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ロリは寝ぼけていた
しおりを挟むライネベルテは夢の中だった。真っ暗な場所に膝を抱えて座っており、前世の事を思い出そうとしていた。
「何で血を見ただけで倒れちゃったんだろ…前にもあんな事があった?
そうだ、確か釣りをしていて…大物が引っかかって…絶対に釣るんやって…もろた!言うて…」
そう思い出しかけて、ふと目の前に赤い紐がぶら下がり…思わずフィッシュオンや!と言わんばかりに引っ張った。
「いてて…おっ、目が覚めたか?」
「………?」
超好みの低音ボイスが聞こえ、ライネベルテはうっすらと目を開けた。赤い紐だと思っていたものは、髪の毛の束だった。
深紅の髪の、男の人だ。褐色肌で前髪をオールバックにして…綺麗な緑色の瞳…何このイケメン…
まだ頭がぼうっとしていて、夢と現実の区別がついていない。
「おっと…まだ寝ぼけてるみてぇだな。
いいさ、寝てろ寝てろ。しばらくここで見といてやっからよ」
そう頭をポンポンされ、ライネベルテはまた目を閉じ眠りについた。
めっちゃタイプや…と、思いながら。
・・・・・・・
一方、医務室には治療を終え眠っているウルストと、その傍らにはリリディエラがいた。
「ふぅ…大分魔力を消費したわ…彼はもう大丈夫そうだけど、私はまだ動けそうにないわね…」
ホッとしたリリディエラだが、すぐに悲しい表情になった。
「大怪我してくれたら、なんて冗談でも言ってはいけなかったわ…。
きっとバチが当たったのね。彼は何も悪くないのに…」
思わず目を潤ませ、目頭を押さえるリリディエラの手を、誰かが取った。
「!ウルスト様……!」
「…おや、あなたは王女リリディエラ様ではないですか…女神様かと思った。
フフッ。一瞬、こんな僕でも天国に逝けたのだと喜んでしまいましたよ」
「ま、まぁご冗談を…それより、気が付いて良かったですわ」
大本命に微笑みかけられ、思わず真っ赤になる彼女を気にせず、ウルストは続けた。
「…僕は負けたのですね、あの男に。
殺されたと思いましたが運良く生き延びて…いや、違うな。
もし僕を殺してしまったら、あの男は失格になってしまう。だから死なない程度に痛めつけた、って所でしょうか。
王女自ら治癒して頂くなんて…全く、お恥ずかしい」
「そんな事はありませんわ!とても素晴らしい剣技でした。
それにあのバルドという男、どこか怪しくて…」
「あなたもそう思いますか?
実は彼とは少し前、騎士の合同訓練の時に一緒に組んだ事があるんです。
まだ若くて剣の動きにムラがあって…僕が指導してあげたんです。
正直油断もしていました。でも先程の戦いでは全然動きが違った、まるで別人だったのです」
「魔法の類いかとも思いましたが…魔具には何も反応はありませんでしたわ。
明日の決勝戦では、タナノフ国王子のドルーガ様と戦います。
…万が一の事も考えて、棄権させたほうがいいのかしら。彼に何かあれば、外交問題にも発展してしまうかも…」
悩むリリディエラに、ウルストはさらに問いかける。
「けれど、もし彼が棄権すればバルドが優勝して…あなたの結婚相手となってしまうのですよ?」
「うっ。そっ、そうだったわ…そんなの嫌。どうしたら…」
急に焦る彼女を見つめながら、彼は呟いた。
「…僕は…伯父上のようには、なれないのかな…」
「え?」
「僕の伯父は…かつて騎士で『渡り人様』の護衛をし、彼女を守り抜きました。
僕は彼のようになりたかった。強くて優しくて、最後まで愛する人を守った彼に憧れて…」
「渡り人様ぁ?!た、大陸中で話題になりましたわね。異世界から来た『渡り人様』と、『守護騎士』とのラブロマンス…!
う、うっそ!まさかウルスト様の親族でらしたなんて…!」
リリディエラは猫を被るのも忘れ、興奮した。彼らの物語は歌劇にもなり、今でも目玉公演となる程人気なのだ。彼女も何度も劇場へ足を運んだ。
元々夢見がちな性格ではあったが、自分の目前に伝説のカップルの関係者がいると知れば、それはより加速する。
「僕にももう少し力があれば、あなたを守って差し上げられるのに…」
「!是非!守って下さいまし!」
「?!」
突然ガシィッ!!と彼の手を掴むリリディエラ。
「今後の事はお父様に相談しますわ!そうよ、あんな得体の知れない残虐男と添い遂げるなんて、私でなくても全マルロワ国民が反対してくれるわきっと。
だからウルスト様は安心して、怪我が完治するまでご静養くださいませ。
完治したら改めてお父様達に結婚のご挨拶をしましょ!ええそうしましょう!!」
「え?結婚?!え、ちょっ…僕は護衛するという意味で言って…」
リリディエラは彼のツッコミが聞こえず…いや、聞かないフリをしたのかも知れない…手を離し、座っていた椅子から勢いよく立ち上がった。
「そうと決まれば、早速お父様の所へ行かなきゃ!あっ、魔力切れで足元がフラつくわ…ぐぬぬ!な、何のこれしき!!」
そして王女らしからぬ足の踏ん張りを見せつけ、部屋を出ていった。
残されたウルストは呆然とし、少しして我に返った。
「プッ…フフッ。あれが彼女の素なのかな。
王女然とするよりあっちの方が好みだね。フーミン様にも似ているし…」
彼はかつて幼少期にお世話になった渡り人を思い出しながら、笑っていたのだった。
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