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蚊帳の外と隣人
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幸いにして彼女の口に私の食事は合っていたようで、美味しいと最初に漏らしてからゆっくりと食べ進めてくれた。
私も特に何を話しかけるでもなく黙ってくるくると麺をフォークに巻きつけ口に運ぶ。それを何度か繰り返し、あっという間に空になった。
作ってから少し多いかと心配していたが、簡単にお腹に収めることができた。もちろん、毎日こんなに食べたら体型を崩してしまうからたまにのことにしておくつもりだ。こうやって美味しく食べられたのも――会話こそないものの――誰かと一緒に食事を摂ったせいかもしれない。
「ごちそうさまです」
「お粗末さまでした」
私に少し遅れ、彼女も食事を終える。その瞳には生気がやどり、血色もずいぶん良くなっているように見える。もちろん、医学的な部分は私は素人だから、あくまでもぱっと見の印象に過ぎないのだが。
「……ところで、これは、その、どういった状況なのでしょうか?」
彼女はそう言って私の方を見てくる。さっきまで元気になったように見えた彼女の顔だが、今度は冷や汗をだらだらとかき、何とも言えない絶望的な表情になっている。
「ええ。そろそろ、あなたのお迎えもいらっしゃいますからそのときにまとめてご説明致しますので――」
というところで、インターフォンが鳴る。ああ、どうやらいらっしゃったようだ。
「大変ご迷惑をおかけしました!」
私の部屋の玄関にて、名刺を頂いた後の開口一番。金髪の彼女――佐須杜ナコさんが90度の角度で頭を下げる。私の方に突き出している豪奢な箱は菓子折りのようだ。
「これはわざわざどうも。とりあえず、お上がり下さい」
「失礼致します」
顔を上げた彼女はそこそこ背が高く、170センチ前後はありそうだ。そこで金髪、黒スーツと来ると中々に威圧感がある。私がもう少し若かったのであれば多少気になっていたかもしれないが、もうこの年齢だと全然気にならない。こういうところを捉えて「植物のようだ」とか言われてしまうのだろうが、そのような性分なのだから仕方ないだろう。
「あ、佐須杜さん!どういう状況ですかー?」
「シノ! 隣人さんに迷惑を掛けているんじゃねえ!」
佐須杜さんはどたどたとソファーに歩いて行き、隣人の彼女に思い切りげんこつを落とす。あそこまで勢いのいい拳は随分と久しぶりに見たかもしれない。
「いっ……!」
隣人の彼女は声にならない声を上げる。そしてそのまま、佐須杜さんが説教をし始める。
「お前、一応プロの漫画家だとかイラストレーターだとかだろ! 体調管理くらいしっかりしろや!」
「ちょっと! まだ状況も全然わかんないのに急に怒らないでよ!」
「怒るわ! お前、廊下でぶっ倒れていたそうじゃねえか! 隣人の目島さんが助けてくれなかったら普通にやばかったろうが!」
「倒れて……! え、そうなの! どういうことなの?!」
「知らんわ! とにかく、お前は……!」
彼女たちはやいのやいのと、大きな身振り手振りを交えながら騒いでいる。この中に無手で入っていく勇気も気力も私は持ち合わせていない。とりあえず、玄関の鍵を閉めて……温かいお茶を入れるところから始めよう。以前に購入して封も開けていない緑茶のパックがあったような気がする。来客用というわけではないがあまり使用していないカップがあるので、とりあえずそれを準備しよう。
私は彼女達の騒がしい声を聞き流しながら、ケトルを火にかけ、沸騰するのをゆっくりと待つのだった。
私も特に何を話しかけるでもなく黙ってくるくると麺をフォークに巻きつけ口に運ぶ。それを何度か繰り返し、あっという間に空になった。
作ってから少し多いかと心配していたが、簡単にお腹に収めることができた。もちろん、毎日こんなに食べたら体型を崩してしまうからたまにのことにしておくつもりだ。こうやって美味しく食べられたのも――会話こそないものの――誰かと一緒に食事を摂ったせいかもしれない。
「ごちそうさまです」
「お粗末さまでした」
私に少し遅れ、彼女も食事を終える。その瞳には生気がやどり、血色もずいぶん良くなっているように見える。もちろん、医学的な部分は私は素人だから、あくまでもぱっと見の印象に過ぎないのだが。
「……ところで、これは、その、どういった状況なのでしょうか?」
彼女はそう言って私の方を見てくる。さっきまで元気になったように見えた彼女の顔だが、今度は冷や汗をだらだらとかき、何とも言えない絶望的な表情になっている。
「ええ。そろそろ、あなたのお迎えもいらっしゃいますからそのときにまとめてご説明致しますので――」
というところで、インターフォンが鳴る。ああ、どうやらいらっしゃったようだ。
「大変ご迷惑をおかけしました!」
私の部屋の玄関にて、名刺を頂いた後の開口一番。金髪の彼女――佐須杜ナコさんが90度の角度で頭を下げる。私の方に突き出している豪奢な箱は菓子折りのようだ。
「これはわざわざどうも。とりあえず、お上がり下さい」
「失礼致します」
顔を上げた彼女はそこそこ背が高く、170センチ前後はありそうだ。そこで金髪、黒スーツと来ると中々に威圧感がある。私がもう少し若かったのであれば多少気になっていたかもしれないが、もうこの年齢だと全然気にならない。こういうところを捉えて「植物のようだ」とか言われてしまうのだろうが、そのような性分なのだから仕方ないだろう。
「あ、佐須杜さん!どういう状況ですかー?」
「シノ! 隣人さんに迷惑を掛けているんじゃねえ!」
佐須杜さんはどたどたとソファーに歩いて行き、隣人の彼女に思い切りげんこつを落とす。あそこまで勢いのいい拳は随分と久しぶりに見たかもしれない。
「いっ……!」
隣人の彼女は声にならない声を上げる。そしてそのまま、佐須杜さんが説教をし始める。
「お前、一応プロの漫画家だとかイラストレーターだとかだろ! 体調管理くらいしっかりしろや!」
「ちょっと! まだ状況も全然わかんないのに急に怒らないでよ!」
「怒るわ! お前、廊下でぶっ倒れていたそうじゃねえか! 隣人の目島さんが助けてくれなかったら普通にやばかったろうが!」
「倒れて……! え、そうなの! どういうことなの?!」
「知らんわ! とにかく、お前は……!」
彼女たちはやいのやいのと、大きな身振り手振りを交えながら騒いでいる。この中に無手で入っていく勇気も気力も私は持ち合わせていない。とりあえず、玄関の鍵を閉めて……温かいお茶を入れるところから始めよう。以前に購入して封も開けていない緑茶のパックがあったような気がする。来客用というわけではないがあまり使用していないカップがあるので、とりあえずそれを準備しよう。
私は彼女達の騒がしい声を聞き流しながら、ケトルを火にかけ、沸騰するのをゆっくりと待つのだった。
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