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ロリは出オチに遭遇した
しおりを挟む「よし、準備はいいな?ロリ」
「はい!ドラ様。兵士の皆様も、どうぞよろしくお願い致しますわ!」
「(可愛い…)はい、ロリ様!!」
周囲の兵よりも一際大きい馬に乗ったドルーガ。彼は竹籠を背負っており、中にはライネベルテが後ろを向いてすっぽり入っていた。
そのまま兵達に挨拶をしているが、顔だけ出している姿はとても可愛らしい。…今が戦闘時でなければ。
隣にいるナッジは不安で仕方がなかった。
「よし、じゃないでしょう殿下!やっぱりコレは危険すぎるのでは…」
「いや、大丈夫だ。むしろロリのおかげで後ろにも目が付いたから、実質360度見渡せるぞ」
「そうですわねドラ様!背後に魔獣が出たらお知らせしますし、ロリが障壁を出して守って差し上げますわ!」
「ハハッ!頼もしいじゃないか!!
オラ久しぶりにワックワクしてるぞ!!」
「もうやだこの二人!恐れと視野を知らない!!」
ナッジは叫んだ。
すると、前方が何やら騒がしくなってきた。ドルーガはすぐに表情を変え、大槍を構える。
「お、魔獣のお出ましか…
ん?!何だありゃあ?!なんつうデカさだ!!」
「ドラ様?何が見えますの?遠すぎてロリ達には分かりませんわ」
「あれは…虎だな。すんげぇ大きさと力で兵士達を蹴散らしている」
「虎ですって?!も、もしかしてリンリンなの?!」
ライネベルテは焦った。まさか彼女が魔獣化してしまったのかと。
「いや、違うな。リンリンよりも数段大きいし…鈴も付けてねぇ。ありゃ雄虎だ。
しかし変だな。魔獣は目が赤くなるのが特徴だが、あれは変わってねぇぞ」
ドルーガは首を傾げる。
「ぜ、全員戦闘の準備を!!殿下達を守れ!!」
ナッジは慌てて周囲の兵に命令するが、雄虎は足も速かった。すぐにライネベルテ達にもハッキリ見える程近づいてくる。
ドルーガは一呼吸おいて、籠内の彼女に言った。
「いよいよ戦闘開始だ…ロリ、覚悟はいいな?」
「はい、ドラ様!何処まででも貴方について行きますわ!!」
「何があってもお前ぇだけは絶対に守るから…
よし、行く『ああっ?!虎が飛びかかってきた危ない殿下うわあああーーーっ!!!』
お、おいナッジーーーー?!!!!!」
……彼等に何が起きたのか、説明しよう。
まず雄虎が突然勢いをつけて飛躍し、ドルーガに襲いかかった。
彼は大槍で迎え撃とうとするが、いきなり目の前にナッジが後ろ向きに来て庇い…背中をザックリ爪で引っかかれたのだ。
ナッジは馬からくずれ落ちる。ドルーガはすかさず大槍を振るい、雄虎と距離を取った。
…以上である。
雄虎はドルーガを強敵と判断し、距離を取ったまま「グルルル…!」と警戒している。
その隙にドルーガは構え直し、兵に命令した。
「早くナッジを救護隊の元へ連れて行け!!」
「は、はい!!」
兵達は急いでナッジを運んで行く。
その間「ううっ…」と彼は呻いていたので、とりあえず息はあるようだ。
ドルーガとライネベルテは会話こそしていなかったが、きっと心が通じ合い、こう思っていただろう。
「…何故彼はいきなり出てきたのだろう?」と。
現代でいう、出オチであった。
・・・・・・・
雄虎はなおも「グルル…!」と唸り続けた後、いよいよドルーガに襲いかかった。
彼はすかさず避け、槍で応戦する。
振り回すと運良く口金の部分が雄虎の額にガツン!と当たり、よろめいている。
「っひゃーっ!!硬ってぇな!!手がジンジンするぞ」
「ドラ様、大丈夫ですの?」
「ん?ああ、平気平気。しかしこりゃあ、長期戦になるな…」
体制を立て直した雄虎は、ますます怒りながら後ろに下がっている。より勢いをつけて走り襲いかかるのだろう。ドルーガも構えの姿勢を崩さない。
両者がいよいよ衝突しようとした、その時。
真上から突然「グルルルウン!!」と吠えながら、両者の間に着地する一頭の虎がいた。
ライネベルテはその姿を見て、声を上げる。
「リンリン!!」
リンリンは地に足をつけるやいなや、雄虎に向かい勢いよく右前足でストレートパンチをかました。バァン!!と重厚な音が響く。
「ガアアアアアウ!!!」
と、雄虎は叫びながら吹っ飛んだ。
リンリンはそのまま雄虎の元へ走っていき…何やら言い合いを始めた。
「ガウッ!!ガウガウガウ!!」
「ガウッ!………ガウ?ガウン?!!…ガウウウウーーーン!!!!!!!」
途端に雄虎は尻尾をはち切れんばかりに振り、リンリンにスリスリしている。そして今度は左前足でビンタをくらっていた。それでもなおリンリンにすり寄っている。
先程とは態度がえらく変わっていた。
ライネベルテはまさか…と思い、リンリンに向かって叫んだ。
「リンリンー!!その子、もしかして例の探してたダーリンなのー?」
「ガウーッ!」
彼女はそうだ、とばかりに頷いた。
ドルーガはすっかり拍子抜けしている。
「な、なんだあ?!リンリンじゃねぇか!
それにあの雄虎、急に様子が変わったぞ?」
「ああ、ドラ様はご存知なかったのね。
あれは多分、リンリンの恋人ですわ」
リンリンはドタドタとドルーガ達の前にやってきて(雄虎にしがみつかれながら)、深々と頭を下げて何やら話す。
「ガウッ…。ガウガウ、ガウ…」
右前足で雄虎、北の魔獣の巣、再び雄虎の瞳の順に指し示し、ブンブンと否定するように足を振った。
そして「…ハアッ」と、ため息をつくような仕草をし、雄虎の頭をグッと掴みながらまた頭を下げた。
それを見たライネベルテは通訳を試みる。
「ええと…たぶん、この雄虎ちゃんは魔獣化してはいないと言いたいようですわね。
あと彼は、なんか周りの雰囲気に流されて人を襲っちゃったみたいですゴメンなさい、とも言いたいのかしら?」
「ガウッ!」
そう!と言いたげにリンリンは器用に前足を合わせ拍手した。
「ロリ…お前ぇ、動物の気持ちがわかるなんてスッゲェな!!」
ドルーガは感心していたが、周囲の兵達は流れについて行けず、ポカンとしていた。
…ナッジの存在が、いかに有難いか分かった瞬間だった。
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