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映画と隣人
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この映画を選んだのは失敗だったと思う。
もちろん映画自体の質が悪いわけではない。むしろ、じめじめとした夏の暑さが画面から伝わってくるような、ねっとりとした画作りなど非常に見るべきところの多いものだと思う。
問題なのはこれがただの恋愛映画ではないところだ。思うに、この映画のテーマは『家族愛』だ。私が失ったもの、そして彼女が忘れてしまったもの。
ストーリーラインとしては四十路を過ぎた男性と、それよりかなり若い奔放な女性の出会いから始まり、様々なイベントを経て一つの結末にたどり着くというものだ。しかし、そのイベントの中心にいるのも、男性の思考の中心にいるのは間違いなくその家族、主には両親のことだ。病気で入院しがちな父親、それに付き添い疲労困憊の母親。男性は女性に心惹かれるものを感じながらも、家族への愛情から自信の恋愛感情に入り込むことができない。クライマックス近くでは、女性との恋愛に興じるあまりに父親の病死の瞬間に立ち会うことが、そのことが男性に深い傷跡を残してしまう。女性の太陽のように明るい性格もあり映画全体は明るい雰囲気を保っているが、その分だけ対比されるような病院のシーンの静謐さが際立ち、ある意味でのしこりを発生させている。
私は映画に集中しきれなかった。人栄さんのことが気になったからだ。しかし、彼女の様子をチラチラと確認してみても、特に顔色が悪くなっているような感じはしない。むしろ恐ろしいまでの集中力を見せており、眼鏡に遮られていないせいか、その食い入るように前を向く瞳の大きさに目が惹かれてしまう。
私は烏龍茶を一口飲んで、彼女の様子に注意しつつも画面に顔を戻し、その物語がどこに向かうのかを追うのであった。
「どうでした?」
映画が終わって、ロビーにて彼女に話しかける。彼女は映画を終えた後もぼんやりとしており、私の中の心配が大きくなる。
「……あっ、ええ。面白かったですよ」
その言葉と表情は全く噛み合っていない。落ち込んでいるというよりも心ここにあらず、という感じだと思う。そのまま私達は近くの3人がけの椅子に座る。
「大丈夫ですか?」
私は改めて確認する。彼女は私の顔を見ず、中空に視線を漂わせたまま答える。
「はい。ちょっと……思うところがあるだけです。おかしいですよね、こういうものに向き合うためにこの映画を選んだのに」
こういうもの、というのは恐らく『家族』というものについてなのだろう。何かの心境の変化があったのか、向き合いたかった、あるいは整理をしたかったのかもしれない。
「でも、結局よく分からなくなってしまいました。昔はすごく大事だったはずの家族、でもすっかり色あせてたまに思い出すくらい」
眠れない原因をつかめるかと思ったのに、と呟くように漏らす。
「……そういう目的でしたか」
デート、なんて考えてしまっていた自分を叱責したい気分だ。彼女の、何も映さないガラス玉のような瞳を見て、私は自分を恥じていた。
「ええ、付き合わせてしまってすいませんでした……今日は、帰りましょう。本当は外食でもと思っていたのですが」
「はい、大丈夫ですよ。……行きましょうか」
そして私達は帰路に着く。足取りは軽くも重くもない。端的に言えば空虚。ただ道を歩いているだけだった。
彼女とは玄関の前で別れた。自室に戻った私は、そこに誰もいないことを確認して、物足りないような落ち着かないような気持ちでその日を終えるのであった。
もちろん映画自体の質が悪いわけではない。むしろ、じめじめとした夏の暑さが画面から伝わってくるような、ねっとりとした画作りなど非常に見るべきところの多いものだと思う。
問題なのはこれがただの恋愛映画ではないところだ。思うに、この映画のテーマは『家族愛』だ。私が失ったもの、そして彼女が忘れてしまったもの。
ストーリーラインとしては四十路を過ぎた男性と、それよりかなり若い奔放な女性の出会いから始まり、様々なイベントを経て一つの結末にたどり着くというものだ。しかし、そのイベントの中心にいるのも、男性の思考の中心にいるのは間違いなくその家族、主には両親のことだ。病気で入院しがちな父親、それに付き添い疲労困憊の母親。男性は女性に心惹かれるものを感じながらも、家族への愛情から自信の恋愛感情に入り込むことができない。クライマックス近くでは、女性との恋愛に興じるあまりに父親の病死の瞬間に立ち会うことが、そのことが男性に深い傷跡を残してしまう。女性の太陽のように明るい性格もあり映画全体は明るい雰囲気を保っているが、その分だけ対比されるような病院のシーンの静謐さが際立ち、ある意味でのしこりを発生させている。
私は映画に集中しきれなかった。人栄さんのことが気になったからだ。しかし、彼女の様子をチラチラと確認してみても、特に顔色が悪くなっているような感じはしない。むしろ恐ろしいまでの集中力を見せており、眼鏡に遮られていないせいか、その食い入るように前を向く瞳の大きさに目が惹かれてしまう。
私は烏龍茶を一口飲んで、彼女の様子に注意しつつも画面に顔を戻し、その物語がどこに向かうのかを追うのであった。
「どうでした?」
映画が終わって、ロビーにて彼女に話しかける。彼女は映画を終えた後もぼんやりとしており、私の中の心配が大きくなる。
「……あっ、ええ。面白かったですよ」
その言葉と表情は全く噛み合っていない。落ち込んでいるというよりも心ここにあらず、という感じだと思う。そのまま私達は近くの3人がけの椅子に座る。
「大丈夫ですか?」
私は改めて確認する。彼女は私の顔を見ず、中空に視線を漂わせたまま答える。
「はい。ちょっと……思うところがあるだけです。おかしいですよね、こういうものに向き合うためにこの映画を選んだのに」
こういうもの、というのは恐らく『家族』というものについてなのだろう。何かの心境の変化があったのか、向き合いたかった、あるいは整理をしたかったのかもしれない。
「でも、結局よく分からなくなってしまいました。昔はすごく大事だったはずの家族、でもすっかり色あせてたまに思い出すくらい」
眠れない原因をつかめるかと思ったのに、と呟くように漏らす。
「……そういう目的でしたか」
デート、なんて考えてしまっていた自分を叱責したい気分だ。彼女の、何も映さないガラス玉のような瞳を見て、私は自分を恥じていた。
「ええ、付き合わせてしまってすいませんでした……今日は、帰りましょう。本当は外食でもと思っていたのですが」
「はい、大丈夫ですよ。……行きましょうか」
そして私達は帰路に着く。足取りは軽くも重くもない。端的に言えば空虚。ただ道を歩いているだけだった。
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