交際0日同棲生活

おみなしづき

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失敗した side富田康之

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「マサ! おい! しっかりしろ」

 フッと気を失ったマサに血の気が引く。

 よろけたマサが心配で後を追いかけて良かった。

 スーツに隠された見た目よりも細い体は容易く抱き上げられた。
 病院へ連れて行こうと急ぐ。
 途中で村住に声をかける。

「村住! マサを病院に連れて行く! タクシーを一台呼んでおいて欲しい! 悪いがしばらく一人で頼む!」

 村住は俺の腕の中でぐったりとするマサを見て青ざめた。

「わ、わかりました!」

     ◆◇◆

 近くの病院で診てもらえば、過労だったようだ。
 大した事はなく、点滴を打って休ませればいいと言われた。
 救急のベッドにいたのはマサだけだった。

 青白い顔のマサを見つめながらそっとその髪を撫でた。
 サラリと揺れた髪は触り心地がいい。

 こんな風に寝顔を見つめるのは初めてだ。
 そういえば、酔っ払っても無防備に寝るような事はなかったな。

「マサ……早く良くなれ」

 じゃないと俺は仕事も手につかない。

 最初は生意気なやつだと思った。
 でも、仕事に対する姿勢や時折見せる笑顔にいつの間にか虜になっていた。
 密かに想う以外、何も望んでいなかった。
 彼氏がいるとわかった時も、マサが幸せであればいいと思っていた。

 それなのに、こうやってベッドに無防備に横になっているマサを見つめていると、どういう訳か欲が出てくる。
 もしも俺が好きだと伝えたら、マサは今の彼より俺を選んでくれないだろうか?
 この寝顔が俺だけのものにならないだろうか?

 その唇に指先でそっと触れたら止まらなかった。
 感触を味わいたい。
 吸い込まれるようにキスしようとした瞬間に、グイッと肩を引かれた。

「あんた──今何しようとした?」

 肩を掴んでいる人物を見れば、こっちを睨んでいるのは白石だった。
 今のを見られてしまったか……。
 バツが悪くて視線を逸らす。

「僕にはキスしようとしたように見えましたがどうなんですか?」
「いや……」

 失敗した……俺は何をしようとしていたんだ……。
 周りに気付かないなんてどうかしていた。

「し、白石はどうしてここに?」
「正親さんの荷物を持ってきました。それよりも、質問しているのはこちらです。何をしようとしていたんですか?」

 掴まれている肩が痛い。
 どうしてこいつがこんなにも怒っているんだ?
 白石の目は、俺を鋭く睨んでいる。
 誤魔化すような事はできないようだ。

「キスしようと──うっ!」

 言うと同時にドカッと腹を殴られて前屈みになる。
 痛い……。

「顔にしなかったのは、青あざなんて残ったら、正親さんが心配するからです。富田部長、人のものに手を出そうとした自覚がありますか?」
「な、何を言っているんだ……?」
「分かりませんか? 付き合っている相手に手を出されそうになったら怒るでしょう?」
 
 なんだって?
 それじゃあ……マサの彼氏って……白石……。

「しかも同意じゃない。寝込みを襲うなんて卑怯だと思いませんか?」
「──悪かった」
「二度とないようにお願いします。それから、正親さんを病院まで連れてきて頂いてありがとうございました。正親さんには僕が付いていますから余計な心配はいりません」

 怒ってるな……そりゃそうか……でも、律儀にお礼も言った。
 悪いやつじゃない。マサの事も本気みたいだ。

 マサが元彼と同棲していると知った時は、驚いたが相手に会ったことは無いし、それほど気にした事がなかった。
 その知らない相手に嫉妬した事もほとんどない。
 時々される惚気を聞いてやるのは苦痛じゃなかった。

 なのになぜ、今はこんなにも胸がモヤモヤしているんだ?
 相手が目の前の白石だからか?
 元彼よりも若い男だからか?
 マサの唇に触れた指先がまだ熱いからか……?

「村住が一人で仕事していましたよ。すぐに戻ってあげて下さい」

 そうだ。早く戻ってやらないと。
 余計な事を考えてはだめだ。俺はマサに幸せになって欲しいだけだ。

「田杉の事……大事にしてやってくれ」
「言われなくてもしていますよ」

 白石の営業スマイルは、『それ以上近付くな』と俺を牽制していた。
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