大魔法使いは二度目の人生を〝普通〟に楽しみたい

おみなしづき

文字の大きさ
69 / 77
入学後

別れは笑って

しおりを挟む
 真夜中にベッドで横になりながら、洗い呼吸を整える。

「リンゼイ……気はすんだか……?」
「うん……」

 こちらを見ながら微笑む顔が嬉しそうだった。
 それだけでねちっこく攻められたのは許そう。

「そろそろ部屋に戻らないと……」
「そっか……。でも、もう少しだけここにいて……」

 腰の辺りに抱きつきながら胸に擦り寄られると可愛い。
 抱きしめ返してポンポンと頭を叩く。

「心配するな。明日……というか、今日から一緒に暮らすんだろ?」
「そうだけど……離れたくないな……」
「もう~なんでそんな可愛いんだよ~」

 可愛いが止まらなくてぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「ディノ。苦しいよ」

 笑いながら抗議された。

「お前が可愛いのが悪いんだ」
「可愛かったのはディノだよ。気持ちよさそうな声出してたの──忘れた?」

 濃厚な情事を思い出して真っ赤になる。
 少し意地悪そうに見上げてきた顔を仏頂面で見下ろす。

「ほら、可愛い……」

 とろけるような笑顔を向けられて照れた。

「そういう事言うやつには──」

 リンゼイの唇を塞ぐ。
 そのまま逃さないようにゴロリと上に覆いかぶさって両頬を掴んで口内を舐め回した。
 最初は応えてくれていたキスも徐々に呼吸ができなくなって、肩や背中を何度もトントンと叩かれた。
 プハッと唇を離せば、リンゼイは洗い呼吸をしてぐったりだ。

「俺の勝ちだ。思い知ったか」
「なんの勝負……?」

 確かにそうだと思ったら、なんか笑えた。
 俺がクスクスと笑うとリンゼイもクスクスと笑う。

「迎えに行くね」
「ああ。これからはずっと一緒だ」

 ベッドから起きる前に笑い合いながらもう一度キスをした。

     ◆◇◆

「荷物は全部入れた? 忘れ物はない?」

 荷物を旅行鞄に詰め終わる頃に、エーベルトがみんなに確認している。

「部屋の鍵は僕が返しに行くからね」

 全員の鍵がエーベルトに渡された。

「なんか……寂しくなるな……」

 ケフィンの言葉にみんなで頷く。
 使い慣れた部屋は、綺麗に片付けられて、次の入寮生を待っていた。

 初めてエーベルトとケフィンに会ったのもここだ。
 メルフィスが増えて窮屈に並んだベッドを感慨深く見つめる。
 ソファとテーブルで、みんなで宿題を広げてやっていた。
 どこにでも思い出が残っていて、全員で別れを惜しんでいた。

「ディノに誘われてこの部屋に来れて良かった……エーベルトにもケフィンにも受け入れられて嬉しかった」

 メルフィスの真っ直ぐな言葉は、俺たちの胸に届く。
 最初は王子として嫌煙されていたメルフィスは、いつの間にかクラスの中心になった。

「俺らはさ、ここで会っただけのただの同級生だけどさ、俺にはかけがえのない友人だ」

 ケフィンはそう言いながらニカッと笑う。
 ケフィンの気持ちが嬉しい。
 家族想いのケフィンは、きっと優しい家庭を築くんだろう。

 みんなの顔を見回した。
 少しでもみんなの顔を目に焼き付けたかった。

「俺は……普通になりたかったんだ……。普通の生活に憧れて、普通に友人を作って、普通に学院を卒業したかった。それがお前達のおかげで全部叶ったよ。普通じゃない俺に、普通の学院生活を送らせてくれて──ありがとう」

 感謝の気持ちを込めて微笑む。
 ケフィンもメルフィスも微笑んでくれる。

「なんでそういう事言うのぉ……最後じゃないんだから、笑ってお別れしたいのにぃ」

 エーベルトは、泣くのを我慢していたらしい。
 みんなで慰める。
 エーベルトは、いつも俺たちを温かく見守ってくれていた。

「みんな離れちゃうけど、連絡してよね……」

 一人一人と抱き合って最後の挨拶だ。

 こんなにも寂しいと思える別れが出来るとは思ってもいなかった。
 みんなに出会えた事に感謝しかなかった。
 俺は決していい人ではない。
 そんな俺みたいなやつに、一緒に笑って、時には怒って、時には励ましてくれた。
 仲間たちのこれからに、幸せがいっぱい待っているといい。

「それじゃあ、行こうか……」

 泣き止んだエーベルトの言葉に頷いて部屋を出れば、ブルーノとリンゼイが待っていた。

「もう終わったのか?」

 ブルーノがエーベルトに聞いていた。
 二人は、俺達が別れを済ませるまで待っていてくれたみたいだ。

「リンゼイ先生はどうしたんですか?」

 ケフィンの質問に、ブルーノが答えた。

「俺もリンゼイ先生から今聞いてびっくりしたんだけどさ、ディノと一緒に暮らすんだってさ。それで迎え来てるらしい」
「「えぇ~!」」

 エーベルトとケフィンの声がこだまする。
 メルフィスは知っていたからそこまでびっくりしていない。

「ここ一番の大ニュースじゃないか!」
「す、すげー! 先生と!?」

 二人の反応に苦笑いする。
 色々質問される前に逃げようと、リンゼイの手を取って走り出した。

「「あ! ディノ!」」
「じゃあな! また落ち着いたら会おうな!」

 みんなに笑顔で手を振った。
 そうして俺たちは、三年間お世話になった部屋を後にした。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

銀の王子は金の王子の隣で輝く

明樹
BL
不幸な王子は幸せになれるのか? 異世界ものですが転生や転移ではありません。 素敵な表紙はEka様に描いて頂きました。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】あなたのいない、この異世界で。

Mhiro
BL
「……僕、大人になったよ。だから……もう、───いいよね?」 最愛の人に先立たれて3年。今だ悲しみから立ち直れず、耐えられなくなった結(ゆい)はその生涯を終えようとする。しかし、次に目が覚めたのは、生命を見守る大樹がそびえ立つ異世界だった。 そこで亡き恋人の面影を持つ青年・ルークと出会う。 亡き恋人への想いを抱えながらも、優しく寄り添ってくれるルークに少しずつ惹かれていく結。そんなある日、ある出来事をきっかけに、彼から想いを告げられる。 「忘れる必要なんてない。誰かを想うユイを、俺はまるごと受け止めたい」 ルークの告白を受け入れ、幸せな日々を送る結だったが、それは突然終わりを迎える。 彼が成人を迎えたら一緒に村を出ようと約束を交わし、旅立つ準備を進めていた矢先、結は別の女性と口づけを交わすルークの姿を目撃してしまう。 悲しみの中で立ち止まっていた心が、異世界での出会いをきっかけに再び動き出す、救済の物語。 ※センシティブな表現のある回は「*」が付いてますので、閲覧にはご注意ください。   ストーリーはゆっくり展開していきます。ご興味のある方は、ぜひご覧ください。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結】最初で最後の恋をしましょう

関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。 そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。 恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。 交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。 《ワンコ系王子×幸薄美人》

あなたと過ごせた日々は幸せでした

蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

処理中です...