テレワークから始まる大人の恋もある。

みょうじん

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変化と隣人

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『先輩、なんだか今日は不思議な表情をしていますね』
矢賀さんは相変わらず鋭い。画面越しで顔の様子なんて見えにくいはずなのに、きちんと私の精神状態を把握している。
「そうでしょうか。いつもどおりですよ」
もちろん誤魔化す。後輩にこんなことを知られるなんて面倒以外のなにものでもない。
『ウソっす。多少の疲れがありながらも、充実した感じ……いつもの観葉植物じみた顔使いではなくて、ちゃんと人間らしい表情ですよ』
褒めている、のかもしれない。少なくとも、いつものようなからかう雰囲気は彼女から感じなくて、純粋な気持ちで笑顔を浮かべているように見える。初めて見る矢賀さんの、透き通るような笑顔に私は息を飲んだ。そしてつい普通の口調で話しかけてしまう。
「全く、矢賀には敵わないな。ちゃんと整理できたら俺の方からきちんと話すよ」
『おっ、そっちの口調の方がいいですよ。ようやく、エルに心を開いてくれているんですねっ』
ふふんとドヤ顔を決める彼女は何とも頼もしい。俺も――極めて珍しいことに――それに乗っかる。
「ああ、心強い後輩だよ。頼りにしている」
俺がきちんと正面から褒めると、矢賀は少し恥ずかしそうにしつつ慌てる。
『ええー!先輩がそんな風に褒めてくれるなんて……いやあ、仕事続けてよかったですね!』
彼女はその恥ずかしさを誤魔化すように両手を顔の前でぶんぶんと振る。
「そうだな。矢賀、これからもよろしく」
俺はいつもと違ってニヤリと笑うと、彼女もそれに返すように大きく口を開いて笑う。
『はいっどうぞよろしくっ!うおー!なんだかやる気が出てきましたっ、今週も頑張ります!』
「はいはい、私も今週も頑張ります」
『あー、いつもどおりに戻っているしー!まあ、いいけど……じゃあね先輩、また今度!』
「はい、それではまた」
そこで通話は終了した。本当に、そのうち矢賀に相談するときが来るかもしれない。なんとなくそんな予感がしてならなかった。

「誠司さん、今からそっちに行っていい?」
仕事が終わる少し前、穴の向こうから話しかけられる。なんとなく話しかけられる気がしていたので、驚きはなかった。
「あと三十分ほどで仕事をあがりますので」
「じゃあそれくらいに行くね!」
ということで、きっかり三十分後、彼女はうちにやってきた。
「へへ、朝ぶりっ」
「そうですね」
彼女は魅力的な人だと思う。見た目が素敵ということも否定しないのは、元気だったり、ニコニコ笑ったり……でも、沈んだり、わたわたしたり、泣いたり。出会ってからほんの少しの時間のはずなのに、彼女の顔を随分たくさん知っているような気になっている。
ああ、くそ。やっぱり可愛いな。そんな風に思ってしまう自分を彼女に見せる日は来るのだろうか、それは分からない。

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