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睡眠と隣人
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月曜日の朝、私はゴミを出すためにマンション入居者専用のステーションに来ていた。できる限りマメに出すようにしているが、それでも程々の量になってしまう。
「よしっ、終わり」
さて、部屋に戻って仕事を、と思ったところで人栄さんに遭遇した。
「おっと、おはようございます」
「お、おはようございます……」
彼女はビクッと肩を震わせた後、私だと気づいたようで深々とお辞儀をしつつ挨拶してくれた。
「……」
しかし、私は彼女の仕草よりもその顔色が気になった。青というより白に近い。あまりに酷いその雰囲気に思わず閉口してしまった。
「? む、難しい顔をされていますね?」
少しおどおどしながら彼女は尋ねてくる。
「いや、酷い、顔色ですよ?大丈夫ですか?」
「あの、その、あんまり眠ってなくて……」
彼女はゴミを置きつつそんなことを言う。
「お仕事、ですか?」
私達はステーションを出てエレベーターホールへと向かう。人栄さんの足元はやや覚束ない。見ていてとても心配になる。
「それもあると言えばあるんですが……あの、言っちゃいますと、もう長い間不眠症でして……」
不眠症。この10月にしては暖かな陽気の中に暗い影を落とす不穏な響き。私は眉に力が入るのを止められない。
「そう、でしたか。それはやはり……」
「はい、両親を亡くしたときから引きずっています。もう何年も経つのに、不思議なものですね」
何でもないことのように彼女は言うが、その表情にはどことなく他人事のような、現実感がないような。痛々しくて見ていられなかった。
「……何か、私にできることがあれば仰って下さい。社交辞令ではなく本心です」
自然とそんなセリフがわたしの口から漏れる。何かしてあげたい――そんな衝動に身を任せた結果だが、彼女は少し驚いた顔になる。踏み込みすぎた自覚はあるが、構うものか。
「……」
彼女は思案するような顔になり、エレベーターに一緒に乗り込む。そのまま彼女は沈黙を保ち続ける。
そしてあっという間に私達の部屋の階につく。構造上、ここには私と彼女の部屋しかないので誰とも顔を合わせることはない。
まあ、言うべきことは言ったのだ。ここらが潮時だろう。そのまま私は手前にある自分の部屋のドアノブに手をかけて――彼女が私に声をかける。
「あ、あの!」
その声はびっくりするほど大きなもので、彼女としても何か踏み込んだことを言おうとしていることを私は察した。
「あの……」
しかし、少し逡巡をしているのか、言葉は続かない。私は彼女に目線を合わせるために少し屈む。
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
まるで子供をあやしているようだ、なんて失礼なことを思ってしまう。しかし、彼女は何か大事なことを言おうとしているのは間違いない。
「……ベッドを」
「はい」
「ベッドを貸してもらえませんか!?」
あまりに予想外の方向に彼女は足を向け始めていた。もちろん冗談ではないのだろう。彼女は恥ずかしそうに目線を私からそらして、返事を待っている。
三十路の男が二十歳の女性を部屋に連れ込んで、挙げ句ベッドを貸す?
完全に問題行動で、私の中の倫理基準から大きく逸脱している。しかし、それでも――
「いいですよ」
私は自分のドアを大きく開きながら、そんなことを言っていた。なぜ受け入れたのか、私には分かっていなかった。
「よしっ、終わり」
さて、部屋に戻って仕事を、と思ったところで人栄さんに遭遇した。
「おっと、おはようございます」
「お、おはようございます……」
彼女はビクッと肩を震わせた後、私だと気づいたようで深々とお辞儀をしつつ挨拶してくれた。
「……」
しかし、私は彼女の仕草よりもその顔色が気になった。青というより白に近い。あまりに酷いその雰囲気に思わず閉口してしまった。
「? む、難しい顔をされていますね?」
少しおどおどしながら彼女は尋ねてくる。
「いや、酷い、顔色ですよ?大丈夫ですか?」
「あの、その、あんまり眠ってなくて……」
彼女はゴミを置きつつそんなことを言う。
「お仕事、ですか?」
私達はステーションを出てエレベーターホールへと向かう。人栄さんの足元はやや覚束ない。見ていてとても心配になる。
「それもあると言えばあるんですが……あの、言っちゃいますと、もう長い間不眠症でして……」
不眠症。この10月にしては暖かな陽気の中に暗い影を落とす不穏な響き。私は眉に力が入るのを止められない。
「そう、でしたか。それはやはり……」
「はい、両親を亡くしたときから引きずっています。もう何年も経つのに、不思議なものですね」
何でもないことのように彼女は言うが、その表情にはどことなく他人事のような、現実感がないような。痛々しくて見ていられなかった。
「……何か、私にできることがあれば仰って下さい。社交辞令ではなく本心です」
自然とそんなセリフがわたしの口から漏れる。何かしてあげたい――そんな衝動に身を任せた結果だが、彼女は少し驚いた顔になる。踏み込みすぎた自覚はあるが、構うものか。
「……」
彼女は思案するような顔になり、エレベーターに一緒に乗り込む。そのまま彼女は沈黙を保ち続ける。
そしてあっという間に私達の部屋の階につく。構造上、ここには私と彼女の部屋しかないので誰とも顔を合わせることはない。
まあ、言うべきことは言ったのだ。ここらが潮時だろう。そのまま私は手前にある自分の部屋のドアノブに手をかけて――彼女が私に声をかける。
「あ、あの!」
その声はびっくりするほど大きなもので、彼女としても何か踏み込んだことを言おうとしていることを私は察した。
「あの……」
しかし、少し逡巡をしているのか、言葉は続かない。私は彼女に目線を合わせるために少し屈む。
「ゆっくりで大丈夫ですよ」
まるで子供をあやしているようだ、なんて失礼なことを思ってしまう。しかし、彼女は何か大事なことを言おうとしているのは間違いない。
「……ベッドを」
「はい」
「ベッドを貸してもらえませんか!?」
あまりに予想外の方向に彼女は足を向け始めていた。もちろん冗談ではないのだろう。彼女は恥ずかしそうに目線を私からそらして、返事を待っている。
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