テレワークから始まる大人の恋もある。

みょうじん

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パーティと隣人⑥

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「わあ……!いい眺め……」
展望室から見える光景は絶景と言ってもいいくらいだった。街灯やビルの明かりが冷え切った空気の中に燦然と輝き、きらきらとしている。
「誠司さんの好きな季節がようやくやって来たね」
彼女は悪戯っぽくそう言う。いつだか彼女が眠る前にそんな雑談をしたことを思い出し、それが意外と最近のことであるのに驚いた。随分と、最近は濃い生活をしている。彼女と出会う前は『観葉植物』のような人生を送っていたというのに、変わるものだ。
「そうですね、本当に綺麗だ」
それは景色に向けて言ったものか、それとも美しく着飾る彼女を改めて見て言ったものか。多分、どちらの意味も含んでいる。
窓際にあったソファーに私達は座る。そのまま特に何かを話すわけでもなくぼんやりと景色を眺める。まるで自宅のソファーに座っているときのような穏やかな時間が流れていき、彼女もリラックスしていた。
――ここだ。ここを逃したら、渡すことはできない。私はそんな思いに駆られて、反射的に彼女に話しかけていた。
「人栄さん」
「なあに?」
「……これ、どうぞ。もし気に入らなかったらごめん」
つい、口調がカジュアルなものになってしまうが、柄にもなく私も緊張しているのだ。胸ポケットから包みを取り出す。幸いにして、その包装はきちんと整ったままになっていて安心した。
人栄さんは反射的に私から反射的に受け取る。『なんだろう?』というように首を捻ったのも束の間、目を大きく開いてその顔を驚き一色に染め上げる。
「え?……も、もしかして……あ、開けていい?!」
それがなんなのか察した彼女は興奮したように私にぐっと近づく。
「もちろん。でも私のセンスにはあまり期待しないで下さい」 
しかし、彼女のそんな様子を見て、中身を気に入ってもらえるかどうかにかかわらず、プレゼントしてよかったと素直に思った。
「なんだろうなあ……」
人栄さんは丁寧に包み紙を開けていき……ついに化粧箱に入ったそれを目に入れる。
「わあ……」
それ以上、彼女は何も言わない。しかし、手にとった様子を見ている限り、気に入ってくれようで安心した。
「可愛いネックレス……こういうの貰ったの、初めてかも」
私が彼女に送ったのは、ネックレス。銀製で、涙を捻ったようなトップの中心に控えなストーンが配置されている。
元々はあまり高くないもの、『重く』ないものをと考えていたのだが、矢賀さんに『大丈夫です!話を聞いている限り、絶対にアクセの方が良いです!』という強い断言に背中を押されて、結局気合の入ったネックレスになってしまった。友人にあげるには高すぎるが、恋人にあげるには安い、という程度の価格帯。でも、見つけた瞬間、彼女がこれをつけている様子が鮮やかに浮かんだので、これを選択した。
「ねえ、つけてつけて!」
彼女は私にそれを渡してから、後ろ髪を上げてうなじを見せてくる。鎖骨が見えるくらいのドレスだが、さらに普段見えないような場所が見えていることもあり、少し心臓が高鳴ってしまう。
その感情を隠しながら、彼女にネックレスを付けてあげる。その際に軽く彼女の肌に触れてしまいまた胸が高鳴る。まるで恋人のような距離感で――いや止めておこう。
「付けましたよ」
「わあ……」
彼女はそれを確かめるように胸元のペンダントトップにふれる。そこにある重みをしっかりと確かめるようにそれを軽く撫でる。
「似合う?」
「ええ、とても。気に入ってくれたようでなによりです」
「……気に入らないわけがないじゃない」
彼女はそう言って私の鎖骨あたりに額を付ける。少しだけ躊躇したものの、その背中にゆっくり手を回す。腕の中に収まる彼女はとても小さく儚く――私は胸を焦がすような熱さをようやく感じることができた。
ああ、いまさらになってようやく気がつくことができた。矢賀の助言に従って、一歩踏み出して良かったと思う。
俺は彼女が――
「誠司さん」
そこまで考えたところで彼女は私の方を見上げ、そっと目をつぶった。それが意味するところを誤解するほど私も鈍感ではない。だから私も顔をゆっくりと近づけ――
「あ!いたあ!二人とも、もう授賞式が……あ、ごめん!」
展望室に大きな声が響く。その音源の方を私達はその姿勢を保ったままばっと振り返る。そこには額から流れる汗に髪の毛を貼り付けた佐須杜さんがいた。その表情は『やってしまった!』というものだが、むしろこんな光景を見せてしまって少し申し訳なかった。
「あ、な、ナコ!?」
彼女は顔を一気に紅潮させて私の腕から逃れ、立ち上がる。気が付かなかったが、彼女は彼女でいっぱいいっぱいだったのかもしれない。熱い頬を冷ますように、自分の手を団扇にして扇いでいる。
「二人ともほんっとうにごめん!でも時間なんです!もう授賞式が始まっちゃうから!?」
佐須杜さんは佐須杜さんでパニックである。相当慌てているのか、敬語とタメ口が混ざった口調になっている。
私も二人の様子を見て少し落ち着いたので、立ち上がりジャケットを軽く整える。
「……では急いで行きましょうか」
比較的落ち着いた声を出せていたと思う。佐須杜さんも「そ、そうですね!」なんて言って慌ててエレベーターの方に走っていく。
「行きましょうか」
私は苦笑しながら人栄さんに話しかける。
「は、はい……」
彼女は恥ずかしそうに目を伏せながらも、大人しく私の後ろについてきてくれた。
まあ、少なくとも自分の気持ちに確信が持てたのだ。今日はここまで。何も焦る必要なんてないんだ。
――しかし、思っていたよりも人栄さんのは早かったということをこのときの私は知らない。

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