完結【マーガレット様、初対面の天才引きこもり男に股を開けと言われたらどうすればよろしいでしょうか?】

三月ねね

文字の大きさ
39 / 39

その後の私たち

しおりを挟む
―――― 一年後
「クロエ!開けてくれ!」
扉を叩きながら叫ぶ、ニコラス様の悲痛な声が聞こえる。
「スタン様ったら、目を離しやがったな」
シンシアの低い声が枕元で聞こえ、思わずぎょっとする。
「はっ、はっ、はっ、あと、少し、って、はっ」
「分かりました!伝えます!」
シンシアが助産師の横を駆け抜け、扉の前で大声で叫ぶ。
「スタン様!もう少し真面目に取り押さえていてくださいよ!」
違うわ、シンシア。あと少しで産まれると伝えて欲しかったのよ。
「サボってねーぞ。便所行ってる間に縄抜けしやがったんだよ。後は任せとけって」
「僕が自分で取り上げるんだ!スタン邪魔するな!」
「お前が邪魔なんだよ。ちょーっと本を読んだからって、助産師でもねーのにしゃしゃり出ようとするんじゃねぇよ」
ドタバタとした音の後、静かになったかと思ったら、屋敷中に聞こえるんじゃないかと言うほどの大声が轟いた。
「クロエの秘部は何度も見たし触った!だからどの穴から産まれるか僕が一番詳しいんだーーっ!」
「「「……」」」
ニコラス様のとんでもない叫び声で力が抜けたのが良かったのか、
「おぎゃーおぎゃー」
……よかった、これでニコラス様が静かになるわ。



―――― 五年後
「ママ!シドとケーキ食べて来ていい?」
「いいわよ。仲良く食べるのよ」
「分かってるよ!私もうお姉さんなんだから」

五年前、指笛の鳴り響く中、伯爵領の美しい教会で挙式をした。
親戚の皆さまはランドルフ様の挙式後も伯爵領に留まって、私たちの到着を待っていてくれた。
もちろんいつ私たちが到着するか賭けをしながら。

結婚式の後も私たちは伯爵領に住み続け、一男一女に恵まれた。


「最近、コゼットが冷たいんだ。この前もパパ臭いって言われたんだ。小さなマーガレットかと思ったよ」
長女のコゼットは見た目こそ私に瓜二つだが、鼻に皺を寄せてニコラスに入浴を促す姿は、マーガレット様とダブって見える。
もちろん義父の土汚れやニコラス様の入浴も厳しく取り締まっている。
外見が私そっくりのコゼットを目に入れても痛くないほど可愛がっているニコラス様は娘に冷たくされるとすぐにへこんでしまう。
元々コゼットはおませさんだけど、弟が産まれてからはさらに大人びたことを言うようになった気がするわ。
「二日間お風呂に入らなかったからですよ」
「領地の見回りに行ってたからだよ!一秒でも早く愛しい家族に会いたくて、風呂に入る時間も惜しんで帰って来たのに、コゼットは鼻に皺を寄せて僕のキスを避けたんだぞ」
ニコラス様に抱っこされウトウトしている幼い子のふっくらとした頬をそっと撫でる。
「この子は外も中もニコラス様にそっくりよね。将来が心配だわ」
私たちの二番目の子としてとして生まれたこの子は、植物に囲まれた玄関ホールがお気に入りで、どんなに泣いていても玄関ホールに行くと泣き止み、ハイハイが出来るようになると私や乳母の目を盗み玄関ホールでパジャマを脱ぎ捨て眠っているのだ。玄関ホールで全裸で眠る将来が想像できる。
「クロエまでひどいな!」
ニコラス様のミニチュア版の息子は、マーガレット様の誕生日会に集まった多くの女性陣を魅了して、さっきまで交代で抱っこされ可愛がられていた。
本人は美人に抱っこされても無表情でお気に入りの絵本を眺めていたけど。
「ニコラス様に似て美男子だからモテ過ぎて心配と言う意味よ」
どうか朝起きた時にパンツを穿いていられる大人に育ってくれますように……。

 ダンスホールを見渡して、私とそっくりの赤交じりの金の髪を探すと、ランドルフ様のご長男のシドと仲良くケーキを食べている。
アリー様の所は二人の男児に恵まれ、三人目を懐妊中だ。お互いに行き来をしながら、仲良く子育てを助け合っている。
「それって僕がモテるから心配ってことだよね。嫉妬かい?」
ニコラス様を見上げる。今も恐ろしい程若く見えるが、五年間よく笑っていたので、やっと目じりに皺を作ることに成功した。
この皺が幸せの証のようで、嬉しくて愛おしい。
「五年間で人の気持ちがよくわかるようになりましたよね。でも分かり過ぎです」
「毎日クロエの気持ちを知ろうとしていたから鍛えられたんだな。成長したってことだ」
ニコラス様は結婚してから自室に閉じこもることは無くなったけれど、今度は私の顔が見えないと落ち着かなくなってしまった。
ちょっと席を外す時でも、仕事を中断してついてくる姿に、義父からはニコラスはカルガモの子のようになってしまったと言われている。
「あんまり調子に乗るとこれが出ますよ」
マーガレット様から結婚祝いに一ダースの扇子を頂いた。その後も結婚記念日には毎年新しい扇子が届く。
幸い本来の役目通り扇ぐ以外に使ったことは無いが、見せるだけでも十分役に立っている。
「それだけは勘弁してくれ。五年経ってもペニスを打たれたトラウマが消えないんだ」
コゼットがケーキに夢中なのを確認した後、ニコラス様をカーテンの影に引きずり込んでキスをした――――



「コゼット、ケーキは美味しい?」
「マーガレットおばさま!お誕生日おめでとうございます。メイシーおばあちゃまもお元気そうでよかったです」
「コゼットはすっかりお姉さんになったわねぇ。ニコラスがもっと甘えて欲しいと言ってたわよ。たまには親孝行と思って我が儘を言ったら?」
メイシーおばあちゃまはそう言うけど、パパはちょっと変なんだもの。甘やかしてくれるパパのことも、綺麗でしっかりもののママのことも大好きだけど……やっぱりパパは変。
「ツリーハウスに椅子が欲しいって言ったら裏庭に家を建てようとしたの。だからパパには何もおねだりしない事にしているの」
「お前の父さんは、僕の父さんより変わっているな」
一緒にケーキを食べてた従兄弟のシドに言われる。
「シド、パパは私が結婚する時は号泣すると思うわ」
「ん?僕に関係ある?」
シドにニヤリと笑いかけていたから、頭上で大人二人が目を合わせたことに気が付かなかった。
「コゼット、アルバンに新しい女の子のお友達を作ってあげたいのだけどどの子と仲良くなれそう?」
アルバンはマーガレットおばさまの子供で私にとっては大きな従兄弟のお兄ちゃんだ。
アルバンお兄ちゃんと仲良くなれそうな人……アリーおばさまに失恋したのは子供の私でも知っている。
アリーおばさまと顔を合わす度、ランドルフおじさんと別れないのか聞いているんだもの。
アルバンお兄ちゃんには幸せになって欲しいし、お兄ちゃんとランドルフおじさんの言い合いはそろそろ飽きた。
会場を見渡しながら、私とシドのようにセットになる人を探す。言葉では説明出来ないけど、私とシドはセットだと感じる。
アルバンお兄ちゃんとセットの人が見つからなくて、首を横に振ろうとした時、扉から可愛らしい女性が入ってきた。
薄いオレンジ色のクリームが乗ったケーキ指さす。
「このクリームと同じ色のドレスの人。あの人がアルバンお兄ちゃんとセットだよ」
「確定よ」
「間違いないわ」
「コゼット?セットってなんだよ」
だからこの感覚を説明出来ないんだってば。

 半年前、眠れなくて夜中に部屋を抜け出して家の中でお散歩をしていた時、泣いているお姉さんに会った。
体がスケスケで変なお姉さんだったけど怖くはなかった。パパと同じ髪と瞳の色だったし。
「なんで泣いてるの?私に何かできる?」
ママから困っている人がいたら手を差し伸べなさいと言われている。泣いてる人は困っている人でしょ?
「……貴女私が見えるのね?やっと来たわ!待っていたのよ。だって幽霊らしく泣き続けるのも体力使うでしょ?そうだ!メイシーとマーガレットはお元気?」
泣き止んだお姉さんは意外と気さくでおしゃべりだった。
お姉さんは、結婚する前に好きな人が戦争で死んでしまって悲しいんだって。もっと早く好きだと気が付いていたら結婚できたのにって言ってた。
「天国でその人が待っているんじゃないの?」
「あらやだ。普段は天国で二人で幸せに暮らしているのよぉ。死んだあと向こうで結婚したの。うふふっ、独身で通した甲斐があったわよ。でもね、上で毎日ラブラブで過ごしているのに、この家に女の子が産まれると降りて来ないと落ち着かなくなるのよぉ」
どうやら、生きている間に好きな人が恋し過ぎてこの家に念を残し過ぎちゃったみたいなの。自業自得だから誰にも文句言えないとケラケラ笑っている。
「あらそろそろ夜明けだわ。天国に帰らなきゃ。ダーリンが首を長くして待っているに違いないわ。最後にあなたたちが幸せな結婚が出来るようにおまじないを掛けてあげるわね」
と、おでこにキスした後、ウインクして空へと消えて行った。

あの後から、パパとママがセットだと分かるようになった。
それにシドを見て、シドが私のセットだと分かった。
アルバンお兄ちゃんもあのオレンジのドレスの人とセットだわ。
わたくしの時より早かったわね」
「あのお姉さんが、早く旦那さんの所に帰りたいから私に聞こえるように頑張って大声で泣いたって言ってたよ」
「幽霊のくせにせっかちね。私が死んだらタイミングの重要性を教えてあげなくちゃ」
「なぁ、何の話?幽霊ってどういうこと?」
「「シドは関係ないわ」」
「ちぇっ!」

【ママ、私が産まれた時の事を尋ねると「あなたはお利口だったわ。あなたはね……」って言いながら、なぜため息をつくの?】
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

sayako
2021.10.01 sayako

ニコラス様の泣き虫さんがついに!!!
ありがとうございます!!笑

2021.10.01 三月ねね

ついにです!ぱんぱかぱーんです!お赤飯です!
しかし泣き虫って凄いネーミングセンスですねぇ。
クロエにペットの名前を決めさせてはダメだわ。

解除
sayako
2021.09.29 sayako

最中におしゃべりし過ぎです!笑
ニマニマが止まりません!笑笑

2021.09.29 三月ねね

まだですねぇ、かわいそうに……。まだピカピカの新品君ですよ。光ってますよ!
もうちょっと新品君のままでいいんじゃないだろうか?ぐふふっ。

解除
sayako
2021.09.26 sayako

前作に続き最高に面白いです!!!
更新を楽しみにしております!

2021.09.27 三月ねね

うわー!ありがとうございます。とってもとっても嬉しいです。ちょっと癖のある子たちが多いのですが、そんな彼ら彼女達が大好きなので、最後まで頑張ります!

解除

あなたにおすすめの小説

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます

さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。 望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。 「契約でいい。君を妻として迎える」 そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。 けれど、彼は噂とはまるで違っていた。 政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。 「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」 契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。 陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。 これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。 指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。