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毛布と隣人
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ときに、私は寒いのが苦手だ。正確には、冬も雪も好きではあるのだが、非常に寒がりなのである。そういうわけで、11月に入ったばかりの我が寝床には羽毛布団、毛布、毛布、枕二個という中々の重装備になっている。もちろん、電気毛布もすでに使用しているのは言うまでもない。一人で使うにはあまりに大きいキングサイズのベッドなのだが、実際に使ってみるともうこれよりも小さいサイズになることは考えられず、重装備の掛け布団達と相まって壮観な光景だと思う。
そんなことをベッドを前にして考えているのだが、それよりも目の前の人栄さんのことである。
「人栄さん、もう夕方ですよ」
もうすぐ完全に日も落ちるという時間。仕事を終えて、彼女に再度声を掛けたが相変わらず返事がないので、流石にベッドルームに侵入したのである。彼女は一つの枕を頭の下に、もう一つの枕を腕の中に抱えてぐっすりと眠っていた。今朝見たときは心配になるほどの顔色だったが、すっかり良くなっており非常に穏やかな表情になっていた。
「人栄さん」
「ん……」
もう一度声を掛けると今度は軽く反応があり、彼女はうっすらと目を開け始めた。
「おはようございます」
「んー……」
しかし、その反応は悪く、まだ夢の世界から完全に帰ってきているわけではないようだ。
「晩ごはんは食べていきますか?」
「んー……食べるう」
まぶたは開いたり閉じたりしているものの、彼女は肯定の意思を示してくれた。
「分かりました。適当に作りますので、目が覚めたらリビングで待っていて下さい」
「はあーい……」
多分起きてくるだろうと思ったので、私はベッドルームを出ていく。その際、念の為にドアは開けっ放しにして、リビングから蛍光灯の光が差し込むようにしておく。
今日の晩御飯はミートソースのパスタとレタスとパプリカのサラダにする。先日、急に食べたくなったので材料を揃えておいたのだ。
軽くオリーブオイルを引き、豚と牛の合い挽き肉と玉ねぎを炒める。その際に故障と塩でしっかり味を付けるのを忘れない。大体炒めることができたら、そこにホールトマトの缶詰と赤ワインをいれ、後は煮詰めるだけだ。隠し味にウスターソースをいれて味を整える。
ミートソースの水分量を減らしている間に、レタスとパプリカを適当に洗い、包丁で切り刻んで器に盛る。少々サラダの量が多くなってしまったが、残った場合には明日の昼食に食パンに挟んで食べればいいので問題はない。
ミートソースの完成までもう少しという段階で、鍋にお湯を張って火にかけ始める。鍋の中でぐらぐらと水が沸騰し、230g分のパスタを入れたところで、人栄さんが寝室から出てきた。まだ完全には起きていないようで、毛布にくるまって、端の部分を引きずりながらの状態だ。彼女はそのままソファーにすとんと座り、つけっぱなしになっていたテレビを眺めている。
やはり体調は良くなっているようで、足取り自体は悪くない。
「人栄さん、もうすぐできますので」
「……ん」
さて、今更ながら寝起きの人にミートソースは重いかもしれないという考えが頭をよぎるのだが……まあ、作ってしまったものは仕方がない。
彼女は反応が薄いものの、しっかり完食してくれたので良しとしよう。ちなみに食べている間もずっと毛布にくるまったままだった。その後、すっかり定番になりつつあるお茶を入れて、また何もない時間を過ごす。
「ねえー……」
20時を過ぎた辺りで、人栄さんは溶けて消えそうな声で私に声を掛けてくる。
「そろそろ帰られますか?」
「うん……あと、この毛布借りていい?」
彼女はよっぽど気に入ったのかそんなことを言う。
「そんなに気に入りました?」
「うん。すごく、落ち着くいい匂いがする」
そう言われて嬉しいやら恥ずかしいやら。少なくとも加齢臭がするとか言われるよりもずっと良い。まあ、予備の毛布があったはずなので貸してしまっても一向に構わなかった。
「ええ、もちろん」
「やったあ……じゃあ帰るねえ」
彼女はそのままずるずると毛布を引きずって出て行ってしまった。
「……結局、食事をとってもぼんやりしたままだったな」
それはそれで不安であるが、何かあればまた声を掛けてくれるだろう。私は二人分の皿を洗って、今日一日を締めくくるべく風呂の準備をし始めた。冬の匂いを感じ始めたことに合わせ、温度を一度だけ上げることにした。
そんなことをベッドを前にして考えているのだが、それよりも目の前の人栄さんのことである。
「人栄さん、もう夕方ですよ」
もうすぐ完全に日も落ちるという時間。仕事を終えて、彼女に再度声を掛けたが相変わらず返事がないので、流石にベッドルームに侵入したのである。彼女は一つの枕を頭の下に、もう一つの枕を腕の中に抱えてぐっすりと眠っていた。今朝見たときは心配になるほどの顔色だったが、すっかり良くなっており非常に穏やかな表情になっていた。
「人栄さん」
「ん……」
もう一度声を掛けると今度は軽く反応があり、彼女はうっすらと目を開け始めた。
「おはようございます」
「んー……」
しかし、その反応は悪く、まだ夢の世界から完全に帰ってきているわけではないようだ。
「晩ごはんは食べていきますか?」
「んー……食べるう」
まぶたは開いたり閉じたりしているものの、彼女は肯定の意思を示してくれた。
「分かりました。適当に作りますので、目が覚めたらリビングで待っていて下さい」
「はあーい……」
多分起きてくるだろうと思ったので、私はベッドルームを出ていく。その際、念の為にドアは開けっ放しにして、リビングから蛍光灯の光が差し込むようにしておく。
今日の晩御飯はミートソースのパスタとレタスとパプリカのサラダにする。先日、急に食べたくなったので材料を揃えておいたのだ。
軽くオリーブオイルを引き、豚と牛の合い挽き肉と玉ねぎを炒める。その際に故障と塩でしっかり味を付けるのを忘れない。大体炒めることができたら、そこにホールトマトの缶詰と赤ワインをいれ、後は煮詰めるだけだ。隠し味にウスターソースをいれて味を整える。
ミートソースの水分量を減らしている間に、レタスとパプリカを適当に洗い、包丁で切り刻んで器に盛る。少々サラダの量が多くなってしまったが、残った場合には明日の昼食に食パンに挟んで食べればいいので問題はない。
ミートソースの完成までもう少しという段階で、鍋にお湯を張って火にかけ始める。鍋の中でぐらぐらと水が沸騰し、230g分のパスタを入れたところで、人栄さんが寝室から出てきた。まだ完全には起きていないようで、毛布にくるまって、端の部分を引きずりながらの状態だ。彼女はそのままソファーにすとんと座り、つけっぱなしになっていたテレビを眺めている。
やはり体調は良くなっているようで、足取り自体は悪くない。
「人栄さん、もうすぐできますので」
「……ん」
さて、今更ながら寝起きの人にミートソースは重いかもしれないという考えが頭をよぎるのだが……まあ、作ってしまったものは仕方がない。
彼女は反応が薄いものの、しっかり完食してくれたので良しとしよう。ちなみに食べている間もずっと毛布にくるまったままだった。その後、すっかり定番になりつつあるお茶を入れて、また何もない時間を過ごす。
「ねえー……」
20時を過ぎた辺りで、人栄さんは溶けて消えそうな声で私に声を掛けてくる。
「そろそろ帰られますか?」
「うん……あと、この毛布借りていい?」
彼女はよっぽど気に入ったのかそんなことを言う。
「そんなに気に入りました?」
「うん。すごく、落ち着くいい匂いがする」
そう言われて嬉しいやら恥ずかしいやら。少なくとも加齢臭がするとか言われるよりもずっと良い。まあ、予備の毛布があったはずなので貸してしまっても一向に構わなかった。
「ええ、もちろん」
「やったあ……じゃあ帰るねえ」
彼女はそのままずるずると毛布を引きずって出て行ってしまった。
「……結局、食事をとってもぼんやりしたままだったな」
それはそれで不安であるが、何かあればまた声を掛けてくれるだろう。私は二人分の皿を洗って、今日一日を締めくくるべく風呂の準備をし始めた。冬の匂いを感じ始めたことに合わせ、温度を一度だけ上げることにした。
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