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好きになったら負け
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「マサ、こっちの仕事もやってもらって悪いな」
「いいですよ。他の子に余分な仕事やらせるのも悪いと思ったんですよね?」
富田部長はそういう人だ。
「まぁな……マサに頼めば、マサだけで済むからな」
「だからって、俺にばっかり仕事振らないで下さいよね」
「今度奢ってやるって言ってるだろ?」
「いっぱい貸してるんで、焼肉でも奢ってもらおっかなぁ」
「しょうがねぇなぁ」
クスクスと笑い合う。
外はもうすっかり暗くなった時間。
他の人には帰ってもらって、後は富田部長と二人きりで大丈夫な所まできた。
でも、まだ終わりそうにないな……。
チラリと時計を見れば、もう夕食の時間を過ぎていた。
どうりでお腹が空いていたわけだ。
「部長、夕飯はどうしますか?」
「何か買ってこようか?」
「え? 部長がですか? 俺が行きますよ」
「いいさ。俺がお前に残業を頼んでるんだ。俺が行くのが筋ってもんだろ?」
部長は立ち上がると椅子に掛けていたスーツの上着を羽織った。
「なら、お願いします」
「はいよ。一人だからってサボるなよ。出来る所まで進めとけよ」
「わかってますよぉ」
部長は、笑いながら部署を出て行く。
俺は、PCの画面と睨めっこだ。
カタカタとタイピングの音が室内に響く。
しばらくして、背後に誰かの気配がした。
部長かと思って画面を見ながら声を掛けた。
「部長? 後ろに立つなんてどうし──」
顎に手が伸びてきたと思ったら、上を向かされてチュッと上から唇を奪われる。
この感触は良く知っている。
そして、逆さまに見えるニコニコ顔のドアップのたっつん……。
「おい……何してんだ?」
「正親さん一人きりだったんでいいかなって思いまして」
「まったく……ここ会社だぞ?」
「誰もいないので大丈夫ですよ」
「するならするって言えよ……」
「言ったらいいんですか?」
「……だめ」
「なら、言わないでします……」
チュッともう一度上からキスされた。
恥ずかしいのに嬉しい。
くるりと椅子を回してたっつんと向き合う。
「帰ってなかったのか?」
「僕も少し残業になったんです。差し入れ持ってきました。他の方は?」
「みんな先に帰したよ。今は部長と二人だ」
たっつんから洋菓子店の箱を受け取る。
「──部長は?」
「今夕飯買いに行ってくれてる。お。シュークリームだぁ。今食べちゃいたいけど、夕飯食べてからにしよっと」
「正親さんシュークリーム好きですもんね。正親さんの食べ方はエロいんで、気を付けて食べて下さいね」
「何言ってんだ……シュークリームなんてみんな同じ食べ方だろ……」
エロいシュークリームの食べ方ってなんだ……。
たっつんは俺をジッと見つめてくる。
「なんだよ……」
「オフィスにいる正親さんってなんかいいですね……」
何を考えているんだか……。
ニコニコしながら段々と近付くたっつんを赤くなりながら睨む。
「もう少しだけキスしましょ?」
「仕事中なの!」
「少しだけですよ」
「お前の少しは少しじゃ──ん、んんっ──」
そっと頰を掴まれて言葉ごと飲み込まれた。
差し入れられた舌に応える。
しばらくして離れたたっつんと見つめ合う。
物欲しそうな顔にゴクリと喉を鳴らす。
「失敗しました……今すぐ抱きたくなっちゃいました……」
「ばか……先に家に帰って待ってろ……」
「正親さんがいないんじゃ寂しいです」
「じゃあ、一緒に帰る? 早く終わりにするから……」
俺も一緒に帰りたい。
「はい! いつもの所で待っていますね」
ニコニコするたっつんに微笑んだ。
たっつんを見送ってすぐに部長が戻ってきた。
洋菓子店の箱を見て首を傾げた。
「誰か来たのか?」
「はい。営業部の白石が持って来てくれました」
「ああ……そういえば、歓迎会でもお前の事送ってったよな」
「そうです。それから話すようになって、いいやつなんですよ。部長も食べて下さい」
「悪いな」
部長からもらったおにぎりを齧りながら、手を動かす。
たっつんのおかげでやる気も出た。
バリバリと仕事を進めて予定よりも早く終わりにできた。
グッと上に伸びて固まった体を伸ばす。
たっつんが待っている。
早く帰ろうと立ち上がって支度をする。
部長も一緒に立ち上がった。
「マサ、ありがとうな」
「じゃ、今度こそ奢って下さいね」
「今日は?」
「あー……すみません。今日はちょっと……」
「なんだよ。マサの方がいつも断るんじゃないか」
「そうですね……」
誘われるタイミングが悪いんだよな。苦笑いだ。
「恋人でもできたか?」
う……鋭い……。
「あ……はははっ。そんな事ある訳ないじゃないですか」
「今度の相手は大丈夫なんだろうな?」
ちょっとムッとする。
「大丈夫ですよ! いいやつなんで!」
「やっぱりまた恋人ができたのか……」
おでこに手をあてて呆れたように首を振られた。
「あ……誘導尋問は卑怯ですよ……」
「マサ……本当に今度の相手は平気なのか?」
「大丈夫ですってば! すごく誠実な人です」
たっつんに想われているというのは自信を持って言える。
「──俺だったら……浮気もしないし、一度好きになった相手をずっと想い続ける……」
部長から恋愛話なんて珍しい。
「部長に想われた人は幸せですね」
彼女がいるとは聞いたことがないけれど、部長ならきっと幸せにしてもらえるだろう。
「幸せにしてあげたいんだけどな……」
部長は寂しそうに足元に視線を落とした。
「好きな人がいるんですか?」
そんな口ぶりだった。
部長は俺に視線をやるとニヤリと笑った。
「いるぞ。ずっと片想いだ」
「え⁉︎ 部長がですか⁉︎ どんな相手なんですか?」
好きな人がいるとは初耳で前のめりで聞いてしまう。
「鈍感。生意気。酒に弱い。彼氏持ちで俺なんて眼中にない……」
「ははっ。とんでもない女ですね」
「──だろ? 俺もどうしてこんなやつが気になるのかって思うよ。でもさ、好きになったら負けなんだ……」
優しく笑う部長に切なくなる。
彼氏がいる相手を好きになるのは辛いだろう……。
「話なら聞きますからいつでも言って下さい。それじゃあ、お先に失礼します」
「ああ……気をつけて帰れよ」
部長に見送られながら、部署を出た。
「鈍感……生意気……酒に弱くて……可愛くて……美人で……気が利いて……仕事もできて、信頼してる。綺麗な髪をした…………男だよ……ばーか……」
ため息をつきながら部長が呟いた言葉は俺には届かなかった。
「いいですよ。他の子に余分な仕事やらせるのも悪いと思ったんですよね?」
富田部長はそういう人だ。
「まぁな……マサに頼めば、マサだけで済むからな」
「だからって、俺にばっかり仕事振らないで下さいよね」
「今度奢ってやるって言ってるだろ?」
「いっぱい貸してるんで、焼肉でも奢ってもらおっかなぁ」
「しょうがねぇなぁ」
クスクスと笑い合う。
外はもうすっかり暗くなった時間。
他の人には帰ってもらって、後は富田部長と二人きりで大丈夫な所まできた。
でも、まだ終わりそうにないな……。
チラリと時計を見れば、もう夕食の時間を過ぎていた。
どうりでお腹が空いていたわけだ。
「部長、夕飯はどうしますか?」
「何か買ってこようか?」
「え? 部長がですか? 俺が行きますよ」
「いいさ。俺がお前に残業を頼んでるんだ。俺が行くのが筋ってもんだろ?」
部長は立ち上がると椅子に掛けていたスーツの上着を羽織った。
「なら、お願いします」
「はいよ。一人だからってサボるなよ。出来る所まで進めとけよ」
「わかってますよぉ」
部長は、笑いながら部署を出て行く。
俺は、PCの画面と睨めっこだ。
カタカタとタイピングの音が室内に響く。
しばらくして、背後に誰かの気配がした。
部長かと思って画面を見ながら声を掛けた。
「部長? 後ろに立つなんてどうし──」
顎に手が伸びてきたと思ったら、上を向かされてチュッと上から唇を奪われる。
この感触は良く知っている。
そして、逆さまに見えるニコニコ顔のドアップのたっつん……。
「おい……何してんだ?」
「正親さん一人きりだったんでいいかなって思いまして」
「まったく……ここ会社だぞ?」
「誰もいないので大丈夫ですよ」
「するならするって言えよ……」
「言ったらいいんですか?」
「……だめ」
「なら、言わないでします……」
チュッともう一度上からキスされた。
恥ずかしいのに嬉しい。
くるりと椅子を回してたっつんと向き合う。
「帰ってなかったのか?」
「僕も少し残業になったんです。差し入れ持ってきました。他の方は?」
「みんな先に帰したよ。今は部長と二人だ」
たっつんから洋菓子店の箱を受け取る。
「──部長は?」
「今夕飯買いに行ってくれてる。お。シュークリームだぁ。今食べちゃいたいけど、夕飯食べてからにしよっと」
「正親さんシュークリーム好きですもんね。正親さんの食べ方はエロいんで、気を付けて食べて下さいね」
「何言ってんだ……シュークリームなんてみんな同じ食べ方だろ……」
エロいシュークリームの食べ方ってなんだ……。
たっつんは俺をジッと見つめてくる。
「なんだよ……」
「オフィスにいる正親さんってなんかいいですね……」
何を考えているんだか……。
ニコニコしながら段々と近付くたっつんを赤くなりながら睨む。
「もう少しだけキスしましょ?」
「仕事中なの!」
「少しだけですよ」
「お前の少しは少しじゃ──ん、んんっ──」
そっと頰を掴まれて言葉ごと飲み込まれた。
差し入れられた舌に応える。
しばらくして離れたたっつんと見つめ合う。
物欲しそうな顔にゴクリと喉を鳴らす。
「失敗しました……今すぐ抱きたくなっちゃいました……」
「ばか……先に家に帰って待ってろ……」
「正親さんがいないんじゃ寂しいです」
「じゃあ、一緒に帰る? 早く終わりにするから……」
俺も一緒に帰りたい。
「はい! いつもの所で待っていますね」
ニコニコするたっつんに微笑んだ。
たっつんを見送ってすぐに部長が戻ってきた。
洋菓子店の箱を見て首を傾げた。
「誰か来たのか?」
「はい。営業部の白石が持って来てくれました」
「ああ……そういえば、歓迎会でもお前の事送ってったよな」
「そうです。それから話すようになって、いいやつなんですよ。部長も食べて下さい」
「悪いな」
部長からもらったおにぎりを齧りながら、手を動かす。
たっつんのおかげでやる気も出た。
バリバリと仕事を進めて予定よりも早く終わりにできた。
グッと上に伸びて固まった体を伸ばす。
たっつんが待っている。
早く帰ろうと立ち上がって支度をする。
部長も一緒に立ち上がった。
「マサ、ありがとうな」
「じゃ、今度こそ奢って下さいね」
「今日は?」
「あー……すみません。今日はちょっと……」
「なんだよ。マサの方がいつも断るんじゃないか」
「そうですね……」
誘われるタイミングが悪いんだよな。苦笑いだ。
「恋人でもできたか?」
う……鋭い……。
「あ……はははっ。そんな事ある訳ないじゃないですか」
「今度の相手は大丈夫なんだろうな?」
ちょっとムッとする。
「大丈夫ですよ! いいやつなんで!」
「やっぱりまた恋人ができたのか……」
おでこに手をあてて呆れたように首を振られた。
「あ……誘導尋問は卑怯ですよ……」
「マサ……本当に今度の相手は平気なのか?」
「大丈夫ですってば! すごく誠実な人です」
たっつんに想われているというのは自信を持って言える。
「──俺だったら……浮気もしないし、一度好きになった相手をずっと想い続ける……」
部長から恋愛話なんて珍しい。
「部長に想われた人は幸せですね」
彼女がいるとは聞いたことがないけれど、部長ならきっと幸せにしてもらえるだろう。
「幸せにしてあげたいんだけどな……」
部長は寂しそうに足元に視線を落とした。
「好きな人がいるんですか?」
そんな口ぶりだった。
部長は俺に視線をやるとニヤリと笑った。
「いるぞ。ずっと片想いだ」
「え⁉︎ 部長がですか⁉︎ どんな相手なんですか?」
好きな人がいるとは初耳で前のめりで聞いてしまう。
「鈍感。生意気。酒に弱い。彼氏持ちで俺なんて眼中にない……」
「ははっ。とんでもない女ですね」
「──だろ? 俺もどうしてこんなやつが気になるのかって思うよ。でもさ、好きになったら負けなんだ……」
優しく笑う部長に切なくなる。
彼氏がいる相手を好きになるのは辛いだろう……。
「話なら聞きますからいつでも言って下さい。それじゃあ、お先に失礼します」
「ああ……気をつけて帰れよ」
部長に見送られながら、部署を出た。
「鈍感……生意気……酒に弱くて……可愛くて……美人で……気が利いて……仕事もできて、信頼してる。綺麗な髪をした…………男だよ……ばーか……」
ため息をつきながら部長が呟いた言葉は俺には届かなかった。
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