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二章
27.魔術2
しおりを挟む「遠い場所に届かせるのは少し苦手なようだね」
「やっぱり才能ないのかしら……」
難しくないと思っていたことを失敗してしまって、正直かなりがっかりした。
「そんなことないよ。狙った場所に放てるのは凄いことなんだって。自信を持っていい。とはいえ、途中から維持できなくなるみたいだからその理由を考えないとね」
アシルは私の手をとってまじまじと見つめた。
そんなふうに見られると恥ずかしくなる。
普段剣を握るから他の女の子と違って私の手の皮は硬いのだ。
こまめにクリームを塗っているし、なるべく豆ができないよう手袋をして剣を握るようにしているけどそれでも柔らかな女の子の手とは言えない。
「手を対象に向けるのはその方がイメージしやすいから?」
「え、ええ。手のひらを向けた方向へ火の玉が飛んでくのかなと思ってそうしたの」
「そっか。これをすぐに解決するのは難しそうだね。先に他の問題を片付けようか。シャルロット様は魔術を六日で使えるようになりたいと言ったよね。今の時点で魔術は使えてる。だから次は魔術をいつどのように使うかを考えないといけないんだ」
アシルは手を見つめるのはやめてくれたけれど、手を握ったまま次の話に進んだ。
こ、これ、このまま会話するのかな。集中できないんだけど。
「昨日の話だと剣を使いながら魔術を使いたいのかなと思ったんだけど……合ってる?」
問われて首を縦に振った。
言葉を発したら私が動揺しているのがバレてしまう。
「だったらさっきみたいに手を対象に向けて放つやり方だと剣は使えなくなってしまうね。それにどうやって魔術と剣を組み合わせるかも考えないと。できれば両手を使わずに、短い時間で魔術を使えた方がいいと思う」
私は返事の代わりに首を縦に振る。
「それに剣を使うなら身体を強化する魔術を使えた方がいい。あと相手の動きを妨害するようなものも。攻撃魔術よりもこっちの方がイメージしにくくて難しいみたいなんだ」
火や氷の方が確かに想像しやすいかもしれない。
身体を強化する魔術。ゲームの魔法で攻撃力や防御力をあげるやつかな。
実際にその魔術を使うとどうなるんだろう。
「シャルロット様は理論より感覚で掴んでいくタイプのようだから、まず俺が強化の魔術をかけてあげるよ」
アシルがそう言うと握られている手から温かい何かが流れてきた。
「なんとなく魔力の流れは感じられないかな。とりあえずこの棒を半分に折ってみて」
私の右手から手を離したアシルはローブから太い木の棒を取り出した。
いつも握っている剣の柄よりは若干細いけれど、それでも女の子が折っていい太さの棒ではない。
「これはさすがに無理じゃないかしら……」
「大丈夫、魔術をかけてるから。少し説明しておくね。今かけたのはシャルロット様の力を増幅させる魔術なんだ。だから本来の何倍もの力が出るよ」
この太さの棒を折るなんて、例え魔術で強化されてるといっても絵面が酷い。好きな人の前でやりたくはない。
とはいえできることをわざと失敗するのは協力してくれているアシルに失礼だ。
こうなったら少し力を抜いて、頑張って折りましたという体を装おう。
両手で棒を持ち、少し力を入れてみた。
すると木の棒はバキッという大きな音を立てて真ん中から真っ二つに折れてしまった。
これは酷い。
「これで強化の魔術の効果はわかったよね。基本的にはかけた場所を強くするんだ。今回はシャルロット様の上半身の筋肉を強くしたからこんな太い棒を簡単に折ることが出来た」
楽しそうに説明してくれてるけど私は何一つ楽しくない。
小枝を折るかのごとく軽々と折ってしまった。
まるでゴリラだ。私は女の子でいたいのに。
「今のを防具にかけると攻撃を通しにくい防具にすることができる。皮膚にかけると傷がつきにくい身体になる。難しいんだけど応用しやすい魔術だよ」
ひとつの魔術師で攻撃力をあげたり防御力をあげたりできるのか。便利な魔術だ。
この魔術を心に掛けられたら精神的に強くなれるだろうか。好きな人の眼前で女の子にあるまじき行動をしてしまったことを気にせずにいられるだろうか。
けれど私の乙女心を他所にアシルは嬉しそうにしている。私がゴリラみたいに棒を折ったことは気にしてないのかもしれない。
まあアシルが魔術をかけてくれて棒を折るよう指示したもんね。気にしなくてもいいのかもしれない。
「少しすれば魔術の効果はなくなるから、次はシャルロット様が自分で強化の魔術をかけてみて」
アシルは笑顔で二本目の棒を取り出した。
心做しか先程の棒より太い気がする。
これをまたアシルの目の前で折るの……?
「大丈夫、シャルロット様ならこんな細い棒、すぐ折れるようになるよ」
その、私がゴリラみたいな言い方やめてくれないかしら。
なんて余計なこと言っちゃうと意識して逆にそう見られてしまいそうだから言えない。
好きな人の前では女の子らしい私でいたかったのに!
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