テレワークから始まる大人の恋もある。

みょうじん

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爆弾と隣人

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「……こんにちは、人栄さん、佐須杜さん。奇遇ですね」
私は声のした方に向き直り挨拶する。取って付けたような笑顔だったかもしれないが、これくらいは許して欲しい。
「え、せんぱいのお知合いなんですか?!」
「ああ……まあね」
矢賀さんは何かを察したように一瞬はっとした顔になる。そして次の瞬間にはにんまりと笑う。ああ、くそ。これはもう、あれだ。
「初めまして!私は目島誠司さんの部下として働かせて頂いている矢賀エルと申しまっす!」
楽しそうな雰囲気を全く隠す気もない彼女は、人栄さんと佐須杜さんに挨拶する。
「ご丁寧にありがとうございます。私は佐須杜ナコと言います。出版社で働いておりまして、こちらの人の担当をしております」
流石、礼儀にうるさい社会人といった具合で、佐須杜さんは綺麗なお辞儀で矢賀さんに答える。
「えーっと、わたしは人栄シノと言いまして。イラスト描いたり、漫画を描いたりしている人間です」
こちらは少しだけたどたどしいが、以前に私の家で見たときほどではない。本人の弁によるのであれば、隣に佐須杜さんがいるから比較的普通に話すことができるのだろう。
「おふたりとも、誠司さんとはどういうお知合いなんですかあ?あまり接点がなさそうなんですけどお?」
あ、こいつ絶対分かっていて言ってるな。矢賀さんは確実にこの状況を楽しんでいるに違いない。
「私は……知合い?」
佐須杜さんはそう答えるしかないだろう。それ以上に説明しよう無いもの。そして問題の人栄さんは――
「いわゆるご近所さん、正確には目島さんのお隣に住まわせてもらっています!」
……うん、そうだよね。そりゃそう言うよね。矢賀さんの顔は怖くて見たくなかった。
「ほおー、へえー、なあるほどお」
しかし、それでもちらりと伺うと、もう楽しそうとかではなく、にやにやと歯を見せて笑顔を見せ始めている矢賀さんがいた。
「……矢賀さん、それくらいにして、ね。あまり引き止めても悪いから行くよ。それではお二人とも、失礼しますね」
私は話を打ち切るべく、そう告げる。矢賀さんは少し不満そうな顔を見せるが、私の言葉が正論と納得したのか「失礼しますね!」と告げて私の隣に立って外へ出ようとする。
そしてその去り際――
「はい、またそのうち」
「それでは!あっ、今度またお部屋にお邪魔しますね!良いお茶の葉を貰ったんですよ!」
最後に人栄さんに爆弾を投げられてしまった。

「……せいじさあーん」
矢賀さんは、店の外で妙に甘ったるい声を出す。
「……なんでしょうか?」
「いやあ、なんにもおー。ただ、誠司さんも隅に置けないなって、ねー」
「……そういう関係ではありませんよ」
彼女の顔を見ないようにしながら、私はぽつりと言葉を絞り出す。
「うーん、、そうでしょうねえ。いや、色々と楽しい食事でした!じゃあ、失礼しまっす!」
言いたいことを言って、矢賀さんは私の返事も聞かずに走り去ってしまった。その姿は私とは正反対に大変元気な様子だ。
「……帰ろう」
どこかの書店にでもよる予定だったのだが、そんな気分はすっかり消え失せていたのだった
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