48 / 52
パーティと隣人⑤
しおりを挟む
「ちょっと抜けません?このままお話しているのも楽しいけど、せっかくなんだから展望室に行こうよ」
軽く食事を取り、特に周りと話すわけでもなく私と人栄さんはとりとめのない雑談をしていた。最近食べて美味しかった手料理、私に作って欲しいもの、仕事の話などなど。そうして開場から一時間ほど経ったときに彼女はそんな提案をしてきた。
このホテルには最上階が展望室として開放されている。この辺りでは一番背の高い建物なので、中々の景色が楽しめるという話らしい。
「そうですね。行きましょうか」
実に丁度よい提案だった。胸ポケットに入れっぱなしになっているこれを渡すのに丁度よい。
私は嬉しそうに笑う彼女を見ながら、昨日の矢賀さんとの会話を思い出していた。
『先輩。その人のこと、好きなんです?』
私が矢賀さんに相談すると、まず最初に彼女はそのことを確認してきた。
「まあ、そういうことになるかもしれませんね」
実に曖昧な答え。もちろん、それに矢賀さんは納得しない。
『そこ、すごぉく大事なことです!はっきり、きっぱり答えて下さい!』
予想外にに強い口調で言われ、なんだか新人の頃に上司に怒られたときのことを思い出した。
「……俺は彼女のことが好き、なのかもしれないが、よくわからないんだ」
個人としての俺の口調に戻ってもやはり曖昧なままだ。確かに彼女と一緒にいるのは居心地がいいし、見ていてほっとけ無い気持ちになる。それにとても可愛いとも思う。しかし、それが好きという感情なのかは分からない。若い頃に経験した甘酸っぱいような、燃え上がるような感情とはあまりにギャップがあったからだ。
そんな弱音にも似た俺の考えをそのまま矢賀に伝えてしまう。すると、彼女は呆れたように返してくる。
『……先輩。それ、間違いなく好きになってますよ。エルが太鼓判を押してあげます』
「どうしてそこまで断言できる?」
『先輩がその昔の感情とのギャップを感じているのは、年を重ねたからです!』
……なるほど。そう言われると反論のしようもない。
『色々なことを経験して、精神的に落ち着いて……言い換えると守りに入っているから、そうやってふわふわした、曖昧な、社会人じみた逃げの回答をしているに違いありません!』
「ずいぶん、分かったようなことを言うじゃないか?」
もちろん、彼女の言葉が気に触ったということではない。ただ、あまりに彼女の言葉に実感のようなものが籠もっていて、少し驚いてしまったのだ。
『先輩と違って、私は社会人と学生の中間にいるような状態です。だから、学生っぽい言動にも違和感があるし、先輩のような社会人の言動にもしっくりきていないのです。だからこそ、先輩の考え、つまり学生だった昔の感覚と社会人の今の感覚のギャップがあるというのが良く分かるんです』
彼女の言葉にはきちんとした重みがあり、すごく説得力を感じてしまう。矢賀はさらに続ける。
『本当は、私みたいに少しずつそのギャップを解消していくんだと思うんですが……その、先輩は社会人になってすぐにご両親を亡くされて、そのギャップの埋め方が歪になっていたんじゃないかってエルは推測しています』
「……俺の両親のことを知っていたのか?」
少し驚いた。少なくとも俺から話した記憶はない。
『誠司さんの元上司の方から聞いています。誠司さんの部署に異動する際に説明されて、『ちょっとそういう、冷たいような、距離をとるような印象があるけど、いいヤツだから!』と言っていましたよ!』
俺はそこで脚を止めた。雑踏の中で俺だけが歩みを止めて、周りの人達から不審な目を向けられる。
「……そうか。本当に色々な人に迷惑をかけているな。矢賀もすまない」
『そこはありがとう、ですよ』
努めてだろう、明るくそう言う彼女の言葉に思わず笑みが溢れる。俺は改めて言い直す。
「ありがとう」
『こちらこそですよ!誠司さんがいいヤツなのはすぐにわかりましたし、私が失礼な言動をしても平気で許しちゃってくれますし……誠司さんが上司じゃなければとっくに会社を辞めています。だから、こちらこそありがとうございます』
彼女のそんな殊勝なセリフに、俺らしく無く、少しだけ感動してしまった。
『えへへ、なんだか照れくさいですね』
「全くだ……しかし、ギャップか。考えたこともなかったよ」
『あくまで私の考えですけどね。でも、もしそのギャップを埋めていきたい、埋め直したいというのなら……まずは、『その気持ち』にきちんと向き合うことから始めることをおすすめします!』
「……それじゃあ、その一歩目としてまずはきちんと選ばないとな」
『はいっ!私もそっちに合流しますよ!多分近くに居るっぽいですし』
彼女がそんなことを言うので思わずあたりをきょろきょろしてしまう。
「そうなのか?」
『ええ、買い物に出かけてまして……えーと、その辺りって●●駅の近くだったりしません?』
まさにその辺りにいた。奇妙な一致に思わず苦笑が漏れる。
「正にそのとおりだ……そうだな、もしよければ手伝ってくれると嬉しい」
『はい、もちろん!隣人さんへのクリスマスプレゼント選びなんて面白そうなこと、エルが見逃すはずがないのですよ!』
そういうわけで、矢賀さんにも手伝ってもらったプレゼントが胸ポケットに入っている。少しだけスーツ姿に影響があるので、胸ポケットにものを入れるのはあまり良くないのだが、プレゼントの方がずっと大事なので仕方ない。
私は彼女と向かう展望台でそれを渡すチャンスを探すことにしよう。
軽く食事を取り、特に周りと話すわけでもなく私と人栄さんはとりとめのない雑談をしていた。最近食べて美味しかった手料理、私に作って欲しいもの、仕事の話などなど。そうして開場から一時間ほど経ったときに彼女はそんな提案をしてきた。
このホテルには最上階が展望室として開放されている。この辺りでは一番背の高い建物なので、中々の景色が楽しめるという話らしい。
「そうですね。行きましょうか」
実に丁度よい提案だった。胸ポケットに入れっぱなしになっているこれを渡すのに丁度よい。
私は嬉しそうに笑う彼女を見ながら、昨日の矢賀さんとの会話を思い出していた。
『先輩。その人のこと、好きなんです?』
私が矢賀さんに相談すると、まず最初に彼女はそのことを確認してきた。
「まあ、そういうことになるかもしれませんね」
実に曖昧な答え。もちろん、それに矢賀さんは納得しない。
『そこ、すごぉく大事なことです!はっきり、きっぱり答えて下さい!』
予想外にに強い口調で言われ、なんだか新人の頃に上司に怒られたときのことを思い出した。
「……俺は彼女のことが好き、なのかもしれないが、よくわからないんだ」
個人としての俺の口調に戻ってもやはり曖昧なままだ。確かに彼女と一緒にいるのは居心地がいいし、見ていてほっとけ無い気持ちになる。それにとても可愛いとも思う。しかし、それが好きという感情なのかは分からない。若い頃に経験した甘酸っぱいような、燃え上がるような感情とはあまりにギャップがあったからだ。
そんな弱音にも似た俺の考えをそのまま矢賀に伝えてしまう。すると、彼女は呆れたように返してくる。
『……先輩。それ、間違いなく好きになってますよ。エルが太鼓判を押してあげます』
「どうしてそこまで断言できる?」
『先輩がその昔の感情とのギャップを感じているのは、年を重ねたからです!』
……なるほど。そう言われると反論のしようもない。
『色々なことを経験して、精神的に落ち着いて……言い換えると守りに入っているから、そうやってふわふわした、曖昧な、社会人じみた逃げの回答をしているに違いありません!』
「ずいぶん、分かったようなことを言うじゃないか?」
もちろん、彼女の言葉が気に触ったということではない。ただ、あまりに彼女の言葉に実感のようなものが籠もっていて、少し驚いてしまったのだ。
『先輩と違って、私は社会人と学生の中間にいるような状態です。だから、学生っぽい言動にも違和感があるし、先輩のような社会人の言動にもしっくりきていないのです。だからこそ、先輩の考え、つまり学生だった昔の感覚と社会人の今の感覚のギャップがあるというのが良く分かるんです』
彼女の言葉にはきちんとした重みがあり、すごく説得力を感じてしまう。矢賀はさらに続ける。
『本当は、私みたいに少しずつそのギャップを解消していくんだと思うんですが……その、先輩は社会人になってすぐにご両親を亡くされて、そのギャップの埋め方が歪になっていたんじゃないかってエルは推測しています』
「……俺の両親のことを知っていたのか?」
少し驚いた。少なくとも俺から話した記憶はない。
『誠司さんの元上司の方から聞いています。誠司さんの部署に異動する際に説明されて、『ちょっとそういう、冷たいような、距離をとるような印象があるけど、いいヤツだから!』と言っていましたよ!』
俺はそこで脚を止めた。雑踏の中で俺だけが歩みを止めて、周りの人達から不審な目を向けられる。
「……そうか。本当に色々な人に迷惑をかけているな。矢賀もすまない」
『そこはありがとう、ですよ』
努めてだろう、明るくそう言う彼女の言葉に思わず笑みが溢れる。俺は改めて言い直す。
「ありがとう」
『こちらこそですよ!誠司さんがいいヤツなのはすぐにわかりましたし、私が失礼な言動をしても平気で許しちゃってくれますし……誠司さんが上司じゃなければとっくに会社を辞めています。だから、こちらこそありがとうございます』
彼女のそんな殊勝なセリフに、俺らしく無く、少しだけ感動してしまった。
『えへへ、なんだか照れくさいですね』
「全くだ……しかし、ギャップか。考えたこともなかったよ」
『あくまで私の考えですけどね。でも、もしそのギャップを埋めていきたい、埋め直したいというのなら……まずは、『その気持ち』にきちんと向き合うことから始めることをおすすめします!』
「……それじゃあ、その一歩目としてまずはきちんと選ばないとな」
『はいっ!私もそっちに合流しますよ!多分近くに居るっぽいですし』
彼女がそんなことを言うので思わずあたりをきょろきょろしてしまう。
「そうなのか?」
『ええ、買い物に出かけてまして……えーと、その辺りって●●駅の近くだったりしません?』
まさにその辺りにいた。奇妙な一致に思わず苦笑が漏れる。
「正にそのとおりだ……そうだな、もしよければ手伝ってくれると嬉しい」
『はい、もちろん!隣人さんへのクリスマスプレゼント選びなんて面白そうなこと、エルが見逃すはずがないのですよ!』
そういうわけで、矢賀さんにも手伝ってもらったプレゼントが胸ポケットに入っている。少しだけスーツ姿に影響があるので、胸ポケットにものを入れるのはあまり良くないのだが、プレゼントの方がずっと大事なので仕方ない。
私は彼女と向かう展望台でそれを渡すチャンスを探すことにしよう。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
You Could Be Mine 【改訂版】
てらだりょう
恋愛
平凡な日常だったのに、ある日いきなり降って湧いて出来た彼氏は高身長イケメンドSホストでした。束縛彼氏に溺愛されて、どうなる、あたし!?
※本作品は初出が10年前のお話を一部改訂しております。設定等初出時のままですので現代とそぐわない表現等ございますがご容赦のほどお願いいたします※
一億円の花嫁
藤谷 郁
恋愛
奈々子は家族の中の落ちこぼれ。
父親がすすめる縁談を断り切れず、望まぬ結婚をすることになった。
もうすぐ自由が無くなる。せめて最後に、思いきり贅沢な時間を過ごそう。
「きっと、素晴らしい旅になる」
ずっと憧れていた高級ホテルに到着し、わくわくする奈々子だが……
幸か不幸か!?
思いもよらぬ、運命の出会いが待っていた。
※エブリスタさまにも掲載
敏腕SEの優しすぎる独占愛
春咲さゆ
恋愛
仕事も恋愛も、兎に角どん底の毎日だった。
あの日、あの雨の夜、貴方に出逢うまでは。
「終わらせてくれたら良かったのに」
人生のどん底にいた、26歳OL。
木崎 茉莉 ~kisaki matsuri~
×
「泣いたらいいよ。傍にいるから」
雨の日に現れた、30歳システムエンジニア。
藤堂 柊真 ~Todo Syuma~
雨の夜の出会いがもたらした
最高の溺愛ストーリー。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
隣の夫婦 ~離婚する、離婚しない、身近な夫婦の話
紫ゆかり
恋愛
オムニバス形式です。
理解し合って結婚したはずの梓、同級生との再会が思わぬことになる雅美、年下の夫のかつての妻に引け目を感じる千晴、昔の恋の後悔から前向きになれない志織。
大人の女性のストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる