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佐須杜さんのお願いと隣人
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今日のランチはピザのセットである。さっぱりしたマルゲリータも良いが、チーズたっぷりのものも捨てがたい。私がメニューを見ながら迷っていると、佐須杜さんは助け舟をだしてくれる。
「目島さん、違うものを頼んでシェアしましょうか」
「良いのですか?」
「もちろん。私は……このゴルゴンゾーラチーズのにします」
「ありがとうございます。私はマルゲリータで」
「さっぱりした基本が一番ですよね」
そんな訳で二人して別々のものを注文する。セットの飲み物が先に来たので、早速乾杯をする。流石にお酒ではなく、私は炭酸水、彼女はオレンジジュースだ。
「色々お世話になっています」
「こちらこそ。日々に彩りが生まれていますよ」
私がそんな言葉を伝えると、佐須杜さんは微妙な表情になる。
「……皮肉ではないですよね?」
「違います」
「良かった。あの、何というか……シノが迷惑を掛けているようで……」
「迷惑なんてことはないですが、どこまで聞いてます?」
「あーっと、例えば『今日のミートソースは美味しかった』とか、『目島さんのベッドで寝ているから調子がいい!』とか。大体全部把握していると思います」
そうやって言及されると何とも気恥ずかしい。ただでさえ10歳も年下の女性が家に入り込んでいるのだ。人によっては醜聞だと言って憚らないだろう。
「……お恥ずかしい限りです」
私がそんなことを呟くと、佐須杜さんは慌ててそれを否定してくる。
「いやそんな!むしろシノの側に目島さんのような人が居て、私としては安心です」
「そうなのですか?」
彼女はオレンジジュースを半分ほど一気に飲んでから言葉を続ける。
「もう聞いているでしょうが、その……シノはあまり人と話すのが得意じゃないんです」
「ええ、何となく聞いております」
『人と話すのが得意じゃない』。その言葉に含まれる色々な要素に思いを馳せつつ、ちらりと炭酸水から生じる僅かな泡沫に目をやる。
「私が高校の頃に出会ったときはもっと酷かったのですが、徐々に改善されていたように思います。しかし、まあ、ああいう職業に就いているとまた元に戻りそうだなと危惧しておりました。人との付き合いもほとんど私だけになっていたようですし」
確かに、私もテレワークになってから随分人付き合いは減ってしまった。それでも矢賀さんとは比較的頻繁に会話をするし、会議に出席すれば他の部署の人達となんだかんだ雑談する。
対して、人栄さんの仕事だと、ほとんどがパソコンの前で向き合っている時間ばかりなのだろう。あくまで想像だが佐須杜さんの話と合わせて考えると、当たらずとも遠からずと思う。
「親友として何かしてあげたい、と思って色々考えていたところに、目島さん。あなたが現れたというわけです」
「出会いは中々滅茶苦茶でしたけどね」
実際はほんの少し前から声は聞いていたのだが、それを出会いと呼ぶには抵抗があった。
「それは否定しませんよ。しかし、あなたのような普通の、いや随分と紳士的な大人であれば安心してシノを任せることができます」
「任せる、というのは?」
「え、結婚とか?」
思い切りむせてしまった。炭酸水が入ってはいけないところに入り、涙目で大きな咳を出す。
「大丈夫ですか!?」
佐須杜さんは立ち上がってこちらに来ようとしていたので、私はそれを手で制する。
「い、いきなりすごいことを言いますね」
ジャケットのパッチポケットからハンカチを出して口元を拭う。
「ま、半分は冗談ですよ。そうなったらいいな、と思っていますが」
彼女は随分調子が出てきたようで、ニヤリと笑う。
「……佐須杜さんは中々手強いですね」
「お褒め頂きありがとうございます。シノも随分目島さんに心を許していますしね。多分、無意識的に父性を求めているというか……要するに年上好きなんだと思いますし。ほら、相性ばっちりだ」
佐須杜さんが指をぱちんと鳴らす小気味良い音が室内に響く。
「……適当だなあ」
「こう見えて人を見る目はあるつもりですよ。あなたなら大丈夫、と私の勘が告げているのです」
そうこうしている内に、ピザが運ばれてきた。彼女の色々な話はこの美味しそうな匂いとともに飲み込んでしまおう。
「目島さん、違うものを頼んでシェアしましょうか」
「良いのですか?」
「もちろん。私は……このゴルゴンゾーラチーズのにします」
「ありがとうございます。私はマルゲリータで」
「さっぱりした基本が一番ですよね」
そんな訳で二人して別々のものを注文する。セットの飲み物が先に来たので、早速乾杯をする。流石にお酒ではなく、私は炭酸水、彼女はオレンジジュースだ。
「色々お世話になっています」
「こちらこそ。日々に彩りが生まれていますよ」
私がそんな言葉を伝えると、佐須杜さんは微妙な表情になる。
「……皮肉ではないですよね?」
「違います」
「良かった。あの、何というか……シノが迷惑を掛けているようで……」
「迷惑なんてことはないですが、どこまで聞いてます?」
「あーっと、例えば『今日のミートソースは美味しかった』とか、『目島さんのベッドで寝ているから調子がいい!』とか。大体全部把握していると思います」
そうやって言及されると何とも気恥ずかしい。ただでさえ10歳も年下の女性が家に入り込んでいるのだ。人によっては醜聞だと言って憚らないだろう。
「……お恥ずかしい限りです」
私がそんなことを呟くと、佐須杜さんは慌ててそれを否定してくる。
「いやそんな!むしろシノの側に目島さんのような人が居て、私としては安心です」
「そうなのですか?」
彼女はオレンジジュースを半分ほど一気に飲んでから言葉を続ける。
「もう聞いているでしょうが、その……シノはあまり人と話すのが得意じゃないんです」
「ええ、何となく聞いております」
『人と話すのが得意じゃない』。その言葉に含まれる色々な要素に思いを馳せつつ、ちらりと炭酸水から生じる僅かな泡沫に目をやる。
「私が高校の頃に出会ったときはもっと酷かったのですが、徐々に改善されていたように思います。しかし、まあ、ああいう職業に就いているとまた元に戻りそうだなと危惧しておりました。人との付き合いもほとんど私だけになっていたようですし」
確かに、私もテレワークになってから随分人付き合いは減ってしまった。それでも矢賀さんとは比較的頻繁に会話をするし、会議に出席すれば他の部署の人達となんだかんだ雑談する。
対して、人栄さんの仕事だと、ほとんどがパソコンの前で向き合っている時間ばかりなのだろう。あくまで想像だが佐須杜さんの話と合わせて考えると、当たらずとも遠からずと思う。
「親友として何かしてあげたい、と思って色々考えていたところに、目島さん。あなたが現れたというわけです」
「出会いは中々滅茶苦茶でしたけどね」
実際はほんの少し前から声は聞いていたのだが、それを出会いと呼ぶには抵抗があった。
「それは否定しませんよ。しかし、あなたのような普通の、いや随分と紳士的な大人であれば安心してシノを任せることができます」
「任せる、というのは?」
「え、結婚とか?」
思い切りむせてしまった。炭酸水が入ってはいけないところに入り、涙目で大きな咳を出す。
「大丈夫ですか!?」
佐須杜さんは立ち上がってこちらに来ようとしていたので、私はそれを手で制する。
「い、いきなりすごいことを言いますね」
ジャケットのパッチポケットからハンカチを出して口元を拭う。
「ま、半分は冗談ですよ。そうなったらいいな、と思っていますが」
彼女は随分調子が出てきたようで、ニヤリと笑う。
「……佐須杜さんは中々手強いですね」
「お褒め頂きありがとうございます。シノも随分目島さんに心を許していますしね。多分、無意識的に父性を求めているというか……要するに年上好きなんだと思いますし。ほら、相性ばっちりだ」
佐須杜さんが指をぱちんと鳴らす小気味良い音が室内に響く。
「……適当だなあ」
「こう見えて人を見る目はあるつもりですよ。あなたなら大丈夫、と私の勘が告げているのです」
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