノイシスは少し考えてから真っ直ぐに俺を見た。

『──リンゼイの為か?』

 本当、勘のいい男って嫌いだ。

『あれほど他人の為に時間を使いたくないと言っていたお前が、たった一人の為に尽くすのか?』
『リンゼイの為だと言っていない。俺が尽くすとかやめてくれ』
『お前はいつも本心を見せないんだ。ならば、リンゼイに会って話を聞こう』

 歩き出そうとするノイシスの腕を掴んだ。
 そんな事させるか。

『前にも言ったよな? リンゼイに何かしたら殺す』

 王族なんて近付けたくない。国の事情にリンゼイを巻き込みたくない。
 じっと見つめられてため息をつかれた。

『本物のバカだったんだな……』

 俺も自分がこんな風になるとは思わなかった。
 思わず笑ってしまった。

 ノイシスとはそれ以来、城で会ったら話すような間柄になっていた。

     ◆◇◆

「それで……ノイシス殿下。僕に何の用ですか?」

 学長から借りたという部屋は、護衛もいなくて二人きりだった。
 ニヤリと笑う顔に内心悔しい思いをする。
 こいつ、気付いている気がする。

「さっきのお前、私にはエルドに見えた」
「き、気のせいじゃないですか?」

 あははと笑って誤魔化す。

「一度だけ学院でリンゼイに声を掛けようとした事がある。でも、声を掛ける前にエルドがリンゼイの手を取って逃げてしまった。リンゼイに何かしたら殺すなんて言っていたが、その時は説教だけで済んだな」

 ノイシスは、懐かしそうに話している。
 そんな事もあったかな……。

「エルドは、リンゼイの事になると周りが見えなくなるんだ。先ほどの君のように──」

 ノイシスとあまり一緒にいた記憶はないのに、そんな事で気付かれるなんて思わなかった。

「偶然ってあるんですね……」

 それでもとぼけてみせれば、ノイシスは話題を変えた。

「ここでの会話を聞かれたくない時は、どうするんだったか?」

 こちらの様子を窺っているのがわかる。

「確か……風魔法で音を遮断するんだったな」
「へ、へぇ~……そんな事ができる魔法使いがいるんですか……? すごいなぁ~」

 ノイシスにどうやって声を奪ったのか聞かれて、あれを応用すればこちらの声を聞こえなくする事もできると余計な話までしてしまっていた。こんな話するんじゃなかった。
 遮音機として魔道具にしようともしたが、必要がないのでやめた。

「いたんだ。そのバカは、初めて会った時も私の声を奪ったんだ」

 こいつ絶対わざと言ってるよな。

「まぁいい。ディノがとぼけるなら、リンゼイに聞いてみるさ。お前がエルドじゃないなら殺されないで済む」

 ノイシスは、笑いながら歩き出そうとする。
 その腕を掴んで止めた。
 くそ……あの時と同じだ。

 ノイシスは、俺がエルドだという確信を持っている。
 それが伝わってくるので、これ以上誤魔化せないようだ。

「声を遮る魔法は使わないのか?」

 ワクワクしながらそんな事を言われた。楽しんでるな……。
 言われた通りに魔法を使って声を遮断する。完璧に俺たちの声が聞こえなくすると手を離した。

「ノイシス。リンゼイを巻き込むな……」

 観念すれば、ノイシスは嬉しそうに笑った。

「やっぱりな。お前、死んだんだよな? その姿はなんだ?」
「話すと長いんだよ……」
「時間ならある。今日は休みをもらった。おかげでルーベンスは城へ戻らないといけなくなったがな」

 楽しそうなノイシスに苦笑いする。
 どう言い訳してもダメそうだ。

「それじゃあ、ゆっくり話をしようか」

 どかりと椅子に座ったノイシスに大きなため息をついた。

「今の俺は魔力があまり無いんだ。魔法を長く使っていられない。手短に話すからな」

     ◆◇◆

 一通りの説明が終わってもノイシスはそれほど表情は変わらなかった。

「あまり驚かないんだな」
「充分驚いている。でも、お前は規格外だ。何があってもおかしくはない。何より──」

 ノイシスは立ち上がると俺を抱きしめてきた。

「おいっ……!」
「──生きていてくれて、ありがとう」

 俺の肩に顔を埋めたノイシスが泣いているような気がして、振り払う事をやめた。

「今だけだからな。リンゼイがいる前じゃ絶対するなよ」
「お前は相変わらず……リンゼイの為に生きてるんだな……」
「うるせぇよ……」

 ギュッと力を込めてきたノイシスの背中を、慰めるようにポンポンと叩いてやった。
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