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三つ巴
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支度をしてカラムがいる客室へ行けば、ウル兄さんと椅子に座って談笑していた。
ウル兄さんにも朝の挨拶をして、空いている椅子に腰掛けた。
「アデル。五年前の事、何から話そうか?」
「カラムは、ウル兄さんの友人なのか?」
「ああ。ウルは友人だ。当時、私はやりたい事があって、城での滞在は遠慮してね。ウルは、場所を提供して私の護衛をしていた」
「やりたい事とは?」
「花嫁探しさ」
カラムは、クスクスと笑いながら私を見つめた。
「私の国では、二十歳を過ぎたら身分を偽って、花嫁を探す事になっている。色んな国を訪問したけれど、誰も心に響く者はいなかった。貴族じゃなければいけないなんて、くだらない連中ばかりだった。この国でも同じで、早々に切り上げて違う国へ行こうと思っていたけれど、最後の最後にアデルを見つけた」
カラムの話をウル兄さんが引き継ぐ。
「まさかカラムに俺の妹が欲しいと言われるとは思わなかった。当時のアデルは、ローマンと婚約していたし、アデルは騎士になるまで結婚はしないつもりだっただろう? カラムは一度国に帰り、花嫁を迎える準備をしながら待っていたわけだ。それで、アデルが騎士になったら連絡するように言われていたんだ。まさか婚約破棄されるとは思ってなかったけれどな」
ウル兄さんは、花嫁探しのことを知っていたというわけか。
全面的にカラムを推しているようだ。
カラムに根本的な事を聞いていない。
「どうして私なんだ?」
「可愛かったからさ。庇護欲というものかな? 私はアデルが可愛い」
「か……わ……いい……だと? そんな事言うやつはいない」
恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。
初めて言われた。私を可愛いだなんていう男がいるなんて。
ウル兄さんは「俺はいつも可愛いと思っているぞ」なんて言っているが、家族が言う言葉とは全然違う。
「ほら、真っ赤になって可愛いらしい。その髪の手触りも気に入っている。羞恥心で意思の強い瞳が潤むのもたまらない」
「もういい!」
聞いていられなくなりそう叫べば、クスクスと笑われた。
カラムと話すとやっぱり恥ずかしくなる。
そこへ侍女がやってきて、父がギルとレオを連れて来たと言った。
「他の婚約者候補か──こちらに呼んでもらおう」
カラムは、侍女にこちらに案内するように言ってしまう。
当たり前のように指示を出す所は、人を使う事に慣れた王族っぽい。
少し待って先に部屋に入ってきたのは父だった。
どうしたのかと聞いたら、今日はレオの護衛で、そのまま話をしようと屋敷に連れてきたらしい。
その後に続いて部屋に入ってきたレオとギルは、カラムを訝しんでいたが、先にドカリと座った父に座れと指示を出されて椅子に腰掛けた。
ギルと目が合えば、手紙の内容を思い出して恥ずかしかったのか、顔をほんのり赤くした。
「アデル……元気か?」
ローマンとの事で落ち込んでいるとでも思っていたのだろうか?
ギルの優しさに微笑む。
「ふふっ。元気だよ。ギルも元気そうでよかった」
笑顔を向ければ、フッと優しく微笑んでくれる。
「アデル。ギルバートだけじゃなく、僕にも顔をよく見せて」
レオに顔を向ければ、嬉しそうに笑ってくれる。
「兄上の事、ごめんね。僕から謝るからね」
「いいんだ。レオが気にする事じゃない」
もしも私がレオを選んだら、国王様と王妃様はどう思うのだろう。
それに、ローマンが兄になるというのも複雑な心境だ。
「ふふっ。お前達が私のライバルというやつか」
カラムが楽しそうにしているのを見て、ウル兄さんがカラムの紹介をして、ギルとレオも紹介される。
婚約者候補が揃ってしまった。
「女を見る目があるのは認める。それでも、お前達にはアデルを諦めてもらおう」
カラムの言葉に、ギルの眉がピクッと動いた。レオの黒い笑顔が怖い。
「……そう簡単ではない」
「あなたにそんな事を言う権利はありませんよ」
三角形の雷がバチバチと見えている気がしてなんとも言えない。
三つ巴とは、こういう場面を言うのだろうかと考えていた。
ウル兄さんにも朝の挨拶をして、空いている椅子に腰掛けた。
「アデル。五年前の事、何から話そうか?」
「カラムは、ウル兄さんの友人なのか?」
「ああ。ウルは友人だ。当時、私はやりたい事があって、城での滞在は遠慮してね。ウルは、場所を提供して私の護衛をしていた」
「やりたい事とは?」
「花嫁探しさ」
カラムは、クスクスと笑いながら私を見つめた。
「私の国では、二十歳を過ぎたら身分を偽って、花嫁を探す事になっている。色んな国を訪問したけれど、誰も心に響く者はいなかった。貴族じゃなければいけないなんて、くだらない連中ばかりだった。この国でも同じで、早々に切り上げて違う国へ行こうと思っていたけれど、最後の最後にアデルを見つけた」
カラムの話をウル兄さんが引き継ぐ。
「まさかカラムに俺の妹が欲しいと言われるとは思わなかった。当時のアデルは、ローマンと婚約していたし、アデルは騎士になるまで結婚はしないつもりだっただろう? カラムは一度国に帰り、花嫁を迎える準備をしながら待っていたわけだ。それで、アデルが騎士になったら連絡するように言われていたんだ。まさか婚約破棄されるとは思ってなかったけれどな」
ウル兄さんは、花嫁探しのことを知っていたというわけか。
全面的にカラムを推しているようだ。
カラムに根本的な事を聞いていない。
「どうして私なんだ?」
「可愛かったからさ。庇護欲というものかな? 私はアデルが可愛い」
「か……わ……いい……だと? そんな事言うやつはいない」
恥ずかしくなってそっぽを向いてしまう。
初めて言われた。私を可愛いだなんていう男がいるなんて。
ウル兄さんは「俺はいつも可愛いと思っているぞ」なんて言っているが、家族が言う言葉とは全然違う。
「ほら、真っ赤になって可愛いらしい。その髪の手触りも気に入っている。羞恥心で意思の強い瞳が潤むのもたまらない」
「もういい!」
聞いていられなくなりそう叫べば、クスクスと笑われた。
カラムと話すとやっぱり恥ずかしくなる。
そこへ侍女がやってきて、父がギルとレオを連れて来たと言った。
「他の婚約者候補か──こちらに呼んでもらおう」
カラムは、侍女にこちらに案内するように言ってしまう。
当たり前のように指示を出す所は、人を使う事に慣れた王族っぽい。
少し待って先に部屋に入ってきたのは父だった。
どうしたのかと聞いたら、今日はレオの護衛で、そのまま話をしようと屋敷に連れてきたらしい。
その後に続いて部屋に入ってきたレオとギルは、カラムを訝しんでいたが、先にドカリと座った父に座れと指示を出されて椅子に腰掛けた。
ギルと目が合えば、手紙の内容を思い出して恥ずかしかったのか、顔をほんのり赤くした。
「アデル……元気か?」
ローマンとの事で落ち込んでいるとでも思っていたのだろうか?
ギルの優しさに微笑む。
「ふふっ。元気だよ。ギルも元気そうでよかった」
笑顔を向ければ、フッと優しく微笑んでくれる。
「アデル。ギルバートだけじゃなく、僕にも顔をよく見せて」
レオに顔を向ければ、嬉しそうに笑ってくれる。
「兄上の事、ごめんね。僕から謝るからね」
「いいんだ。レオが気にする事じゃない」
もしも私がレオを選んだら、国王様と王妃様はどう思うのだろう。
それに、ローマンが兄になるというのも複雑な心境だ。
「ふふっ。お前達が私のライバルというやつか」
カラムが楽しそうにしているのを見て、ウル兄さんがカラムの紹介をして、ギルとレオも紹介される。
婚約者候補が揃ってしまった。
「女を見る目があるのは認める。それでも、お前達にはアデルを諦めてもらおう」
カラムの言葉に、ギルの眉がピクッと動いた。レオの黒い笑顔が怖い。
「……そう簡単ではない」
「あなたにそんな事を言う権利はありませんよ」
三角形の雷がバチバチと見えている気がしてなんとも言えない。
三つ巴とは、こういう場面を言うのだろうかと考えていた。
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