転生ロリ王女は脳筋王子をおとしたい

須田トウコ

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番外編 流珠緒も転生したい 3

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 目の前にいたのは一人の長身男性だった。
 もう辺りはすっかり暗くなっているのに、彼の髪は長くて白く輝いている。髪だけではなく、着ている服も白い。それはローブなのだろうか。黙ってこちらをじっと見ている。
 こんな田舎の静かな漁港に、突然現れた異国の顔立ちの男…その顔は恐ろしい程整っている。見るからに怪しい。私は思わず後ずさった。先程の彼の一言を気にしながら。

「あなた誰?痴漢?人攫い?いえ、それならもっと若くて可愛い子を選ぶはずね。それに今、転生したって言ったわよね?それは何かの宗教?…あなたソッチ系の関係者かしら?
 悪いけど、私はもうそういうの絶対信じないって決めたの。それなりに神社とか参拝してたけど全然良い事なかったし、彼女だってあんな酷い死に方をして…神様なんて絶対いやしないんだって、改めて思ったもの。勧誘ならお断りよ!!!」

 思わず叫んでしまった。でもこれで驚いて退散してくれるかしら、とも思った。しかし…

「神様というのはよく分からないが…我はこの世界の管理者、天上人だ」
「は…?」

 ここまで真顔で冗談を言う人がいるのだろうか?それともやはり何かの宗教で「そういう設定」なのだろうか。「我」とか言っているし。私は思わず聞き返してしまった。

「…天上人…?」
「ああ。上司の命によりこの星を創り管理している。此度は三倉舞来という女を死なせてしまった償いをしに、お前の元へと来たのだ」
「ちょっ、ちょっと待って!なぜ舞来さんの名前を知っているの?死なせたって、どういう事なの?!」

 急に彼女のフルネームが出て動揺する私。

「…質問が多い女だな。ああ面倒だ…」

 そう愚痴を言いながらも彼は話し始めるのだった。

「我の名はアーツ。長い事この星を担当している。以前そこの海底でボーッとしていたら、目の前で泳いでいた魚が釣られそうになったのだ。助けようと釣り主と引っ張り合いになったが…少ししたら面倒になって手を離したんだ」
「その釣り主が舞来さんだったのね?!だからあんなに強い引きだったんだわ。勢いよく釣った弾みで後ろに倒れて…どうしてすぐ彼女を助けてくれなかったの!!」
「海上で何が起きていたかなんて我は興味ない」
「何ですって?!天上人だとか海底にいたとか訳わかんない事を言って誤魔化そうとするんじゃないわよ!怪我人を放置するのも犯罪よ?!」

 意味不明な説明を聞いて私はカッとなってしまった。しかし彼は全く動じていなかった。

「…やかましい女だな…」
「きゃっ!」

 彼は私に近づいたかと思うといきなり自身の肩に担ぎ上げた。そしてなんと、そのまま浮き上がりどこかへと飛んだ…。





・・・・・・・





「ここは…どこなの…?」
「近くの山中だ。あんな所で騒がれては人が来て面倒だからな。ここなら誰も来ないから好きなだけ喚いていいぞ」
「…ちょっと…待って…頭の中を整理させて…」

 彼に地上へと降ろされた私はフラフラと歩き、近くの木の下にペタンと座った。
 空を飛んだ。間違いない。胃をぐっとつかまれる感覚がしたし、今も吐きそうだ。彼の正体は分からないが…ただの人間じゃない事は確かだった。

「何だ?急に大人しくなって…さっきまでの威勢の良さはどうした?」
「………」


 彼は腕を組んで首をかしげているが、大人しくなるに決まっている。常識では考えられない体験をしたのだ。
 私が黙ったままなので、彼のほうから話が始まった。

「…まぁいい。続きを話そう。我はその後上司に叱られたのだ。我ら管理者は人間に直接手出しをしてはいけないのに、死なせてしまったと。
 その詫びとして、三倉舞来を別の世界に転生させたのだ。今度は王族で、身体も健康で何一つ不自由のない暮らしを送っている。これ以上ない待遇だろう?」
「舞来さんが異世界で王族に転生…?フッ…まるで小説みたいな話ね…そんなの信じられないわよ…」

 またもや理解できない話をされ、私はもう力無く答えるしかなかった。

「信じられぬならこれを見るがいい」

 そう言いながら、彼はスッと私の目の前に光る球体を出した。思わず覗いてみると…そこには一人の美少女が映っており、大声を出している。

『綺麗な金髪にキラキラグレーのおめめ!ちょっとツリ目がちなのはご愛嬌!頭脳明晰で両親の身長からして…背もこれから伸びるわね!そしてきっとボンッキュッボンよ!本当、前世とはえらい違いやで。イエェェェイ!!現世最高やああああああ!!!!』

「………」

 私は絶句した。何故だろう、根拠はないけれど…この美少女は舞来さんだと思った。
 そして男は球体をしまいながら言う。

「…見たか?この女は存分に転生後の人生を満喫しているだろう?なのに上司はお前にも詫びをしてこいと言ってきたのだ。お前が三倉舞来を死なせたと思い込んだ上に、今も自責の念に駆られているからと。
 ああ実に面倒だ。何でもいいから願いを言え。叶えてやる」
「願いって言われても…」
「食べ物でも睡眠時間でも異性でも、何でもいいぞ」
「…それは願いというより人間の三大欲求よ…」

 この男、何処かズレている。調子を狂わされながらも私は考えた。

「…ねぇ、舞来さんは転生して…本当に幸せなのよね?」
「我は人間の感情がわからぬ。故に女が幸せかというのも知らぬ。だがあれほどの容姿と生まれで自分を嘆く事はなかろう?
 それに今は他国の王子の所におしかけていたぞ。そのうち結婚でもするだろう」
「そう、それなら良かった…。どうか彼女がずっと幸せでいられますように…」
「おい、我に拝んでどうする。それよりお前の願いだ。早く言え」

 舞来さんの事を聞き、嬉しくなってつい拝んでしまった。願いを考えないと…と思い、ふと彼に聞いてみる。

「ねぇ。天上人様?質問していいですか。転生って、私もしてもらえるのですか?」
「ああ。勿論、お前が望むなら可能だ。それなりの家の娘へと転生させてやる。それが願いか?では早速…」

 そう言って、彼は座り込んだままの私に近づいてきた。だが。

「…はっ!ま、待って待って!」
「なんだ?」
「私若女将になったばかりなの。女将さんに旅館の全てを任せるって言われて。それに仁亜ちゃんも辞めたし人手不足だわ。今すぐに転生していなくなるなんて、無責任過ぎる!」
「…よく分からないのだが…いつ頃なら良いのだ?我は飽きやすい性格でな、のろのろしていると気が変わるやもしれんぞ」
「えっ…そ、そんな事言われても。あと…10年くらいかしら?って…さすがに遅過ぎる…?」
「たったの10年か。ならいい。待つ」
「えっ?!」

 …どうやら彼とは時間の感覚が違うらしい。彼は私の要求を聞いてくれたのだった。
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