大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

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入学後

同じ景色を

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 やってしまった……。

 自分のすぐにカッとなるこの性格をどうにかしたい。
 リンゼイの事となると見境がなくなるのはエルドでもディノでも同じか。

 全員が俺に注目している。
 今まで黙っていたのに、急に叫んだもんな……。

 やっばい……本当にどうしよう……。

 何か言い訳をしたいのに、何も思い浮かばない。
 リンゼイの手を掴んだまま遠い目をしたくなる。背中に冷や汗が伝う。
「なぁ~んちゃって」とか言って笑って誤魔化すか!?

 すると、リンゼイも俺の手を握った。

「──そうだったね。君と約束があったんだ。マベル、彼との約束が最優先だ。君の申し出には答えられない。皆さん、申し訳ありませんが、私たちはこれで失礼します」

 リンゼイが俺の手を引いて学長室のドアを開けた。

「ちょっと、リンゼイ。待ちなさ──」

 リンゼイは、マベルがリンゼイを引き止めようとしていたのを無視してバタンッと学長室のドアを閉めてしまった。
 俺の手を握ったまま歩き出す。

「マベルが来る前に、この場からすぐに離れよう」
「は、はい……」

 二人で足速にその場を後にした。

     ◆◇◆

「ここは……」

 森の木々がざわめいた。
 草花は風に揺らされてユラユラと揺れる。
 川が流れる音が一定に聞こえて、心まで洗い流してくれそうだ。

 二人の思い出の場所──。

「しばらくここで時間を潰そう」

 リンゼイは、そう言っていつも座っていた場所に座り込んだ。

「座ったら?」

 俺もそっとその隣に座った。
 エルドと違うのは、ディノとリンゼイの距離だ。
 前よりも腕一本分離れて座る。
 なんとなく体育座りだ。

 いつもこうやって二人で座って話していた──。

『エルド、この前水魔法の応用で雨を降らせる魔法陣を作ったんだ! 砂漠地帯で役に立つ魔法陣だって褒められて《優良》を貰えたんだ!』
『やったじゃないか!』
『魔力を使う魔法陣だから簡単には使えないけど、人の役に立てたのは嬉しいよ』

 リンゼイが嬉しそうにするから、俺も嬉しかった。

 でも、思うんだ。俺は人殺し。
 リンゼイは、人を救おうとする。

 ──不釣り合い。俺たちは、正反対の魔法使いだ。

 そう思うと、リンゼイが俺の隣にいる事が奇跡みたいに思えてくる。

『エルドのおかげだよ。エルドが色んな魔法を教えてくれたから思いついたものなんだ』

 まるで俺が救ったかのように言うなよ……。
 リンゼイは、俺までも救おうとしてくれる──。

『それなら、リンゼイは俺の隣でずっと恩を返さないとだな』

 ずっと一緒にいて欲しい。そんな気持ちを素直に伝える事ができずに冗談っぽく振る舞う。
 それなのに、リンゼイは嬉しそうに頷いた。

『エルドの隣にずっといるよ』

 なんてやつだ……俺の事を嬉しくさせる天才だ。
 こっちが浮かれてしまいそうだ。

『ば、ばかだな……冗談に決まってるだろっ』
『私は冗談じゃないからね』

 照れたように笑ったリンゼイを思い出してしまう。
 今思えば、あの時はリンゼイのテンション上がっちゃってたんだろうな。だからあんな風に言えたんだ。
 微笑ましい思い出だ。

 そして、リンゼイは本当にエルドが死ぬまで隣にいてくれた……。

「ディノ、さっきはありがとう」
「あ……いえ! 余計な事でしたね……」

 あははと笑って誤魔化す。

「ふっ……ふふっ。ごめん……ふはっ」

 リンゼイが笑いが堪えられないと言う風に肩を揺らして笑った。
 リンゼイのこんな笑顔は久しぶりな気がする。

「それにしても、絶対ダメって何?」
「あれは……っ! その……だって……リンゼイ先生が……行きたくなさそうだったからで……」

 自分の馬鹿さ加減に苦笑いだ。
 おもちゃを取られた子供みたいに叫んでしまったのを思い出すと、今更恥ずかしさが込み上げてくる。

「咄嗟にあんな嘘をついてくれたわけだ。助かったよ」

 嘘じゃないんだけどな……。

「まるで──あ、いや……なんでもない……」

 リンゼイは何か言おうとしてやめた。

「二人の会話を聞いていてすみませんでした」
「気にしなくていいよ。大した事は話してないから」

 二人きりで会いたいとか、城に来いなんて話が大した事じゃないわけないだろ。

「マベル様は、いつもあんな感じなんですか?」
「ああ……うん。まぁ……私に魔道具の知識があると思っているんだ。そんなのないのに……」

 やっぱりか……。このままじゃ、リンゼイはずっとマベルに言い寄られてしまう。
 俺は、死んでもリンゼイに迷惑を掛けていたのか──……。
 何か……何かできる事はないのか──?

 リンゼイは、それ以上喋らずに前を向いていた。
 俺も同じように前を向いて時々吹く風を感じていた。
 しばらく二人で同じ景色を見ていた。

 エルドだった時にリンゼイと二人で見ていた景色を、ディノとして見れている事に幸せを感じずにはいられなかった。

     ◆◇◆

 寮の部屋に戻ると、みんないた。
 そして、ノイシスもそこにいた。なぜ……。
 王子なんだからとっとと城に帰れよ。

「ディノ。リンゼイ先生と約束があったのか? 大丈夫だったのか?」

 メルフィスは、心配そうに声を掛けてくれた。

「あー……はははっ。そう! そうなんです。防御魔法学の事で質問があったので……」
「そっか。お前、こんな時まで勉強するなんてすげーな」

 感心したようなケフィンに苦笑いだ。
 ケフィン、お前はもう少し勉強したほうがいい。

「ディノ・バスカルディ──私と少し話さないか?」

 目の前に来たノイシスが何を考えているのか読めなかった。

「いえ……僕みたいな見習いが王子と会話なんて恐れ多いです。それに、さっき魔力使ったんで休みたいんですけど……」

 俺、言い訳下手だな……。
 ノイシスがニヤリと笑う顔には見覚えがある。
 これは、何か企んでいる。
 言い訳しても受け入れてもらえないやつだ……。

「エルドの生前にリンゼイとは数回しか会ったことがないんだ。会う──というよりは、顔を見ると言った所か?」

 嫌な予感。

「なぜだかわかるか?」
「いいえ……」
「エルドがリンゼイを私に会わせようとしなかったからだ。リンゼイの存在を私は偶然知ったが、話すことすらさせてもらえなかった。さっきのお前はまるで──」
「うわっ! っと……それじゃあ、二人で話しますか……?」

 その先を言わせまいと慌てて止める。

「ああ。行こうか」

 ニッコリ笑顔でポンッと叩かれた肩がものすごく重く感じた。
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