転生ロリ王女は脳筋王子をおとしたい

須田トウコ

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番外編 流珠緒も転生したい 6

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 もう上司に許可を取ったの?と思う間も無く血を飲まされた私は、身体中を駆けめぐる熱い何かに耐えられず気を失った。
 そして目を覚ますと…そこはどこかの山中だろう、草木が生い茂っている。寝ていた体を起こした途端、ある違和感に気づいた。

「あら?体が軽いわ…って!えっ?!」

 思わず自分の両手を触る。手の甲にあった皺が無くなっている。そのまま頬を撫でてみると、たるみが無くつるりとしていた。しかし、二十代の頃ほどハリがある訳でもない。これはまさか…。
 と、そこへアーツがやってきた。

「目が覚めたか。それならもう大丈夫だ。タマオも我と同じ、天上人となったぞ」
「ね、ねぇアーツ。私…若返っていないかしら?」

 私はそう言いながら、近くにあった池の水面を覗いてみる。やっぱりそうだ。若女将になった頃の…三十代半ばの時の姿だ。

「ああ、そうだ。流石にあの年齢と姿では、体に負担がかかって何かと連れ出せないからな。多少リセットさせてもらった。あと何百年かはその姿のままだからな」
「えぇっ!それは嬉しいけれど…欲を言うともっと若くしてくれても良かったのに。十代後半から二十代前半くらいに」

 男は若い女のほうが好きでしょ?と思いながら聞いたが、彼は首を横に振った。

「我はタマオと初めて出会った頃の姿が一番良い。それより若いと誰だか分からなくなるではないか」
「ひどいわね。そこまで変わったりはしないわよ…でも何だか嬉しいわね。ふふっ」

 私が笑うと、アーツは少し前屈みになり躊躇いがちに質問してきた。

「そう言えば…我はお前の気持ちを聞いていない。我の事、どう思っているのだ?」
「えっ?!私を天上人にさせておいて今更?!もう、本当にあなたは変わっているわね。嫌いなら血なんて飲まないわ」
「では…」
「私もあなたが好きよ、アーツ。これからもずっと一緒よ?よろしくね」
「!」

 彼は一瞬、ものすごく喜んだような気がした。気がした、と言ったのは…勢いよく抱きついてきたから途中までしか見られなかったのだ。

「良かった、これでタマオを真正面から抱きしめられる…この国では同意がない女性に抱きついたらケイサツにタイホされてしまうからな」
「ちょっ、ちょっと苦しいわよ!また何かのCMの影響かしら?もう…」

 少しだけ離れようとする私に、彼はさらにぎゅっと腕に力を込めながらこう言った。

「では早速世界各地を飛んでまわるぞ。タマオに見せたい景色が沢山あるのだ。いや、まずは睡眠か。ここのところ仕事の引き継ぎであまり寝ていなかったからな。いや、待て。それより…」

 アーツはブツブツ話したかと思うと…急に私を押し倒した。突然の事に頭がパニックになる。

「えっ?な、何?!」
「晴れて夫婦になれたのだ。早速契りを…」
「はあっ?!」

 私は久しぶりにめちゃくちゃ動揺した。ここは何処かは知らないが、屋外だ。今は夜のようで周囲は暗い。が、誰が来るともわからない。

「ちょっ、ちょっと待ちなさい!今すぐなの?!」
「ああ。でないと我が与えた血が定着しないからな」

 彼は器用に私の上着を脱がし始めながら言った。そんなの聞いていない、初耳だ。しかし待ってと言った私の胸はドキドキして、その先を期待してしまっている。
 すると、ふと何か山の下から聞こえてきたので耳を澄ませた。ガタンゴトンという音…夜勤の際によく見た電車だ。そう気づいて目線を下へと動かした頃には最後尾しか見えなかったが。

「あの電車はムーンライトながら?えっ、という事は…ここはA町の山?!」
「そうだ。初めてタマオと会った時連れて来た山だぞ。覚えていないのか?」

 そんな事覚えている訳がない。周りは草木ばかりだし。私は夜行列車が走り去るのをただ眺めるしかなかった。口を半開きにして。

「…どこを見ている」
「あっ」

 よそ見していた事に不満を感じたらしいアーツは、私の顎を軽く掴み無理矢理自分のほうへと向かせた。
 虹色に輝く瞳にジッと見つめられた私は…体が熱くなって力が入らなくなり、それから彼のする事全てに抵抗ができなかった…。




・・・・・・・




 こうして私は天上人となり、アーツの妻となった。彼は四六時中私にベッタリで片時も離れない。人間だった頃はここまでじゃなかったけれど、別に嫌ではないから気にしない。元々30年も一緒にいたのだ、私の中ではとっくに家族のような存在だった。
 私達は毎日日本中を飛び回って旅をしたし、最近は海外へも出かけている。アーツが連れて行ってくれる場所はどこも素晴らしい。行く先々で膝枕をさせられるのは恥ずかしいが。彼の最近のお気に入りらしい。
 だけどやっぱり旅館の事が気になって、たまにA町へと戻る事もある。私の姿は皆には見えないけれど。

 それと彼の上司…天上神様と呼ばれる方と話す機会があり、分かった事が一つある。契りを交わさないと彼の血が定着しないというのは嘘だった。普通に血を飲めば天上人の力を得られるそうだ。
 何故あの時彼が嘘をついたのか、その理由は分からない。天上神様は「あやつもただの男だったか…まぁ、察してやるのだ」としか言わなかった。何だろう?今度聞いてみよう、そう思うのだった。


 ―舞来さん。私は結局転生しませんでした。だけど今、とっても幸せです―


(完) 
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