テレワークから始まる大人の恋もある。

みょうじん

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ばんごはんと隣人

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「……」
「……」
昨晩とは打って変わって、実に静かな食事だった。気まぐれに付けたテレビから流れるニュースでは近くにできた遊園地について特集をしているが、あまり興味を惹かれるような内容ではない。
ちらりと人栄さんの顔を見やる。彼女はうつむきがちではあるものの、食事は美味しく食べてくれているようだ。しかし、彼女の雰囲気は今まで見たものとは全然違って、少々驚かされる。昨日の天真爛漫な彼女、その前の倒れてきていたときのぼんやりした彼女、そして今の人見知りを体現したような彼女。その雰囲気には大きめのフレームの眼鏡はよく似合っているのは間違いないが、色々とギャップが大きくてついていけない。
「ごちそうさまです」
とりあえず、食事は食べ終わった。美味しい、というほどの料理ではないが少なくともなんとなく身体に良さそうなものを食べられたので満足だ。
「ごちそうさまです……」
彼女も程なくして食べ終わった。綺麗に残さずに食べてくれていることから少なくとも不味かったわけではないのだろう。
「お粗末さまでした」
彼女は申し訳無さそうにして私に話しかけてくる。
「あの……色々とすいません」
「あまり気にしないで下さい。これも何かの縁でしょうし」
「あ……はい、ありがとうございます」
人栄さんは深々と頭を下げる。
「しかし、その、随分雰囲気が違いますね」
思い切って聞いてみることにした。普段なら絶対にしないことだが、何となく気が緩んでいるのかもしれない。
「えっと、私、人見知りでして……ナコちゃんみたいに気心の知れた人と一緒なら明るく振る舞えるんですけれど……あ、目島さんのことを嫌いとか、そういうことではないです!」
つっかえつつも彼女は自分の言葉を選んでしっかり所見を述べてくれる。
「そうでしたか」
「いえ、あの、実はその中学生のときに両親を亡くしまして、その、塞ぎ込んだ時期が長くてですね、ええ、でもその分ずっと絵ばかり描いていたからいまお仕事もらえていると言うか、あっと、それで、高校生の頃にナコと出会って、色々話しかけてくれて、いつの間にか彼女、と、一緒だと結構話せるように、ね、なったの、ですか?」
彼女は早口で一気に、結構彼女の人生の中でも重大なことを私なんぞに教えてくれる。なるほど、彼女の『人見知り』は、無口になってしまうというよりは話すことができない、というタイプのようだ。しかし、やや支離滅裂になりながらも彼女の雰囲気の相違の要因は一応把握できた。
一瞬、私はどう返すべきか迷った。一つは会社でやるように曖昧に返すという方向性だ。波風も立たず、正に安全策だ。しかし、彼女の言っていたことは私にもかなり刺さる部分があった。だからこそ、私はもう一つの方を選ぶことにした。すなわち、少しだけ、私も胸襟を開いて話してみるという方向性だ。
「……そうでしたか。軽々にこのようなことを言うのは憚られますが、私も少しその当時の気持ちが分かるような気がします」
「……そう、なのです?」
「私も、22歳、会社に入社したばかりの頃に両親を事故で亡くしました。そのときは、なんというか、かなりキツかったので……しかし、私もあなたと同じように、良い人のめぐりあいがあり、今もこうしてなんとか生きているのです。私のこの性格もそのことの影響が大きいようで、部下からは『観葉植物みたい』と言われてしまいます」
こうやってそのときのことを、ちゃんと話すのは初めてだ。しかし、私も誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。少しだけ、胸の中の何かが緩んだような気がした。
ちなみに、そのときの私の上司が「仕事していた方が落ち着くというのなら、これをやってみるか?」と任された関係の仕事が、今の私の職分になっている。そのときは全てを忘れたくて取り憑かれたようにやっていたものだが、今では妙に私に馴染んでいる。ほとんど文書と向き合う仕事で、会議が多くないのも魅力的だ。
「なんだか、気が、合いますね?」
彼女は気の毒そうに私を見ながらも、少し落ち着いた様子だ。胸襟を開いたことは悪くない選択肢だったようだ、彼女にとっても、私にとっても。
「そうですね。……お茶を淹れますが、飲みますか?」
「はい、いただきます」

私達は特に何も話すでもなく、ただテレビを眺めながらお茶を飲むという時間を共有した。変な緊張感もなく、本当に静かで穏やかな時間だった。
21時を過ぎた頃で彼女は立ち上がる。
「流石に、これ以上お邪魔するのも、駄目、だと思いますので……」
「ああ、長くお引き止めしまして、申し訳ありません」
彼女は首を振り、少しだけはにかむように歯を見せる。その顔には、部屋に入ってきたときのしどろもどろな様子は無かった。
「いえ、楽しかった……ううん、とても落ち着く時間でした。あの……またこうやってお茶を飲みにきて良いでしょうか?」
「もちろん。安物のお茶しかありませんが、それでもよければいつでもお越しください」
彼女は、今度は間違いなく笑顔を見せてくれた。私達は連絡先を交換して、この会をお開きにするのだった。
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