攻め×攻め事情

おみなしづき

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夏の思い出

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 みんながいる前で美羽と仲良くはできない。
 それでも、美羽が近くにいるというだけで気分は良かった。

「行きまーす!」

 みんなはビーチボールを打ち合っていた。

「負けた方がかき氷奢りね!」

 砂浜に書いた線を頼りにビーチバレーで盛り上がっていて楽しそうだ。
 近嗣は、その光景を見ながら座り込んでいた。

「糸崎さんはやらないんすか?」

 聡が声をかけてきて首を振る。

「俺はいい……」

 何かの拍子でこれ以上みんなに怖がられるのは嫌だった。

「んじゃ、俺もここにいていいっすか?」
「遊べば?」

 聡を自分に付き合わせるわけにはいかないと近嗣は思う。

「わかってないなぁ。糸崎さんの隣に居たいんすよ」

 ニカッと笑う聡に、近嗣は思わずフッと釣られて笑う。

「糸崎さんの貴重な笑顔! へへっ」

 聡は嬉しそうにして近嗣の隣に座る。
 一方的に喋る聡に時々相槌を打つ程度なのに、何が楽しいのか、聡は終始ご機嫌だった。
 近嗣もそんな聡に時々気が緩んだようにフッと笑う。

「それで、クラスのやつが──ぶはっ!」

 話している途中で、聡の所にビーチボールが飛んできて聡の頬にバシンッとぶつかってしまう。

「誰だっ!? 今のボール打ったの!」

 聡は頬にぶつかったビーチボールをガシッと掴んで立ち上がった。

「悪い。僕だ──」

 スッと手を挙げたのは美羽だ。

「この野郎!」
「手元が滑ったんだ。謝っただろう?」

 ニコッと笑顔なのに、冷たさを含む笑顔は美羽の機嫌が悪いのだと周りに伝わってくる。
 平気でいられるのは、近嗣と鈍感な聡ぐらいだ。

「信谷くんだったか? 君もやったらどうだ?」
「上等だ! 返り討ちにしてやる!」

 聡が勢い込んでコートに入れば、美羽に集中的に狙われて、クタクタにさせられていた。

     ◆◇◆

 お昼過ぎになれば、パラソルの下で昼寝する人が多数だ。

(あれだけはしゃげばね……)

 近嗣は、苦笑いしつつ眠っているみんなを眺める。
 起きているのは、近嗣と美羽と会計の橋蔵はしくらだけだった。
 聡は特に疲れているのか熟睡していて近嗣はクスリと笑う。

「橋蔵くんは眠くないのか?」

 美羽の問いかけに橋蔵は頷いた。

「会長、僕は体育会系じゃないんです。みんなに付き合ってられません」

 見た目からしても、橋蔵は家からでなそうだ。

「なるほどね。それでも一緒に来てくれたんだろう?」
「まぁ……副会長に強引に……」

 照れた橋蔵を見れば、生徒会の仲の良さがわかって微笑ましい。

「それなら、今のうちにみんなの分の飲み物でも買ってくるとしよう」
「僕、重い物も持てないですが……」
「ああ。わかってるよ。糸崎くん、手伝ってくれるだろう?」

 美羽が近嗣に視線を寄越す。
 近嗣はコクリと頷いた。

「それじゃ、僕は糸崎くんと行ってくるから、橋蔵くんはみんなの事をよろしく」
「はい」

 近嗣は、美羽の後を付いていく。
 みんなとある程度離れたところで美羽が隣に並んできた。
 近嗣を見てニヤリと笑う。

「チカ、少し二人で遠回りでもするか?」
「いいの?」
「ああ。僕も二人で話したかったからな」

 近嗣は、美羽の言葉にウキウキとする。

「──うん……その顔は僕にだけ向けられる顔だな……」

 近嗣は、美羽が言った言葉に首を傾げる。

「おい。なんで不思議そうなんだ……僕だってやきもちぐらい──」

 美羽はそこまで言って顔を赤くして近嗣から視線を逸らした。
 そんな美羽が可愛いと思う。

「みぃちゃん、やきもちやいたの?」
「チカが──っ!」

 そこで一旦言葉を切った。
 美羽は、ニコニコする近嗣に真っ赤になりながら小声で話してくれた。

「……信谷と楽しそうに話してるからだろ……」

 聡と話していたのが気に入らなかったらしい。
 もしかして、あのビーチボールはわざとなのかと思うと、自然と近嗣の顔がニヤける。

「みぃちゃん……」
「その顔やめろ」
「どんなの?」
「嬉しそうにするなって」

 近嗣がクスクスと笑えば、美羽は恥ずかしそうだ。
 そんなやり取りをするのが楽しかった。
 綺麗な砂浜と青い空と海。そこに美羽と二人で歩いているのだ思うと近嗣の胸は期待に膨らんだ。
 それは、美羽も同じだ。

「チカ……こっち」

 美羽に腕を掴まれて、人のいるビーチとは逆の方へグングン引っ張られた。
 近嗣と美羽は、誰にも見つからないような影になった岩影で二人きりになった。

 絡まる視線がお互いの気持ちを昂らせていった。
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