転生ロリ王女は脳筋王子をおとしたい

須田トウコ

文字の大きさ
34 / 55

ロリは出オチに遭遇した

しおりを挟む
 
「よし、準備はいいな?ロリ」
「はい!ドラ様。兵士の皆様も、どうぞよろしくお願い致しますわ!」
「(可愛い…)はい、ロリ様!!」

 周囲の兵よりも一際大きい馬に乗ったドルーガ。彼は竹籠を背負っており、中にはライネベルテが後ろを向いてすっぽり入っていた。
 そのまま兵達に挨拶をしているが、顔だけ出している姿はとても可愛らしい。…今が戦闘時でなければ。

 隣にいるナッジは不安で仕方がなかった。

「よし、じゃないでしょう殿下!やっぱりコレは危険すぎるのでは…」
「いや、大丈夫だ。むしろロリのおかげで後ろにも目が付いたから、実質360度見渡せるぞ」
「そうですわねドラ様!背後に魔獣が出たらお知らせしますし、ロリが障壁を出して守って差し上げますわ!」
「ハハッ!頼もしいじゃないか!!
 オラ久しぶりにワックワクしてるぞ!!」
「もうやだこの二人!恐れと視野を知らない!!」

 ナッジは叫んだ。

 すると、前方が何やら騒がしくなってきた。ドルーガはすぐに表情を変え、大槍を構える。

「お、魔獣のお出ましか…
 ん?!何だありゃあ?!なんつうデカさだ!!」
「ドラ様?何が見えますの?遠すぎてロリ達には分かりませんわ」
「あれは…虎だな。すんげぇ大きさと力で兵士達を蹴散らしている」
「虎ですって?!も、もしかしてリンリンなの?!」
 ライネベルテは焦った。まさか彼女が魔獣化してしまったのかと。

「いや、違うな。リンリンよりも数段大きいし…鈴も付けてねぇ。ありゃ雄虎だ。
 しかし変だな。魔獣は目が赤くなるのが特徴だが、あれは変わってねぇぞ」
 ドルーガは首を傾げる。

「ぜ、全員戦闘の準備を!!殿下達を守れ!!」
 ナッジは慌てて周囲の兵に命令するが、雄虎は足も速かった。すぐにライネベルテ達にもハッキリ見える程近づいてくる。
 ドルーガは一呼吸おいて、籠内の彼女に言った。

「いよいよ戦闘開始だ…ロリ、覚悟はいいな?」
「はい、ドラ様!何処まででも貴方について行きますわ!!」
「何があってもお前ぇだけは絶対に守るから…
 よし、行く『ああっ?!虎が飛びかかってきた危ない殿下うわあああーーーっ!!!』
 お、おいナッジーーーー?!!!!!」


 ……彼等に何が起きたのか、説明しよう。


 まず雄虎が突然勢いをつけて飛躍し、ドルーガに襲いかかった。
 彼は大槍で迎え撃とうとするが、いきなり目の前にナッジが後ろ向きに来て庇い…背中をザックリ爪で引っかかれたのだ。
 ナッジは馬からくずれ落ちる。ドルーガはすかさず大槍を振るい、雄虎と距離を取った。

 …以上である。

 雄虎はドルーガを強敵と判断し、距離を取ったまま「グルルル…!」と警戒している。
 その隙にドルーガは構え直し、兵に命令した。

「早くナッジを救護隊の元へ連れて行け!!」
「は、はい!!」

 兵達は急いでナッジを運んで行く。
 その間「ううっ…」と彼は呻いていたので、とりあえず息はあるようだ。

 ドルーガとライネベルテは会話こそしていなかったが、きっと心が通じ合い、こう思っていただろう。

「…何故彼はいきなり出てきたのだろう?」と。

 現代でいう、出オチであった。





・・・・・・・




 雄虎はなおも「グルル…!」と唸り続けた後、いよいよドルーガに襲いかかった。
 彼はすかさず避け、槍で応戦する。
 振り回すと運良く口金の部分が雄虎の額にガツン!と当たり、よろめいている。

「っひゃーっ!!硬ってぇな!!手がジンジンするぞ」
「ドラ様、大丈夫ですの?」
「ん?ああ、平気平気。しかしこりゃあ、長期戦になるな…」

 体制を立て直した雄虎は、ますます怒りながら後ろに下がっている。より勢いをつけて走り襲いかかるのだろう。ドルーガも構えの姿勢を崩さない。
 両者がいよいよ衝突しようとした、その時。

 真上から突然「グルルルウン!!」と吠えながら、両者の間に着地する一頭の虎がいた。
 ライネベルテはその姿を見て、声を上げる。

「リンリン!!」

 リンリンは地に足をつけるやいなや、雄虎に向かい勢いよく右前足でストレートパンチをかました。バァン!!と重厚な音が響く。

「ガアアアアアウ!!!」

 と、雄虎は叫びながら吹っ飛んだ。
 リンリンはそのまま雄虎の元へ走っていき…何やら言い合いを始めた。

「ガウッ!!ガウガウガウ!!」
「ガウッ!………ガウ?ガウン?!!…ガウウウウーーーン!!!!!!!」

 途端に雄虎は尻尾をはち切れんばかりに振り、リンリンにスリスリしている。そして今度は左前足でビンタをくらっていた。それでもなおリンリンにすり寄っている。
 先程とは態度がえらく変わっていた。

 ライネベルテはまさか…と思い、リンリンに向かって叫んだ。

「リンリンー!!その子、もしかして例の探してたダーリンなのー?」
「ガウーッ!」

 彼女はそうだ、とばかりに頷いた。
 ドルーガはすっかり拍子抜けしている。

「な、なんだあ?!リンリンじゃねぇか!
 それにあの雄虎、急に様子が変わったぞ?」
「ああ、ドラ様はご存知なかったのね。
 あれは多分、リンリンの恋人ですわ」

 リンリンはドタドタとドルーガ達の前にやってきて(雄虎にしがみつかれながら)、深々と頭を下げて何やら話す。

「ガウッ…。ガウガウ、ガウ…」
 右前足で雄虎、北の魔獣の巣、再び雄虎の瞳の順に指し示し、ブンブンと否定するように足を振った。
 そして「…ハアッ」と、ため息をつくような仕草をし、雄虎の頭をグッと掴みながらまた頭を下げた。
 それを見たライネベルテは通訳を試みる。

「ええと…たぶん、この雄虎ちゃんは魔獣化してはいないと言いたいようですわね。
 あと彼は、なんか周りの雰囲気に流されて人を襲っちゃったみたいですゴメンなさい、とも言いたいのかしら?」
「ガウッ!」

 そう!と言いたげにリンリンは器用に前足を合わせ拍手した。

「ロリ…お前ぇ、動物の気持ちがわかるなんてスッゲェな!!」
 ドルーガは感心していたが、周囲の兵達は流れについて行けず、ポカンとしていた。

 …ナッジの存在が、いかに有難いか分かった瞬間だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。  虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...