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 枕の硬さに目が覚めた。
首の下とウエストにランドルフの腕があった。太ももには……硬いあれが。
目を閉じたランドルフの表情は穏やかに見える。
寝ているはずなのに、硬いあれがピクピクと動いている。

君は不思議な存在だねぇ。

恥じらいより好奇心が勝って、そーっと指で撫でた瞬間
「うおぉっ!」
持ち主が飛び起きてしまった。

残念。

「これって、ずいぶん敏感なのね」
私の顔を見て固まっていいる。
まぁ、処女と愛し合ったはずなのに、朝起きたら痴女になっていたら驚くだろうな。
「え?何?夢?」
焦るランドルフと一緒に寝癖がぴょこぴょこ跳ねている。
「夢じゃないです。おはようございます」
「……現実か。よかった。昨日の事が夢なら立ち直れなかった」
軽いキスと朝の挨拶をもらい、もう一度抱きしめられる。
「朝から裸のアリーとかヤバイな。こっちも好きなだけ触ってくれ」
ゆっくりと擦り付けながら、胸に手が伸ばされたところで
「気にはなるけど起きなきゃ。今日が最終日なのにもう昼前よ」
声を掛けると名残惜しそうに、胸とお尻を一撫でしてから、シャワールームに送り出してくれた。

恥ずかしい所がヒリヒリするし、鬱血痕が身体中に散らばっている。
きわどい所にもつけられているのがこそばゆい。
シャワーの熱とは違う熱で頬がほてる。

あぁ、現実なんだなぁ。ランドルフの言う通り、夢じゃなくてよかった。

いつの間にか準備されていた衣類を身に付け、居室に戻ると、年配の侍女とランドルフがにらみ合っていた。
「とにかく体を流して来て下さいませ。そのまま昼食にお連れするわけにはいきません」
「ならアリーを先に連れて行くな。アリーは俺と一緒に行く」
厳しい顔をした侍女が握り込んだ手をランドルフに向って広げる。
「奥様に見て頂きます」
手の中には、非常に見覚えのある貝ボタンが。

「おいっ!客を脅すのか!?」
「とんでもございません。大切なお客様であるお嬢様を心配しているだけでございます」
また、にらみ合い始めた二人を、いつまで続くのか見ていたい気もするが、お腹が空いたのだ。
「ランドルフ、大丈夫だからシャワーを浴びて来て」

 侍女に着付けてもらい昼食室に向かう。
こんなにお腹が空いたのは久しぶりだわ。

どうやら全員集まって食べるわけではないらしく、エドモンド侯爵夫妻と、ランドルフのお兄様しかいなかった。
「おはようございます。遅くなり申し訳ございません」
ペコリと頭を下げながら、アルバンがいなくてホッとする。
昨日の今日ではさすがに気まずい。
「おはようアリーさん。それぞれ勝手に食べるから気にしないで大丈夫だよ」
「フェルナンの言うと通りだよ。毎年だれも朝に起きてこないし、女性陣は部屋で食べる方が多いんだよ。それより、よく歩けてるね?」
面白そうな顔でスタンに言われたが、これはそういう意味だよね。
家族の前で何てことを言うんだ!

無言を貫き、引いてもらった椅子に座る。
「まさか……なにも?」
スタンがいぶかし気な表情になった所で、さっきの侍女がマーガレットに手の平を広げて無言で差し出している。
驚いて侍女を見ると、
わたくしは奥様に見て頂くと言っただけです。交換条件は提示しておりません」
シレッとした顔で言われた。
皆が侍女の広げた手の中の物を見ている。
指が反り返るほど広げているので、部屋の隅に控えている騎士にも使用人にも見える。
タイミングの悪いことに、皆がボタンを見つめる中、ランドルフが部屋に入ってきた。

瞬時にスタンが爆笑しだす。
「ぎゃははははっ!!!お、おまえ、どんだけ余裕ないんだよ!ドーテーかよっ」
四十二歳のいい大人が、十代のような言葉で弟をからかいながら、お腹を抱え爆笑している。
「……獣だこと」
広げた扇子の奥からマーガレットは心底嫌そうな目をのぞかせている。
「僕だって若かりし頃はマギーの魅力にあらがえなくて情熱的に求めたものさ。若いって素敵だよね」
ニコニコしたフェルナンが、フォローにならないフォローを入れる。
「……コルセットの紐は鋭利なもので切られておりました。シーツは行方不明です」
仕事熱心な侍女は、報告指示を見事に全うした。

とうとう椅子から転げ落ちたスタンは、床で笑い転げる四十二歳児となり、
マーガレットは「アルバンは馬鹿だけれど、ランドルフよりは人間よ」と、どちらの事もけなしながらアルバンをおすすめするという器用なことを始めた。
エドモンド侯爵の手腕をもってしてもフォロー出来ないと判断したのだろう、フェルナンはベーコンの焼き加減について料理長を褒めだした。
使用人達は、ランドルフを蔑んだ目で見ている。
見られている本人は、怒りで目を吊り上げ顔を真っ赤にしているが、事実に反論の言葉が出てこない様子だ。
カオスの中、食欲が急速になくなる。
――あぁ、私も部屋で食べればよかった……
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