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土下座と隣人
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「本当にご迷惑をお掛けしましたー!」
私がお茶を準備してリビングに持っていこうとしたところで、隣人の彼女(シノさん?)は私に対して土下座を敢行してきた。三十年の人生で、人間の、しかも年若い女性のそんな姿を初めて見てしまった。あらゆる経験は私の人生の糧になる、そういったことを日々思うところではある。しかし、果たしてこの経験を糧にすると一体どんな人生になってしまうのか、あまり想像したくもない。
「あの、どうぞお気になさらないで下さい。むしろそういう感じに謝られても困ってしまいますので……」
正直な気持ちである。こんなところを会社の人に見られでもしたらあっという間に解雇一直線だ。
「おら! 目島さんが困っていらっしゃるだろうがっ。勢いで動くのをやめろといつも言っているだろう!」
「はいっ、恐縮です! 申し訳ないですっ」
そう言って彼女はバッと機敏な動きで立ち上がり、私に向かって敬礼をする。……最近の若い子では敬礼が流行っているのだろうか。しかし、サンプルが特殊過ぎる気もするのであまり参考にはならないだろう。
「とりあえず、何が起こっていたのか話を伺わせて頂けますでしょうか。お茶も用意しましたので」
私はリビングのテーブルにお茶を並べ、彼女達にソファーに座るように促す。二人共恐縮しながらも、とりあえず座ってくれた。
「えー、改めまして目島誠司と申します。このような形で隣人の方と顔を合わせることになるとは思っておりませんでしたが、どうぞよろしくお願い致します」
「いえ、目島さんは何も気になさらないで下さい。悪いのは全てコイツですから」
佐須杜さんはギラついた目で隣の彼女をにらみつける。何となくだが、彼女は礼儀とかそういったものに厳しいのかもしれないと思った。
「弁解のしようもございません……あの、わたしは人栄シノと申します。お隣に住まわせてもらっておりました……えー、絵とかを描きながら生計を立てようと日々努力をしている者です……」
「改めまして、私はこれの担当編集をしている佐須杜ナコと申します。繰り返しになりますが、うちの者がご迷惑をおかけしまして、そしてお助けして頂き感謝の言葉もございません」
やはりというか何というか、そういうお二人らしい。隣から漏れ聞こえる会話から何となく推察していたが、ぴったりと当たっていたようだ。
しかし、初めてこのような職種の方とお会いしたが、高校のジャージと金髪スーツという格好でも、何となくそれらしく見えてしまうのは私の偏見だろうか。
「あまりお気になさらないで下さい。ところで、人栄さんが倒れられていたのは何か持病でも……失礼、少し突っ込んだことを聞きすぎました」
自分の家だと気が緩んでいるのか。会社内なら気軽には聞けないことをつい口に出してしまった。
「いえ、締切りに追われて食事とか睡眠とかが雑になっていただけなんですうー……」
人栄さんは急激に死んだ目になる。ああ、うん。やはりというかなんというか大変なようだ。
「ああ、いえ。命に別状がないのなら僥倖です」
「目島さんには本当にお世話になりまして……あまり長居をしてもご迷惑でしょうし、そろそろ失礼させて頂こうかと……」
佐須杜さんはお茶をぐっと飲み干してからそんなことを言う。まあ、特に引き止める理由もないので、そのまま帰ってもらうということで良いだろう。
「ああ、そういうことでしたら」
私と佐須杜さんはすっと立ち上がり玄関の方に向かう。状況にあまりついていけていないのか、慌てて立ち上がり人栄さんも着いてくる。
「それでは失礼致します。この度は本当にありがとうございました」
佐須杜さんは綺麗にお辞儀をして、それを真似するようにジャージと眼鏡の人栄さんも頭を下げる。社会人経験の差なのか、大人と学生のようにも見えた。
彼女達が帰った後のリビングにはカップが三個。急に静かになったような気がして、なんとも言えない気分だった。
……しかし、ぼうっとしているのもあれなので、本来の休日、つまりコーヒーを片手に読書という作業に勤しむことにしようと思う。もはや冷たく、酸味が出てしまっているコーヒーもこれはこれで悪くない。
私がお茶を準備してリビングに持っていこうとしたところで、隣人の彼女(シノさん?)は私に対して土下座を敢行してきた。三十年の人生で、人間の、しかも年若い女性のそんな姿を初めて見てしまった。あらゆる経験は私の人生の糧になる、そういったことを日々思うところではある。しかし、果たしてこの経験を糧にすると一体どんな人生になってしまうのか、あまり想像したくもない。
「あの、どうぞお気になさらないで下さい。むしろそういう感じに謝られても困ってしまいますので……」
正直な気持ちである。こんなところを会社の人に見られでもしたらあっという間に解雇一直線だ。
「おら! 目島さんが困っていらっしゃるだろうがっ。勢いで動くのをやめろといつも言っているだろう!」
「はいっ、恐縮です! 申し訳ないですっ」
そう言って彼女はバッと機敏な動きで立ち上がり、私に向かって敬礼をする。……最近の若い子では敬礼が流行っているのだろうか。しかし、サンプルが特殊過ぎる気もするのであまり参考にはならないだろう。
「とりあえず、何が起こっていたのか話を伺わせて頂けますでしょうか。お茶も用意しましたので」
私はリビングのテーブルにお茶を並べ、彼女達にソファーに座るように促す。二人共恐縮しながらも、とりあえず座ってくれた。
「えー、改めまして目島誠司と申します。このような形で隣人の方と顔を合わせることになるとは思っておりませんでしたが、どうぞよろしくお願い致します」
「いえ、目島さんは何も気になさらないで下さい。悪いのは全てコイツですから」
佐須杜さんはギラついた目で隣の彼女をにらみつける。何となくだが、彼女は礼儀とかそういったものに厳しいのかもしれないと思った。
「弁解のしようもございません……あの、わたしは人栄シノと申します。お隣に住まわせてもらっておりました……えー、絵とかを描きながら生計を立てようと日々努力をしている者です……」
「改めまして、私はこれの担当編集をしている佐須杜ナコと申します。繰り返しになりますが、うちの者がご迷惑をおかけしまして、そしてお助けして頂き感謝の言葉もございません」
やはりというか何というか、そういうお二人らしい。隣から漏れ聞こえる会話から何となく推察していたが、ぴったりと当たっていたようだ。
しかし、初めてこのような職種の方とお会いしたが、高校のジャージと金髪スーツという格好でも、何となくそれらしく見えてしまうのは私の偏見だろうか。
「あまりお気になさらないで下さい。ところで、人栄さんが倒れられていたのは何か持病でも……失礼、少し突っ込んだことを聞きすぎました」
自分の家だと気が緩んでいるのか。会社内なら気軽には聞けないことをつい口に出してしまった。
「いえ、締切りに追われて食事とか睡眠とかが雑になっていただけなんですうー……」
人栄さんは急激に死んだ目になる。ああ、うん。やはりというかなんというか大変なようだ。
「ああ、いえ。命に別状がないのなら僥倖です」
「目島さんには本当にお世話になりまして……あまり長居をしてもご迷惑でしょうし、そろそろ失礼させて頂こうかと……」
佐須杜さんはお茶をぐっと飲み干してからそんなことを言う。まあ、特に引き止める理由もないので、そのまま帰ってもらうということで良いだろう。
「ああ、そういうことでしたら」
私と佐須杜さんはすっと立ち上がり玄関の方に向かう。状況にあまりついていけていないのか、慌てて立ち上がり人栄さんも着いてくる。
「それでは失礼致します。この度は本当にありがとうございました」
佐須杜さんは綺麗にお辞儀をして、それを真似するようにジャージと眼鏡の人栄さんも頭を下げる。社会人経験の差なのか、大人と学生のようにも見えた。
彼女達が帰った後のリビングにはカップが三個。急に静かになったような気がして、なんとも言えない気分だった。
……しかし、ぼうっとしているのもあれなので、本来の休日、つまりコーヒーを片手に読書という作業に勤しむことにしようと思う。もはや冷たく、酸味が出てしまっているコーヒーもこれはこれで悪くない。
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