47 / 52
パーティと隣人④
しおりを挟む
知合いが全くいないパーティというのはなかなか難しい。特に私はこの場では外様だ。共通の話題どころが相手がどんな人間なのかも全く分からない。ちらりと彼女を見てみると、まだ少しビクビクした様子で、とてもじゃないが知らない人間相手にフレンドリーに会話を仕掛ける雰囲気ではない。
そういうわけで、我々は入場五分で壁の花となり、彼女ととりとめのない話をして時間を過ごす。そうしているうちに少しだけ彼女の雰囲気もほぐれてきて、敬語からいつもの口調が覗き始める……というところで、司会の方がパーティの開始を宣言した。それに合わせてスタッフの方々が飲み物を配布し始める。私はグレープフルーツジュース、人栄さんはオレンジジュースを頂く。
「えー、それでは皆さん、本年もお疲れさまでした。乾杯!」
おそらくそれなりの地位にいるであろう男性がステージ上で挨拶をし、最後に乾杯をする。
「乾杯。来年もよろしくお願いします」
「乾杯っ。今年はありがとうございました!」
グラスを軽く天に掲げたあとに、彼女とグラスを合わせる。
「さて、どうしましょう?」
先程の司会の方の説明によれば、授賞式だか表彰式はパーティの終盤にあるらしい。それまでは全くやることはない。会社のパーティであれば普段はあまり会わない同期とかと旧交を温めるということになるのだろうが、今回はそれもできない。
「あそこにあるご飯食べませんか?今日は朝からあんまり食べていないからお腹空いちゃった」
確かに、以前に食べた味を思えば今回大皿で出されている料理達の味も期待できる。それに私も今日は軽いものしか食べていないので多少お腹が空いた。
「そうですね。では……」
「あ!私が取ってくるよ。誠司さんはグラスをお願い」
そういって私から離れていってしまう。大丈夫だろうか、と思うものの今から追いかけるというのも違う気がして、私はグラスをスタッフさんに返却して、一人壁際で待つ。
「あ、すいません……ちょっとよろしいでしょうか?」
そこに二人組の女性が話しかけてきた。見た感じ年齢は私よりも若く、人栄さんよりかは少し上という感じ。一人は薄いグリーンのフォーマルなドレスに身を包み、もうひとりはジーンズにだぼっとしたスウェットというカジュアルな格好だ。もちろん知合いではない。
「はい?私でしょうか?」
生憎、この場にいる知合いは人栄さんと佐須杜さんだけだ。
「そうです。すいません、突然話しかけてしまいまして」
「いえ。身の置き場がなくて困っていたところですから、しかし、私のような門外漢になにか御用でしたでしょうか?」
私がそこまで話したところで、彼女達はヒソヒソ話を始める。
「ねえ、やっぱり……」
「うん、間違いないよ!」
私の耳にもなんとなく会話が聞こえてくるが、一部のみなのでその全容を把握することはできない。
「あの、人栄さんのお連れの方ですよね?」
カジュアルな服装の方がそう確認を取ってくる。
「はい。彼女の……友人でして、今回はたまたまご縁があって、この場に参加させて頂きました」
彼女との関係……隣人で、夕食を一緒に食べたり、ベッドを使わせてあげたり、デートをしたり……なかなか一言で表現するのは難しいし、初めて会った人にそこまで説明するのは憚られる。そういうわけで端的に『友人』とだけ言う。
「もしかして……彼女のお隣に住んでいたりしませんか?」
フォーマルな服装な方にそう言われ、ぎょっとしてしまった。なぜそんなことを知っているのだろう。もしかして人栄さんの友人なのだろうか。
「そう、ですが……」
少し警戒するようにお二人を見てみるが、そんな私の様子なんか気にしもしないで二人は盛り上がっていた。
「わあ!やっぱりそうなんだ!」
「すごい!えー、ほんとにそんなことがあるんだね!」
見知らぬ若い女性に話しかけられたと思ったら、急に私の個人情報の確認を取られ、今度は私をそっちのけで盛り上がり始めたという状況だ。私としてはどうしたらいいか分からない。
「えっと……」
とりあえず話を聞いてみようとしたところで、人栄さんがこっちの方に戻って来ているのが見えた。その手には料理の並んだプレートを持っていたが、私が二人と一緒にいるのに気づき、それを適当なテーブルに置いて慌てて近づいてくる。
「せ、誠司さん!」
彼女はひどく狼狽していて、歩くのも大変なはずの高いハイヒールで可能な限りの速度を出していた。
「大丈夫ですか?」
その様子を見て私も少し慌ててしまう。
「わ、私は大丈夫です!なんか女性とお話されているのを見て……って、あ」
彼女はそこまで言ってカジュアルとフォーマルの二人の方を見ると、何かに気がついたようだ。
「人栄さん、お久しぶりっ」
「やっほー」
やはりというべきか、この二人は彼女の知り合いのようで、気さくに挨拶をしている。
「も、問場さんと仁部さん!?せ、誠司さんになんの用ですっ!?」
何故か人栄さんは警戒心をむき出しにし、私と彼女たちの間に入り、その小さな背中で私を隠そうとする。
「まあまあ、ちょっとこっちへ」
「悪いようにはしないって」
しかし、二人――問場さんと仁部さんはにやにやとしながら人栄さんの手をとって私から少し離れたところでヒソヒソ話を開始する。女性たちの内緒話を聞くわけにもいかず、私は再度ぽつんと一人で過ごすことになった。ちらちらと三人がこちらを見ているのは大変居心地が悪いものだが……。
しばらくそうやって手持ち無沙汰で待っていると、三人が戻ってきた……のだけど、問場さんと仁部さんは実に楽しそうに私を見ている。一体何があったのかと人栄さんを見ると、こっちは顔を真赤にして私と目も合わせてくれない。
問場さんは私の肩に手を置き、仁部さんはその反対側に置く。
「はっはっは」
そして、仁部さんはにやにやと笑いながら、問場さんはにたにたと笑いながらそのまま去っていってしまった。残されたのは私と、顔を見てくれない人栄さん。嵐は去ったが、残されたのは気まずい空気のみ。台風一過で快晴とは行かないものだ。
そういうわけで、我々は入場五分で壁の花となり、彼女ととりとめのない話をして時間を過ごす。そうしているうちに少しだけ彼女の雰囲気もほぐれてきて、敬語からいつもの口調が覗き始める……というところで、司会の方がパーティの開始を宣言した。それに合わせてスタッフの方々が飲み物を配布し始める。私はグレープフルーツジュース、人栄さんはオレンジジュースを頂く。
「えー、それでは皆さん、本年もお疲れさまでした。乾杯!」
おそらくそれなりの地位にいるであろう男性がステージ上で挨拶をし、最後に乾杯をする。
「乾杯。来年もよろしくお願いします」
「乾杯っ。今年はありがとうございました!」
グラスを軽く天に掲げたあとに、彼女とグラスを合わせる。
「さて、どうしましょう?」
先程の司会の方の説明によれば、授賞式だか表彰式はパーティの終盤にあるらしい。それまでは全くやることはない。会社のパーティであれば普段はあまり会わない同期とかと旧交を温めるということになるのだろうが、今回はそれもできない。
「あそこにあるご飯食べませんか?今日は朝からあんまり食べていないからお腹空いちゃった」
確かに、以前に食べた味を思えば今回大皿で出されている料理達の味も期待できる。それに私も今日は軽いものしか食べていないので多少お腹が空いた。
「そうですね。では……」
「あ!私が取ってくるよ。誠司さんはグラスをお願い」
そういって私から離れていってしまう。大丈夫だろうか、と思うものの今から追いかけるというのも違う気がして、私はグラスをスタッフさんに返却して、一人壁際で待つ。
「あ、すいません……ちょっとよろしいでしょうか?」
そこに二人組の女性が話しかけてきた。見た感じ年齢は私よりも若く、人栄さんよりかは少し上という感じ。一人は薄いグリーンのフォーマルなドレスに身を包み、もうひとりはジーンズにだぼっとしたスウェットというカジュアルな格好だ。もちろん知合いではない。
「はい?私でしょうか?」
生憎、この場にいる知合いは人栄さんと佐須杜さんだけだ。
「そうです。すいません、突然話しかけてしまいまして」
「いえ。身の置き場がなくて困っていたところですから、しかし、私のような門外漢になにか御用でしたでしょうか?」
私がそこまで話したところで、彼女達はヒソヒソ話を始める。
「ねえ、やっぱり……」
「うん、間違いないよ!」
私の耳にもなんとなく会話が聞こえてくるが、一部のみなのでその全容を把握することはできない。
「あの、人栄さんのお連れの方ですよね?」
カジュアルな服装の方がそう確認を取ってくる。
「はい。彼女の……友人でして、今回はたまたまご縁があって、この場に参加させて頂きました」
彼女との関係……隣人で、夕食を一緒に食べたり、ベッドを使わせてあげたり、デートをしたり……なかなか一言で表現するのは難しいし、初めて会った人にそこまで説明するのは憚られる。そういうわけで端的に『友人』とだけ言う。
「もしかして……彼女のお隣に住んでいたりしませんか?」
フォーマルな服装な方にそう言われ、ぎょっとしてしまった。なぜそんなことを知っているのだろう。もしかして人栄さんの友人なのだろうか。
「そう、ですが……」
少し警戒するようにお二人を見てみるが、そんな私の様子なんか気にしもしないで二人は盛り上がっていた。
「わあ!やっぱりそうなんだ!」
「すごい!えー、ほんとにそんなことがあるんだね!」
見知らぬ若い女性に話しかけられたと思ったら、急に私の個人情報の確認を取られ、今度は私をそっちのけで盛り上がり始めたという状況だ。私としてはどうしたらいいか分からない。
「えっと……」
とりあえず話を聞いてみようとしたところで、人栄さんがこっちの方に戻って来ているのが見えた。その手には料理の並んだプレートを持っていたが、私が二人と一緒にいるのに気づき、それを適当なテーブルに置いて慌てて近づいてくる。
「せ、誠司さん!」
彼女はひどく狼狽していて、歩くのも大変なはずの高いハイヒールで可能な限りの速度を出していた。
「大丈夫ですか?」
その様子を見て私も少し慌ててしまう。
「わ、私は大丈夫です!なんか女性とお話されているのを見て……って、あ」
彼女はそこまで言ってカジュアルとフォーマルの二人の方を見ると、何かに気がついたようだ。
「人栄さん、お久しぶりっ」
「やっほー」
やはりというべきか、この二人は彼女の知り合いのようで、気さくに挨拶をしている。
「も、問場さんと仁部さん!?せ、誠司さんになんの用ですっ!?」
何故か人栄さんは警戒心をむき出しにし、私と彼女たちの間に入り、その小さな背中で私を隠そうとする。
「まあまあ、ちょっとこっちへ」
「悪いようにはしないって」
しかし、二人――問場さんと仁部さんはにやにやとしながら人栄さんの手をとって私から少し離れたところでヒソヒソ話を開始する。女性たちの内緒話を聞くわけにもいかず、私は再度ぽつんと一人で過ごすことになった。ちらちらと三人がこちらを見ているのは大変居心地が悪いものだが……。
しばらくそうやって手持ち無沙汰で待っていると、三人が戻ってきた……のだけど、問場さんと仁部さんは実に楽しそうに私を見ている。一体何があったのかと人栄さんを見ると、こっちは顔を真赤にして私と目も合わせてくれない。
問場さんは私の肩に手を置き、仁部さんはその反対側に置く。
「はっはっは」
そして、仁部さんはにやにやと笑いながら、問場さんはにたにたと笑いながらそのまま去っていってしまった。残されたのは私と、顔を見てくれない人栄さん。嵐は去ったが、残されたのは気まずい空気のみ。台風一過で快晴とは行かないものだ。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
You Could Be Mine 【改訂版】
てらだりょう
恋愛
平凡な日常だったのに、ある日いきなり降って湧いて出来た彼氏は高身長イケメンドSホストでした。束縛彼氏に溺愛されて、どうなる、あたし!?
※本作品は初出が10年前のお話を一部改訂しております。設定等初出時のままですので現代とそぐわない表現等ございますがご容赦のほどお願いいたします※
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
敏腕SEの優しすぎる独占愛
春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。
あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。
「終わらせてくれたら良かったのに」
人生のどん底にいた、26歳OL。
木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~
×
「泣いたらいいよ。傍にいるから」
雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。
藤堂 柊真 ~Todo Syuma~
雨の夜の出会いがもたらした
最高の溺愛ストーリー。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
紫ゆかり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる