【完】白雪姫は魔女の手のひらの上で踊る

番外編4 お姉さま方も手のひらの上

「おはよう、今日はアリーちゃんが受付なんだね」
岩石みたいな強面おじ様がにこやかに挨拶をしてくれた。
前回受付に座ったのは、マーガレットに連れ去られた日だった。

　エドモンド侯爵邸から帰ってきてすぐに、経営権の買い取りについてとんとん拍子に話が進み、二か月後に所長が引退する事となった。
もうすぐ、ランドルフを所長とした新生斡旋所がスタートする。
今までのように『困った時のマリアン』というわけにいかなくなる。
マリアンは「たまになら良いわよ」と言ってくれたが、所長がマリアンを離さないだろう。

ジェシカと私は、お互いの休日にサポートし合うため、事務と受付を一人で回せるよう、それぞれの仕事を教え合っているところだ。
今日は立場を入れ替えて一日過ごしてみようと、朝から受付に座っている。

ジェシカから教えられた、目の前のおじ様の情報を脳内で検索する。
「岩石顔だけど典型的な気の良いおっさんよ。あんな顔して紳士だから女性のチームに入れても大丈夫。ただし、いびきがうるさいから、繊細な人と同じチームにしない方が無難ね」

依頼書を確認すると商団の護衛だ。メンバーも問題ない。
サインをもらって、安全を祈りながら送り出す。

午前中の仕事が終わる直前だった。
全員を送り出したので、不備はなかっただろうかと書類に目を通していた時、
「これ」
若い女性の声で、求人依頼書を差し出された。
『商店での電話番を半日』
商店のおばさんが腰痛で通院しているのでその間の電話番だ。
難しさは無いので、よっぽどの無愛想でない限り大丈夫だろうと顔を上げた。

金髪のお姉さまだった。後ろには茶髪と黒髪もいる。

仕事中だ。今は冷静に対応しよう。
「依頼人の希望は明日の午前中ですが、ご都合はいか――」
「ランドルフったら、昨夜も激しくって朝寝坊しちゃったのよぉ」
うんうん、確かに昨夜も激しかった。
「今夜も来るから、午前中だと起きられるかしら？ねぇ、あなた達はどう思う？」
激しくっても、頑張って起きてますよ。おばさんだけじゃなくて私も腰が痛いですけどね。
「あたしの時は朝も求められるから無理ねぇ」
黒髪参戦。
そうそう、起きた時に勝手に挿れられてた時は本気で叱ったよ。
「あら、私の時は回数が多いからヒリヒリしちゃって椅子に座ってられないと思うわ」
茶髪、あなたわかってるー！絶賛ヒリヒリ中です。平日は一回にしてもらってるけど、ねちっこいんだよね。

「無理なら他の依頼を見てみますか？」
「ランドルフのって大きいから、あなたじゃ無理でしょうねぇ」
確かに大きいけども！依頼を受けるのかどうかはっきりしてよっ！
「あら嫌だわぁ、そんなこと言ったら可哀そうじゃない。大体、彼女の胸じゃ……勃たないでしょ？」
こんな胸でも離してくれませんが。
「胸は大きいければ大きいほど良いって言ってたわ」
腹立つ！一応、平均値は超えてると思うんですけどねっ！
「私っ！来月結婚するんです。斡旋所でもお披露目するので、よかったら招待状をお送りしましょうか？」
「「「は？結婚！？」」」
「そうです。同棲中なんです」
「……あ、そうなの。なんだ、そうなの。ふーん……あんた結婚するんだ」
「はい、依頼はどうしますか？」
「やめとくわ、じゃあね」
ちょっと待て。いびりに来ただけか！？
「ハニー、もう休憩時間だよ？」
足音も気配もなく、後ろから覆いかぶさられ、頭にキスをされた。
ハニーってなんだ。
「「「ランドルフ！？」」」
「お前ら誰だっけ？まぁいいや。ハニー、腰は大丈夫か？昨夜はちょっと激しくし過ぎて悪かったな。でも、朝もさせてくれたって良いだろ？俺がどれだけお前の胸に欲情するか知ってるくせに」
「……ランドルフもう離して。お姉さま方は逃げて行ったわよ」

「やっぱりあの女狐達が嘘つき女だったのか。もっと復讐しないと気が収まらねぇ」
どうやら、彼女達につきまとわれてうんざりしていたようだ。
「もういいよ。ここにも恥ずかしくて顔を出せないでしょ」
ランドルフは食事中も文句を言っていたが、
あーーーースッキリした！！


翌日、お姉さま方が明け方に引っ越したと聞いて、ランドルフを問い詰めたが否定された。

翌々日、手紙が届く。
　　　　『彼女達がお披露目会に出れない事を謝っていたわ
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　――――マーガレット』

一年後のマーガレットの誕生日に、侯爵邸でお仕着せを着た彼女達とすれ違う事になるが、あまりに態度が違い過ぎて、彼女達から過去の事を謝られるまで気が付かなかった。


【完結】