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温もりと隣人
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彼女は一度自室に戻りお風呂に入ってから、よく見かける動きやすい格好になって戻ってくる。そしてその手の中にあるのは……
「こ、これがないと最近は眠れなくて……」
ちょっと恥ずかしそうにしているが、以前に私があげた毛布を大事に使用してくれているようだ。
「いえ、使ってくれていようで嬉しいですよ」
「うう、恥ずかしい……」
そんな会話をしながら彼女を寝室に案内する。時間は21時を過ぎている。私には少し早いけれど、彼女はもう寝る気まんまんのようだ。
「どうぞ」
手でベッドを指し示すと、彼女は「し、失礼します」なんて言いながらベッドに潜り込む。
「毛布を掛けましょうか?」
彼女が持ってきた毛布を受け取ろうとすると、彼女は黙って首を振る。どうするのか、と思うと彼女は布団を肩まで上げると毛布は抱き枕のようにして抱え込む。
「なるほど」
「は、恥ずかしいので感想を言うのはやめて!」
「はいはい」
くすくす笑うと、彼女は恥ずかしそうに背中を向けてしまう。
「それじゃあ、私はソファーで……」
「え、一緒にベッドで……」
とんでもないことを彼女は言い出す。
「いや、流石にそれは」
「遠慮しなくてもいいのに……」
くるりと私の方に向き直り、唇を尖らせる。
「ま、まあ、おいおいということで……」
彼女から目をそらして話を流す。今の状況だって十分おかしなものなのに、そこまでしたらもう滅茶苦茶だ。私にだってある程度の基準はある。
「ちぇっ……ねえ、ちょっだけお話しようよ」
すっかり元の調子に戻ったのか、彼女は口元を緩ませながらそう言ってくる。私もそれに答えるようにベッドのところに腰掛ける。
「いまいくつなの?」
「30歳になりました」
「えー、結構年上だったんだね。どんなお仕事をしているの?」
「貿易関係ですね。そこで……まあ管理のお仕事です」
「なんか難しそう」
「そんなことはないです。合う合わないはありますが、私にはとてもぴったりですね」
「それは……いいことだね」
「ええ、とても」
「どこの出身?」
「実は北国なんです」
「そうなんだね。じゃあ寒いのもへーき?」
「うーん、そうでもないですね。むしろ寒いのは苦手なんですよ」
「じゃあ今の季節はあんまり?」
「いや、寒いのは苦手なんですが冬は好きです。空が綺麗に見えますから」
「あ、わかるかも。星空が綺麗にみえると良いよね」
「そういうことです」
そんなとりとめのない話をしていると、段々と彼女はそのまぶたを重そうにしていくのが分かった。
「目島さん……名前で呼んでいい?」
彼女は眠気に抗うようにそんなことを言う。
「ええ、大丈夫ですよ」
別にそのくらいは構わない。
「誠司さん。誠司さん。誠司さん」
三度私の名前を繰り返し、彼女は満足そうにする。他人から名前で呼ばれるなんてのは随分久しぶりで、新鮮な気持ちがした。
「誠司さん……ありがとう」
そして、彼女は最後にそれだけ言って、ゆっくりと意識を手放していった。
彼女の呼吸が安らかであることを確認して、私は部屋を後にする。
「……ふう」
そのままソファーに座って一息つく。
「あー、もう」
彼女の無防備な姿を見て、いい年ながら――ついときめいてしまった。
「なにをしているんだろうね、俺は」
つい口調が崩れてしまう。社会人としての私ではなく、個人としての俺。不可分だけど、一人で暮らして会社の人とばかり話していると中々後者の自分が出てくることはない。
久々にこんな自称を使って違和感があるものの、それでも悪い気はしなかった。
「おやすみ、人栄さん」
俺はそのままソファーに寝転がり、目をつぶった。
「こ、これがないと最近は眠れなくて……」
ちょっと恥ずかしそうにしているが、以前に私があげた毛布を大事に使用してくれているようだ。
「いえ、使ってくれていようで嬉しいですよ」
「うう、恥ずかしい……」
そんな会話をしながら彼女を寝室に案内する。時間は21時を過ぎている。私には少し早いけれど、彼女はもう寝る気まんまんのようだ。
「どうぞ」
手でベッドを指し示すと、彼女は「し、失礼します」なんて言いながらベッドに潜り込む。
「毛布を掛けましょうか?」
彼女が持ってきた毛布を受け取ろうとすると、彼女は黙って首を振る。どうするのか、と思うと彼女は布団を肩まで上げると毛布は抱き枕のようにして抱え込む。
「なるほど」
「は、恥ずかしいので感想を言うのはやめて!」
「はいはい」
くすくす笑うと、彼女は恥ずかしそうに背中を向けてしまう。
「それじゃあ、私はソファーで……」
「え、一緒にベッドで……」
とんでもないことを彼女は言い出す。
「いや、流石にそれは」
「遠慮しなくてもいいのに……」
くるりと私の方に向き直り、唇を尖らせる。
「ま、まあ、おいおいということで……」
彼女から目をそらして話を流す。今の状況だって十分おかしなものなのに、そこまでしたらもう滅茶苦茶だ。私にだってある程度の基準はある。
「ちぇっ……ねえ、ちょっだけお話しようよ」
すっかり元の調子に戻ったのか、彼女は口元を緩ませながらそう言ってくる。私もそれに答えるようにベッドのところに腰掛ける。
「いまいくつなの?」
「30歳になりました」
「えー、結構年上だったんだね。どんなお仕事をしているの?」
「貿易関係ですね。そこで……まあ管理のお仕事です」
「なんか難しそう」
「そんなことはないです。合う合わないはありますが、私にはとてもぴったりですね」
「それは……いいことだね」
「ええ、とても」
「どこの出身?」
「実は北国なんです」
「そうなんだね。じゃあ寒いのもへーき?」
「うーん、そうでもないですね。むしろ寒いのは苦手なんですよ」
「じゃあ今の季節はあんまり?」
「いや、寒いのは苦手なんですが冬は好きです。空が綺麗に見えますから」
「あ、わかるかも。星空が綺麗にみえると良いよね」
「そういうことです」
そんなとりとめのない話をしていると、段々と彼女はそのまぶたを重そうにしていくのが分かった。
「目島さん……名前で呼んでいい?」
彼女は眠気に抗うようにそんなことを言う。
「ええ、大丈夫ですよ」
別にそのくらいは構わない。
「誠司さん。誠司さん。誠司さん」
三度私の名前を繰り返し、彼女は満足そうにする。他人から名前で呼ばれるなんてのは随分久しぶりで、新鮮な気持ちがした。
「誠司さん……ありがとう」
そして、彼女は最後にそれだけ言って、ゆっくりと意識を手放していった。
彼女の呼吸が安らかであることを確認して、私は部屋を後にする。
「……ふう」
そのままソファーに座って一息つく。
「あー、もう」
彼女の無防備な姿を見て、いい年ながら――ついときめいてしまった。
「なにをしているんだろうね、俺は」
つい口調が崩れてしまう。社会人としての私ではなく、個人としての俺。不可分だけど、一人で暮らして会社の人とばかり話していると中々後者の自分が出てくることはない。
久々にこんな自称を使って違和感があるものの、それでも悪い気はしなかった。
「おやすみ、人栄さん」
俺はそのままソファーに寝転がり、目をつぶった。
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