転生ロリ王女は脳筋王子をおとしたい

須田トウコ

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番外編 流珠緒も転生したい 5

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 ―月日は流れ。

 アーツに転生させてもらう約束をしてから、なんと30年が過ぎていた。
 富美江さんの代わりに女将になった後…天災に見舞われたり、不景気で旅館の経営が危なくなったりと、色々あったのだ。今は完全に持ち直している。むしろ自分がなりたての頃よりも良くなっているかもしれない。
 しかし私は年をとった。もう60を軽く過ぎている。元々美人でもないからそこまでショックではないが、鏡を見る度に「あら、またシワが増えたわね」と少ししんみりする。時々胸が痛くなる事が増えたし、体の具合も良くないかもしれない。
 そこで私はいよいよ引退して旅館を去ることにした。若い者達に仕事を引き継いでもらい、自室にあった物をほとんど処分する。もう私には必要がないから…。

 旅館を出て電車に乗り、辿り着いたのは一軒のアパートの一室。少ない荷物を部屋に置きその場に腰を下ろした。

「ふーっ。あいたた…腰が…!本当、おばあちゃんになっちゃったわねぇ」

 そう呟く私に、反応する者が一人。

「大丈夫かタマオ?さするか?」
「ありがとう、アーツ。平気よ。それより…あなたは何十年経っても全く変わらないわね」

 そう、アーツは30年経っても若い姿のままだ。最初に出会った頃から変わっていない。

「我ら天上人は寿命が長いからな。さて…いよいよだな、タマオ」
「そうね。色々落ち着いたし、ようやく転生できるわね」

 私はそう言いながら、彼と目線を合わせる。

「ふふっ…ごめんなさいねぇ。あの時10年待ってって言ったのに、気づいたら30年も経っちゃって」
「よい。我にとってはさほど変わらぬ。その間多くの人間の暮らしを垣間見て中々楽しかったぞ」
「あら?人間には興味なさそうだったのに…随分変わったわねぇ?」

 私はアーツを見て微笑む。すると彼は口を半分開いたまま固まったが、すぐ直して話しかけてきた。

「…タマオは本当に転生してしまうのか?」
「どういう意味?だっておばあちゃんのまま余生を過ごすより、生まれ変わって新しい人生を楽しみたいもの」
「転生したらこれまでの記憶は無くなるぞ?」
「別にいいじゃない。特に問題はないわ」
「良くないだろう。これまでの記憶が………と共にいた記憶が…無くなってしまうのだぞ……」

 アーツの声がどんどん小さくなっていく。そしてうつむき、そっぽを向こうとして…出来なかった。私が両手で彼の頬を挟んだから。

「…そう機嫌が悪くなるとそっぽを向くの、貴方の癖よね。ふふっ。天上人って言っていたけれど、意外と人間くさい所もあるのね」
「…揶揄わないでくれ」
「揶揄ってなんかいないわ。私は真剣よ?
 アーツ。何か私に言いたいなら、ハッキリ言ってちょうだい」

 私は彼の目を真っ直ぐ見て言った。アーツはその綺麗な瞳を閉じてこう呟いた。

「我は…タマオに伝えたい事がある…」
「…はい」

 そして彼は軽く息を吸って、こう言い切った。

「…ボクハ…シンデマセン!!アナタガ…ステキダカラ!!」

「…は?」

 私は思わず目が点になった。

「?違ったか?このニホンで一番有名な告白の言葉と聞いているが…?」

 彼も私の反応に驚いているようだ。それにしても、その言葉…あの某プロポーズしたトレンディドラマの名言じゃないの。テレビで再放送でも見ていたのね。しかも若干間違っているし。私はもう、笑うしかなかった。

「ぷっ…ふふふ…あはははっ!!」
「なっ、なんだその反応は!!我は真面目に言って…!」
「ごっ、ごめんなさい…ふふっ!こんな変化球をもらうと思わなかったから…!」

 私はまだ可笑しさで震える両肩を押さえて言った。

「ねぇ。告白って言ったわね?私の事、好きなの?」
「好きという感情は今まで分からなかった。今だって完全には分かっていない。
 だがいつからだろう。タマオがいずれ転生して、我との記憶が無くなってしまうと思ったら…息苦しくなったのだ。
 我はもっとタマオと一緒にいたい。それにお前は今まで頑張りすぎだ。ゆっくり寝かせてやりたいし、好きな場所へも連れて行ってやりたい。勿論我も同伴する。
 …これは好き、であっているか?」

 アーツは目元を少し赤くしながら言った。私は彼が見せるはじめての表情に驚きながら、涙を流した。

「…そうね、大正解よ。それが好きという人間の感情よ。
 …しょうがないわねぇ。転生するのはやめるわ。私もアーツとの思い出が消えて無くなるのは嫌だし。このまま命が尽きるまで、あなたとずっと一緒にいようかしらね」

 こんなおばあちゃんだけど、と内心思いながら私は言った。すると彼は予想外の一言を発した。

「?何を言っているんだ?それではあと数十年しか共にいられぬではないか。それは嫌だ」
「でもねぇアーツ。見れば分かるでしょ?これからどれほど健康に気をつけたって、私はあんまり長生きはできないわよ?」
「我に考えがある。タマオ、お前が我が妻になってくれるなら…上司に許可を得て我の血を飲ませる。そうなれば同じ天上人になれるから、長い事ずっといられるぞ?」
「えっ?!」

 私、人外になっちゃうの?と一瞬思う。それでもアーツと一緒にいたい…その思いのほうが強くなった。

「どうだろうか?タマオ」
「…わかったわよ。天上人でも妻でもなんでもなってあげるわよ。そのかわり、絶対幸せにしてね?『転生したい』なんて言わないくらいに」
「…分かった」

 そう言いながら、彼はどこに隠し持っていたのか鋭利な物で手を切り…私に自分の血を飲ませた…。
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