16 / 27
10月28日
16.サンはルーナと出かける準備をする
しおりを挟む朝が来た。
これまでと同じようにルーナが用意してくれた果物を食べて着替え、一階にいって掃除をする。
そして昨日と同じように花を摘んで花冠を作った。
昨日よりはいくぶん上手く作れた気がする。
そうしてこれまでと同じように起きてきたルーナの手を引いて階段を降り、昨日と同じようにルーナの頭に花冠を乗せた。
ルーナは花冠に喜んでくれるわけでも嫌がるわけでもなく、ただ右手でそっと花冠に触れる。
「今日も作ったんだね。これを作るのが好きなのかい?」
「いえ、そうじゃなくて……昨日のがあまり上手に作れなかったから……。ちゃんと綺麗に作れたのをあげたかったんです」
「そうかい。……サン、今日は街に買い物にいくよ」
ルーナの言葉に僕の心臓は大きくはねた。
街は人が大勢いる。
僕が行けば大騒ぎになってしまうのではないだろうか。
街には教会だってある。異端な僕は捕らえられて火あぶりにされてしまう。
しかしルーナは僕に優しく笑いかけた。
「私たちの目の色は魔法で違う色に変えるから心配しなくていい。サンは何色の目が好きかい?」
聞かれて困ってしまった。
そんなこと考えたこともない。
おばあちゃんの目は茶色だった。村の女の子の目は灰色だった。
そして茶色と答えようとしたとき、ふと絵本の妖精の姿を思い出した。
あの妖精は金色の髪と青い目だった。
そう、あの高く澄んだ空のような色がとても好きだったのだ。
「青い色の目がいいです」
「おや、また珍しい色を選ぶんだね。いいよ、青くしてあげよう」
そうしてルーナは僕の顔の前に手をかざした。
たぶん魔法をかけてくれているのだろう。少しだけ目のあたりが温かくなったと思ったらルーナの手は降ろされた。
「ふむ、なかなか似合うじゃないか」
そうして見上げたルーナの瞳は青かった。
それは、高く澄んだ空のような青ではなく、深く落ち着いた海の青だった。
絵本の妖精に似ているけれど違う青。だけど僕はルーナにはその青の方が似合うと思った。
「これなら怖がられたり逃げられたりしませんね」
人と普通に話すことができるだろうか。
街には人が大勢いる。
誰か一人でもいい、僕を普通の人間として見てくれる人がいるのではないだろうか。
それに、街にはお店がたくさん並んでいると聞いた。
僕はそんな人が集まるような場所にはいけなかったから見たことはないけれど、そのお店で買い物をしてみたかった。
お店には何が置いてあるのだろう。
どんな形をしているのだろう。
僕は何も知らない。
それは生きていくことに夢中で周りを見る余裕も学ぶ余裕もなかったからだ。
だからこうやって知らないものを見せてもらえるのがとても嬉しい。
「では行こうか」
「あ、ルーナ様、頭に花冠をのせたままですよ」
僕はルーナが花冠を頭に乗せたまま外に出ようとしていることに気が付いた。
その姿は妖精のように見えて僕は好きだったけど、普通の人は花冠を乗せて出歩くことがないことくらい、何も知らない僕でも知っている。
「だめかい?」
「いえ、そういうわけでは……」
「まあ確かに落としたら大変だね。これは置いていくことにしよう」
そういってルーナは僕作った花冠をやさしくテーブルの上に置いた。
その花冠はまだまだ歪だし高価なものでは決してないのに、丁寧に扱ってくれているのを見てすごく嬉しくなった。
「これで何も問題ないね。帰ってきたら昨日の花冠の隣に飾ろう」
「はい」
僕は返事をしてルーナの横に並ぶ。
ここからどうやって街まで行くのだろう。
僕がこの家に来たときのことは覚えていないから異界と現界の狭間にあるというここから街までどのくらいの距離があるのかわからない。
馬車で行くのだろうか。
僕は馬車には乗ったことがないから楽しみだな、なんて考えていた。
家の扉を開けると、そこに広がっているはずの原っぱはなく、街の大通りと行きかう多くの人々が眼前に広がっている。
「??????」
「ああ、サンは初めてだね。現界ではここに家があるんだよ」
そういわれても何が何だかわからない。
僕は何度も外と中を見比べた。
後ろには今までいたダイニングだ。
ルーナが置いた花冠もちゃんとそこにある。
前には活気のある大通り。
人々が目の前を歩いていく。馬車が目の前を横切る。
いつもいる家と違って常に誰かの声がするし何かのぶつかる音や靴が石畳を叩く音がそこら中から聞こえる。
「ここはセトリア国の首都、グダニアだ。今日はここで買い物をするんだ」
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる