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少し世界を知った

魔王城のパーティー ③ ラヴィアス視点 *少しだけ

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「せっかくラヴィアス様の香りを付けたのに、意味がありませんね」
「くそ……」
「だからキスしろと申し上げたのに」

 私の香りが兄上と混じる。

 人間は成長するのが遅い。
 リディオはまだ子供だ。
 もう少し──いつか見たあの姿になるまで待ちたい。

「ラヴィアス様、慎重になるのもいいですが、横取りされても知りませんよ?」
「横取りだと?」
「リディオは魅力的です。フォウレなんて虎視眈々と狙っていますし、私もリディオが求めれば、手取り足取り教えてあげたいです」
「お前らはそうやって邪な目でリディオを見ているのか?」
「ええ。ラヴィアス様は違うんですか?」

 違う……はずだったんだが……大きくなったリディオを見てから、時々胸がざわつく。
 可愛らしかったリディオが綺麗に成長していくのに戸惑っている。
 今はまだ花開かない蕾だ。大事にして何が悪い。

「あ! ラヴィアス様! 大変です!」
「なんだ?」

 考え事の最中なのに。

「リディオがいません」
「え──?」

 見れば、兄上もリディオも姿がない。

「兄上……」

 あの人は自由だ。とうとう連れてかれた。

「やられましたね」
「捜すぞ。ユシリスとフォウレも会場にいるはずだ。捜すように言え」
「はい」

 会場を捜し回っていれば、兄上がやってきた。
 みんなで兄上を取り囲んで詰め寄った。

「兄上! リディオをどこへやったのですか⁉︎」
「それが、いなくなってしまった」
「どうしてくれるんですか!」
「だからこうして知らせに来たんじゃないか」

 そうなると、リディオは今一人か?
 変な魔族に絡まれていないといい。
 すぐに見つけなくては。 

「ユシリス、匂いでわからないか? 私よりも兄上の香りがするはずだ」
「この会場は……色んな人の香りが混じってわかりません……」
「仕方ない。手分けして捜すぞ」

 そんな事をしていれば、急に会場中がざわついた。
 会場を見回せる高い場所から父上が姿を見せたからだ。
 その腕の中にいるリディオを見て、みんなで唖然とする。
 思わず翼を出して、父上の目の前まで飛んだ。

「ラヴィアス!」

 私の名前を呼んだリディオを見てホッとする。
 けれど、目の前に行けばリディオから父上の香りがする。
 思わずリディオを父上から奪う。

「おっと。乱暴だなぁ」
「リディオに何をしたのですか?」
「挨拶をしただけだよ。それと──味見?」

 クスクスと笑う父上にイライラする。

「どうしてそんな事をするのですか⁉︎」
「挨拶だけのつもりだったけど、可愛かったんだもん。リディオからお前らの香りがするから僕もね」
「これは私のものです! 勝手はやめて頂きたい!」
「えぇー? だって、ラヴィアスの香りほとんどしなかったじゃん」

 私の頭の中でブチンッと何かが切れた。

「クソ親父が……」
「あれ? ラヴィアス、本気で怒ってるねぇ……怖いねぇ……」

 父上の引きつる顔をギロリと睨んで、翼を広げた。
 下にいるユルを見つける。

「ユル! 私は帰る! 後を頼んだぞ!」
「はい。お任せ下さい」

 そのまま飛んで会場から外に出た。

「うわっ。怖いーっ!」

 リディオは来た時と同じように私にしがみついて目を瞑っていた。
 可哀想だが気にしている余裕がない。
 悪いが最速で帰らせてもらう。

「我慢しろ」

 あっという間に城に着けば、リディオをそのままベッドに連れて行き、ドサリと放り投げて私の下に組み敷いた。
 ベッドは私の香りでいっぱいだ。
 いつも他の香りが移っても、すぐに私の香りに戻るのに今はそうならない。
 くそ……リディオから父上の香りが消えない……。

「ラヴィアス? 怒っているの……?」

 リディオは、不安そうに私を見ていた。
 人間には香りがわからないから……。

「リディオ……お前は私のものだ」

 そうだ。赤ん坊の時から私のものだった。
 これからもずっと私のものだ。
 誰かにやる気なんて全くない。
 クソ親父が……。

 チッと舌打ちして、そのまま唇を押し当てて口内を蹂躙した。

「ん──っ!」

 リディオに私の唾液を飲ませて上書きする。
 リディオの唾液は甘かった。優しい甘さが口内に広がってクラクラしそうだ。
 こんなにも欲情を誘うとは、リディオは危険だ。

「んん……ふっ……ラヴィ……アス……」

 吐息の合間に名前を呼ばれてハッとして唇を離す。
 リディオの顔が紅潮して、はぁはぁと息が上がっていた。

 リディオから、私と父上の香りがするようになった。
 上書きしたいのに、唾液だけではそれができない。
 私の香りをより強く香らせたい。
 その為には、リディオの奥で体液を注げばいい。

 リディオの唇に親指を這わせれば、切なく見つめられた。

「その唇を誰にも許すな……!」
「う、うん……」

 このまま私のものに……いや、リディオはまだ子供なんだ……。

 リディオの肩に顔を埋めて、必死でリディオを自分のものにしようとする衝動に耐えた。

「ラヴィアス?」

 ギュッと強く抱きしめる。
 名前を呼ばれる事がこんなにも胸を騒がせる。
 何度も深呼吸をして少し落ち着けば、体を離す。

「シャールを呼ぶ。お前はしばらく部屋から出さない。私と寝るのもやめよう」
「わかった……」

 リディオの返事を聞いて部屋から出る。
 父上の香りが消えるまで、私はリディオに近付いてはいけない。
 無理矢理唇を奪ったように、そのまま犯してしまいそうだ。

「リディオ……」

 こんなにも自分がコントロールできなくなるなんて思わなかった。
 胸の奥にあるのは、感じた事のない独占欲と支配欲。
 誰かをここまで縛り付けておきたいと思った事はない。
 これが愛おしいと思う気持ちなら……なんとも厄介だ……。
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