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再訪と隣人
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佐須杜さんはまだ若干落ち込んでいたものの、人栄さんがそれをなだめて二人はほどなく帰宅していった。
私はようやく落ち着くことができたので、ひとまず……夕食を作ることにした。しかし、冷蔵庫には何一つ入っていない。出前という悪魔の誘惑が私を襲ったが、それを振り払う。最近外食し過ぎなのだから、野菜たっぷりのスープを飲むべきだし、飲みたいのだ。
スープ。きちんと作ろうとすれば結構大変だ。丁度良い食感になるように野菜ごとに適切な大きさに切り揃えたり、適切な順番・タイミングで煮込んだり、揚げたり、焼いたり……そういう面倒なことを今日はしない。手抜き万歳。
そういうわけで、とにかく雑に切り刻んだ野菜類に若干のベーコンをこれでもかと鍋にいれる。そこにコンソメと月桂樹、ホールトマトの缶詰を入れて煮込む。あっという間に健康野菜スープの完成だ。
ここにショートパスタを入れても美味しいのだが、今日は止めておく。一番安いものから三番目くらいの六枚切りの食パンをトースターで焼き、バターをほどほどに乗せたものを主食としよう。
食パンをトースターにセットして、焼き上がるのを待つ。
しかし、そこでインターホンが鳴り響く。全く予想なんてしてない来客に私は少々驚いてしまった。
「はい、どちら様でしょうか」
私は慌てて、『通話』のスイッチを押しながら、玄関ドアの外側を写すディスプレイを確認する。
「あ、あの。すいません、人栄です……わす、忘れ物をしてしまってようでして」
そこにいたのは昨晩の服装よりもかなりリラックスした装いの人栄さんだった。オーバーサイズの白いシャツの袖を肘辺りまでまくりあげていて、真っ白な腕がそこから覗いている。
「ああ、こんばんは。いま開けますので」
そういえば、彼女が帰宅した後のベッドルームをきちんと確認していなかった。私は玄関を開けて彼女を迎え入れる。
「す、すいません……えっと、多分スマートフォンがどこかに、あるんではないかとですね……」
彼女の様子は、一言で表現するなら『しどろもどろ』である。明るく、爛漫だった彼女はどこに行ってしまったのか。心なし、腰も引けているように見える。
「あ、ああ。どうぞ、適当に探してください」
「しつ、れいしますー」
彼女はおっかなびっくりな足取りで私の寝室の方に消えて行く。そして程なく、その手に真っ黒な装飾もなにもないスマートフォンを持ってきた。
「ありました!」
彼女は嬉しそうに私にそれを見せつける。矢賀さんが持っているごてごてでラメラメなものと比較して、あまりにそっけない実用品という風体だ。もしかしたらそもそもあまり使用していないのかもしれない。
「それは良かった」
きゅう、という擬音で表現するのが適切だろうか。私の正面、つまり彼女の方、もっと具体的には彼女のお腹の辺りから可愛らしい音がした。それが何なのか分かりきっているので私は詮索するような真似はしない。聞かなかった振りをするのがマナーというものだろう。
「あ、いや、その!この音はですねっ!」
しかし、人栄さんはその体調が不安になるくらい顔を真っ赤にしてわたわたと両手を振って言い訳しようとする。
「何のことでしょうか?」
私は暗に『何も聞いていませんよ』ということを伝えたつもりだったが、彼女はその意図を酌んでくれなかった。
「その!昨晩から何もですね、食べていないのですね!だから……仕方ないんですう」
次第に小さな声になっていき、お尻の方はほとんど聞き取れなかった。
「……簡単なものよろしければお食べになりますか?スープとパンだけですが」
気付けば私は彼女に提案していた。お腹が空いた人間を見過ごすことはできない。しっかり食べて、しっかり運動して、よく眠る。人間の生活の基本なのである。
「えっと……じゃあ、いただきます」
幸いにも彼女はこの提案を受けいれてくれた。なんだか、彼女と頻繁に食事をとっているような気がするのだが、そういう日が続くこともあるだろう。
こうして私は再び彼女と食事をともにすることになった。
私はようやく落ち着くことができたので、ひとまず……夕食を作ることにした。しかし、冷蔵庫には何一つ入っていない。出前という悪魔の誘惑が私を襲ったが、それを振り払う。最近外食し過ぎなのだから、野菜たっぷりのスープを飲むべきだし、飲みたいのだ。
スープ。きちんと作ろうとすれば結構大変だ。丁度良い食感になるように野菜ごとに適切な大きさに切り揃えたり、適切な順番・タイミングで煮込んだり、揚げたり、焼いたり……そういう面倒なことを今日はしない。手抜き万歳。
そういうわけで、とにかく雑に切り刻んだ野菜類に若干のベーコンをこれでもかと鍋にいれる。そこにコンソメと月桂樹、ホールトマトの缶詰を入れて煮込む。あっという間に健康野菜スープの完成だ。
ここにショートパスタを入れても美味しいのだが、今日は止めておく。一番安いものから三番目くらいの六枚切りの食パンをトースターで焼き、バターをほどほどに乗せたものを主食としよう。
食パンをトースターにセットして、焼き上がるのを待つ。
しかし、そこでインターホンが鳴り響く。全く予想なんてしてない来客に私は少々驚いてしまった。
「はい、どちら様でしょうか」
私は慌てて、『通話』のスイッチを押しながら、玄関ドアの外側を写すディスプレイを確認する。
「あ、あの。すいません、人栄です……わす、忘れ物をしてしまってようでして」
そこにいたのは昨晩の服装よりもかなりリラックスした装いの人栄さんだった。オーバーサイズの白いシャツの袖を肘辺りまでまくりあげていて、真っ白な腕がそこから覗いている。
「ああ、こんばんは。いま開けますので」
そういえば、彼女が帰宅した後のベッドルームをきちんと確認していなかった。私は玄関を開けて彼女を迎え入れる。
「す、すいません……えっと、多分スマートフォンがどこかに、あるんではないかとですね……」
彼女の様子は、一言で表現するなら『しどろもどろ』である。明るく、爛漫だった彼女はどこに行ってしまったのか。心なし、腰も引けているように見える。
「あ、ああ。どうぞ、適当に探してください」
「しつ、れいしますー」
彼女はおっかなびっくりな足取りで私の寝室の方に消えて行く。そして程なく、その手に真っ黒な装飾もなにもないスマートフォンを持ってきた。
「ありました!」
彼女は嬉しそうに私にそれを見せつける。矢賀さんが持っているごてごてでラメラメなものと比較して、あまりにそっけない実用品という風体だ。もしかしたらそもそもあまり使用していないのかもしれない。
「それは良かった」
きゅう、という擬音で表現するのが適切だろうか。私の正面、つまり彼女の方、もっと具体的には彼女のお腹の辺りから可愛らしい音がした。それが何なのか分かりきっているので私は詮索するような真似はしない。聞かなかった振りをするのがマナーというものだろう。
「あ、いや、その!この音はですねっ!」
しかし、人栄さんはその体調が不安になるくらい顔を真っ赤にしてわたわたと両手を振って言い訳しようとする。
「何のことでしょうか?」
私は暗に『何も聞いていませんよ』ということを伝えたつもりだったが、彼女はその意図を酌んでくれなかった。
「その!昨晩から何もですね、食べていないのですね!だから……仕方ないんですう」
次第に小さな声になっていき、お尻の方はほとんど聞き取れなかった。
「……簡単なものよろしければお食べになりますか?スープとパンだけですが」
気付けば私は彼女に提案していた。お腹が空いた人間を見過ごすことはできない。しっかり食べて、しっかり運動して、よく眠る。人間の生活の基本なのである。
「えっと……じゃあ、いただきます」
幸いにも彼女はこの提案を受けいれてくれた。なんだか、彼女と頻繁に食事をとっているような気がするのだが、そういう日が続くこともあるだろう。
こうして私は再び彼女と食事をともにすることになった。
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