転生ロリ王女は脳筋王子をおとしたい

須田トウコ

文字の大きさ
42 / 55

後日談 ナッジ家に受け継がれるもの その2

しおりを挟む
 
 モネアは包みを持ったまま、その場に突っ立っていた。

(ど、どういう事なの…?!)

 何かの見間違いかと思い、もう一度包みを開けてみる。やっぱり鞭だった。モネアは混乱している。

(…使う側と使われる側、どちらなのかしら…?)

 問題はそこではないが、誰も彼女に助言してくれる人はいないのである。

(この部屋にあったという事は、やはりナッジ様の物なのかしら?そ、そんな…あんなに無邪気な子供のように寝ている彼が…?!)

 と、モネアはスヤスヤと幸せそうに眠っているナッジを見た。すると彼はもぞもぞと動き、うーん、と呟いている。
 彼女はハッとして我に帰り、その包みと毛糸玉を慌ててガサッ、と持っていた紙袋に入れた。
 そして何食わぬ顔をしてソファへと戻り、そっと膝枕を続けてあげたのだった。





・・・・・・・





 それから小一時間が経ち、ノルダが夕食の時間だと知らせに来た。
 膝枕をしてあげていた現場を見られた彼はとても恥ずかしがっていたが、モネアは平然を装っていた。
 …この行為よりもっと、見られたら恥ずかしいモノを見つけてしまったからだ。

 そのまま食堂へ向かい、ちょうど仕事から帰ってきたニッチ宰相も加わって、夕食となった。

「…それにしても、城で浮いた話一つ聞かなかったナッジが、こんなに素敵なお嬢さんを連れて来るとはな。父はホッとしているぞ」
「本当よねぇ。ナッちゃんてば、今まで誰一人家に連れて来なかったんだもの。やきもきしてたわ。
 やっぱり、離れ家に部屋を移させて、自分の事を自分でさせる様にしたのが正解だったのかしら。今まで甘やかし過ぎたものね」

 両親の言葉がチクチク刺さったナッジは、半ベソをかいて怒った。

「ち、父上に母上っ!!
 モネアさんの前でそういう話するのヤメテ!!もっと僕の株が上がる話をしてくれよ!!」
「うふふ、ナッジ様がお二人に大変愛されている事がわかって、良かったですわ」

 モネアは笑っていた。
 しかし、笑ってばかりもいられない。

 その後案内された客室で、彼女は一人でまた悩んでいた。

「結局、返しそびれてしまったわね…」

 手には先程のアイテムが入った包みがある。

「でも返しようがなかったものね。
 まさか本人に落ちてましたわ、って渡すわけにもいかないし…あぁ私のバカ!どうしてあの時すぐ元の位置に戻さなかったの!」

 そうは言っても、もう遅い。モネアは観念してもう一度包みの中を見る。
 相変わらず不気味に輝く鞭と…もう一つ、何やら布のようなものが入っていた。取り出してみると…

「え…?!コレはまさか…女性用の衣装?!」

 そう、上下に分かれた黒い女物の衣装が…現代の日本でいう所の、ビキニのようなものが入っていた。モネアは彼に失望しながら、確信した。

「ああ…ナッジ様はシバかれる側なのね…
 誰か好みの女性にコレを着させて…あら?」

 と、言いかけて疑問に思った。
 先程ノルダが「家に誰一人連れてきた事はない」と言っていたではないか。
 それでは誰に着させているのか…まさか、この家のメイドの誰かだろうか。

 そういえばナッジは食事の後、若いメイドと何やらコソコソ楽しそうに話をしていた。

 …普段は穏やかなモネアだが、なんだか怒りが込み上げてきた。彼ら二人が怪しい関係だと勘違いしたのである。

「…何よ、ウブなフリして夜は『おたのしみ』だったんじゃないの!
 しかもあんな若いメイド相手に…!馬鹿にして!」

 そして手に取った衣装を、もう一度凝視する。

「……私だってまだ若いわよ!これくらい面積が小さい衣装だって、着られるわ!!
 んん…よいしょっと…うっ、ちょっとキツ…いえ、平気よほら!」

 と、何とか押し込んで着てみた。
 何を押し込んだのか、それはもちろん胸である。

 着られてホッとしたその時。
 突然、フッと部屋が暗くなった。

「きゃっ!…あら、蝋燭が切れたのかしら?」

 メイドを呼ぼうかとも思ったが、もう就寝時間だし遠慮した。
 それに今日は晴れていて星が出ており、外が明るい。モネアは窓へと向かい、カーテンを開けたのだった。





・・・・・・・





「…そろそろ時間かな…?」

 ナッジはモネアがいる客室の外の、バルコニーに身を伏せていた。手には溢れんばかりの薔薇の花束を持っている。
 実は彼は、一つのサプライズを用意していた。キッカケはある歌劇好きのメイドの話だった。
 今、巷ではこんな作品が人気を集めているという。

『とある鍛冶屋の息子が、貴族の娘に恋をした。二人は両思いだった。
 しかし、娘の父親は反戦主義者。武器を作る鍛冶屋の息子を、交際相手として認めようとはしなかった。男が女の家に行っても門前払い。
 それを哀れに思った娘のメイドが、彼女の就寝前に一計を案じた。
 娘の部屋の蝋燭を予め短くしておく。しばらくするとそれが切れて、部屋が暗くなる。娘が外の明かりを入れようとカーテンを開けた所で…メイドの手引きで、外に待機していた男が花束を持って現れる。
 女は喜び、男と一夜を明かすのだった…』

 …さては「おたのしみ」しましたね、とか余計な事を言ってはいけないのだろう。
 この歌劇『薔薇の花束は全てを見ていた』の内容に。
 好きな女性にどんなサプライズをしたら喜ばれるだろうと、ナッジが家のメイドに相談したのがキッカケだった。
 メイドはそれはもう興奮して、「私もあの話の登場人物になりたい!」とヤル気満々だった。事前にしっかりと打ち合わせもし、準備万端だった。

 ナッジは深呼吸する。
「部屋に入ったら何て言おう…
『僕とお楽しみしませんか?』いや、ただの変質者じゃないか…。
『僕と一晩過ごして下さい』いや、あからさますぎるだろ!
『僕の事をもっと好きになって下さい』
 うーん、シンプルにコレか…?」

 …途端にチキンになり、パンチのない告白になった。ソワソワしているうちに、モネアがいる部屋が暗くなった。
 …頃合いだ。窓の鍵は事前に開けてもらってある。ナッジは鼓動がうるさい心臓を押さえて立ち上がった。
 窓まで近づき、開けようとした…その時。

「シャッ!」と、向こうから勢いよくカーテンが開けられた。そこには…

「ええっ?!!ナッジ様?!!」
「モ、モネアさ…まああああああああっっっっ????!!!!!!!!!!」

 思わず敬語になったナッジ。

 なぜなら…目の前に、デデーン!と至福の光景が広がるからであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

ゴルゴンゾーラ三国
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。しかしその虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。  虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【この作品は、別名義で投稿していたものを加筆修正したものになります。ご了承ください】 【この作品は『小説家になろう』『カクヨム』にも掲載しています】

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

せっかく転生したのにモブにすらなれない……はずが溺愛ルートなんて信じられません

嘉月
恋愛
隣国の貴族令嬢である主人公は交換留学生としてやってきた学園でイケメン達と恋に落ちていく。 人気の乙女ゲーム「秘密のエルドラド」のメイン攻略キャラは王立学園の生徒会長にして王弟、氷の殿下こと、クライブ・フォン・ガウンデール。 転生したのはそのゲームの世界なのに……私はモブですらないらしい。 せめて学園の生徒1くらいにはなりたかったけど、どうしようもないので地に足つけてしっかり生きていくつもりです。 少しだけ改題しました。ご迷惑をお掛けしますがよろしくお願いします。

【完結】男の美醜が逆転した世界で私は貴方に恋をした

梅干しおにぎり
恋愛
私の感覚は間違っていなかった。貴方の格好良さは私にしか分からない。 過去の作品の加筆修正版です。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

処理中です...