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パーティの誘いと隣人
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「久しぶりですね。目島さん」
目の前の金髪の女性――佐須杜ナコさんはにこやかに挨拶してくれる。
「こんにちは。佐須杜さんもお元気そうで何よりです」
私は彼女に促されてその正面の席に着く。時刻はお昼の12時丁度。私も泊まったことのない高級ホテルのビュッフェランチに来ていた。
『ここ、ランチだけはリーズナブルでいいんですよ』
というのは佐須杜さんの弁であり、私もそれに興味があったので、彼女のお誘いに乗ったのである。
「まあ、お話する前に……まずは行きましょう!」
彼女は実に楽しそうだ。ビュッフェが好きなのかもしれない。私もわくわくしてしまうからその気持ちは大変良く分かるのだが。
そういうわけで、私はここぞとばかりに豆類や葉物をたっぷり載せたサラダにシーザードレッシングを掛けたものや、クリームソースのたっぷり入った揚げ物類など家で中々作れないものを自分の皿に取り分けた。
一方、佐須杜さんは……
「い、いきなりケーキですか」
ちょっと驚きである。控えめながらも、一枚のお皿に結構な量のケーキが載せられている。彼女は少し恥ずかしそうにしながらも答えてくれる。
「いやあ……ビュッフェに着たときの癖でして。なんか、『いきなりデザートを食べる』って背徳感があって好きなんですよね」
確かに、ビュッフェでしかできない行動かもしれない。……機会があれば、私もやってみようかとちょっとだけ思う。
「いただきます」
二人で手を合わせて挨拶をしつつ、自分のお皿に口をつけ始める。高級ホテルということもあり、どれを食べても美味しい。特にクリームコロッケは、随分久しぶりに食べたのだが、非常に美味しい。たくさん食べられるようにという配慮からだろうか、どっしり重たいメインの味付けではなく基本的にさっぱりさせつつも、しっかりとしたクリームの濃厚さもあり、とても好みの味付けだ。
佐須杜さんも一口サイズのケーキを実に美味しそうに食べている。チョコ、クリーム、フルーツなど一つずつ丁寧に味わっていることが伺える。
「……っと、私からお呼び立てしたんでした。失礼しました」
彼女は半分ほどのケーキを食べてから、口をナプキンで拭いながら話を始める。
「ええっと、私にまたお願いがあるとかでしたけれど……」
前回は少し抽象的かつ答えにくいものだったと記憶している。今回もまたそのようなものだろうか?
「ああ、警戒しないで下さい。今回は、具体的で分かりやすい、Yes/Noで答えられるものです」
私の表情から考えを察したのか、私の警戒を解くように彼女はそんなことを言う。
「とりあえず、聞かせて頂けますか?人栄さん関係のことなのでしょう」
ちなみに彼女は今頃自室でお仕事中のはずだ。昨晩も私のベッドで眠って、私はソファーで休んだ。この状況が続くようなら、自分、あるいは彼女用の布団でも買ったほうがいいのかもしれない。
「そのとおりです。実はこういうイベントがありまして……」
そう言いながら佐須杜さんは私にスマートフォンの画面を見せてくる。
「これは……忘年会、でしょうか?」
画面に表示されている文章を読む限り、彼女の会社に所属している作家さん達や会社関係者を集めたパーティのようだ。開催は12月25日、土曜日の夜。時期が時期だけに、忘年会というよりクリスマスパーティと言ったほうがいいかもしれない。
「はい。もうお分かりかも知れませんが……」
彼女の話に私は言葉をつなげる。
「これに、人栄さんの付き添いとして出て欲しい、ということですかね?」
佐須杜さんはぱちんと指を鳴らして、ニコリと笑う。
「お察しのとおり。実は……このパーティで賞の発表があるんですが、シノが年間新人賞を取得していまして。もちろんシノは知っています」
「おお、凄いですね」
私はその業界に詳しいわけではないが、おそらく凄いことなのだろう。佐須杜さんが嬉しそうにしていることからも何となくそう察せられる。
「そういうわけでシノの参加は必須なのですが……あの性格ですから。一人だけにしておくと、下手したら来ない可能性もあります」
確かに。散々悩んだ末に、結局勇気が出なくて行かないという可能性は否定できない。
「私も当日はもちろん、その前後は準備にかかりっきりですし、他の作家さん達の相手もありますので、シノにかかりっきりというわけにもいかず……目島さんにお願いしようかなと。もちろん、ご夫婦とかで来られる方もいらっしゃるので、目島さんがシノと一緒に居ても全然問題ないのです」
色々と突っ込みたい衝動に駆られるがとりあえずスルーしておこう。
「まあ、そういうわけでしたらご協力するのはやぶさかではありません」
別にパーティに付き添うくらいなんでもないことだ。出版社主催のパーティがどういうものかという純粋な興味もある。もっとも、一番大きいのは人栄さんのことが心配だからということなのは明らかなのだが。
「ありがとうございます!……もう少し色々交渉とか必要かと思ってましたが、いやにあっさりですね」
「まあ……そうかもしれませんね」
言葉を濁したのだが、佐須杜さんはニヤッと笑い、『私には分かっているぞ』という表情をする。
「最近は、随分とシノもなついているというかなんというか……なかなか楽しい状況になっているようですしねぇ」
「……もしかして、全て知っていますか?」
「もちろん。目島さんの昨日の晩ごはんからベッドの寝心地まで、大体全部聞いていると思いますよ」
私はその言葉を聞いて渋面を返すことしかできない。傍から見ればとんでもない状況だという自覚はある。
「……私からはノーコメントで」
その様子に佐須杜さんは苦笑する。
「私からも何も言うことはないですよ。この後、どうなっていくか楽しみにしていますよ」
「……もしかしたら俺から君に相談することもあるかと思うから、そのときはよろしく」
ついつい個人としての俺が出てしまうが、佐須杜さんは気にした様子もない。ただ、「いつでもどうぞ」といって快く笑うだけである。
いずれにせよ、今度のパーティはどうなるのか、少し楽しみだった。
目の前の金髪の女性――佐須杜ナコさんはにこやかに挨拶してくれる。
「こんにちは。佐須杜さんもお元気そうで何よりです」
私は彼女に促されてその正面の席に着く。時刻はお昼の12時丁度。私も泊まったことのない高級ホテルのビュッフェランチに来ていた。
『ここ、ランチだけはリーズナブルでいいんですよ』
というのは佐須杜さんの弁であり、私もそれに興味があったので、彼女のお誘いに乗ったのである。
「まあ、お話する前に……まずは行きましょう!」
彼女は実に楽しそうだ。ビュッフェが好きなのかもしれない。私もわくわくしてしまうからその気持ちは大変良く分かるのだが。
そういうわけで、私はここぞとばかりに豆類や葉物をたっぷり載せたサラダにシーザードレッシングを掛けたものや、クリームソースのたっぷり入った揚げ物類など家で中々作れないものを自分の皿に取り分けた。
一方、佐須杜さんは……
「い、いきなりケーキですか」
ちょっと驚きである。控えめながらも、一枚のお皿に結構な量のケーキが載せられている。彼女は少し恥ずかしそうにしながらも答えてくれる。
「いやあ……ビュッフェに着たときの癖でして。なんか、『いきなりデザートを食べる』って背徳感があって好きなんですよね」
確かに、ビュッフェでしかできない行動かもしれない。……機会があれば、私もやってみようかとちょっとだけ思う。
「いただきます」
二人で手を合わせて挨拶をしつつ、自分のお皿に口をつけ始める。高級ホテルということもあり、どれを食べても美味しい。特にクリームコロッケは、随分久しぶりに食べたのだが、非常に美味しい。たくさん食べられるようにという配慮からだろうか、どっしり重たいメインの味付けではなく基本的にさっぱりさせつつも、しっかりとしたクリームの濃厚さもあり、とても好みの味付けだ。
佐須杜さんも一口サイズのケーキを実に美味しそうに食べている。チョコ、クリーム、フルーツなど一つずつ丁寧に味わっていることが伺える。
「……っと、私からお呼び立てしたんでした。失礼しました」
彼女は半分ほどのケーキを食べてから、口をナプキンで拭いながら話を始める。
「ええっと、私にまたお願いがあるとかでしたけれど……」
前回は少し抽象的かつ答えにくいものだったと記憶している。今回もまたそのようなものだろうか?
「ああ、警戒しないで下さい。今回は、具体的で分かりやすい、Yes/Noで答えられるものです」
私の表情から考えを察したのか、私の警戒を解くように彼女はそんなことを言う。
「とりあえず、聞かせて頂けますか?人栄さん関係のことなのでしょう」
ちなみに彼女は今頃自室でお仕事中のはずだ。昨晩も私のベッドで眠って、私はソファーで休んだ。この状況が続くようなら、自分、あるいは彼女用の布団でも買ったほうがいいのかもしれない。
「そのとおりです。実はこういうイベントがありまして……」
そう言いながら佐須杜さんは私にスマートフォンの画面を見せてくる。
「これは……忘年会、でしょうか?」
画面に表示されている文章を読む限り、彼女の会社に所属している作家さん達や会社関係者を集めたパーティのようだ。開催は12月25日、土曜日の夜。時期が時期だけに、忘年会というよりクリスマスパーティと言ったほうがいいかもしれない。
「はい。もうお分かりかも知れませんが……」
彼女の話に私は言葉をつなげる。
「これに、人栄さんの付き添いとして出て欲しい、ということですかね?」
佐須杜さんはぱちんと指を鳴らして、ニコリと笑う。
「お察しのとおり。実は……このパーティで賞の発表があるんですが、シノが年間新人賞を取得していまして。もちろんシノは知っています」
「おお、凄いですね」
私はその業界に詳しいわけではないが、おそらく凄いことなのだろう。佐須杜さんが嬉しそうにしていることからも何となくそう察せられる。
「そういうわけでシノの参加は必須なのですが……あの性格ですから。一人だけにしておくと、下手したら来ない可能性もあります」
確かに。散々悩んだ末に、結局勇気が出なくて行かないという可能性は否定できない。
「私も当日はもちろん、その前後は準備にかかりっきりですし、他の作家さん達の相手もありますので、シノにかかりっきりというわけにもいかず……目島さんにお願いしようかなと。もちろん、ご夫婦とかで来られる方もいらっしゃるので、目島さんがシノと一緒に居ても全然問題ないのです」
色々と突っ込みたい衝動に駆られるがとりあえずスルーしておこう。
「まあ、そういうわけでしたらご協力するのはやぶさかではありません」
別にパーティに付き添うくらいなんでもないことだ。出版社主催のパーティがどういうものかという純粋な興味もある。もっとも、一番大きいのは人栄さんのことが心配だからということなのは明らかなのだが。
「ありがとうございます!……もう少し色々交渉とか必要かと思ってましたが、いやにあっさりですね」
「まあ……そうかもしれませんね」
言葉を濁したのだが、佐須杜さんはニヤッと笑い、『私には分かっているぞ』という表情をする。
「最近は、随分とシノもなついているというかなんというか……なかなか楽しい状況になっているようですしねぇ」
「……もしかして、全て知っていますか?」
「もちろん。目島さんの昨日の晩ごはんからベッドの寝心地まで、大体全部聞いていると思いますよ」
私はその言葉を聞いて渋面を返すことしかできない。傍から見ればとんでもない状況だという自覚はある。
「……私からはノーコメントで」
その様子に佐須杜さんは苦笑する。
「私からも何も言うことはないですよ。この後、どうなっていくか楽しみにしていますよ」
「……もしかしたら俺から君に相談することもあるかと思うから、そのときはよろしく」
ついつい個人としての俺が出てしまうが、佐須杜さんは気にした様子もない。ただ、「いつでもどうぞ」といって快く笑うだけである。
いずれにせよ、今度のパーティはどうなるのか、少し楽しみだった。
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