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見た目は子供、頭脳は天上人
しおりを挟む夕飯の時間が近づき、小春さんは厨房へ向かった。
食事はシェパード家専属のシェフが作るが、それとは別で私に食べさせたいデザートがあるそうだ。何だろう、とても楽しみだ。
準備が整うまで、宰相は仕事をしに自室へ戻り、私はセイバーくんの部屋で一緒に遊ぶことになった。
「よーし、じゃあ何して遊ぼうか?セイバーくん」
腕まくりしてやる気十分の仁亜に対し、彼はこう返した。
「セイバーって呼びすてでいいですよ?ニアおねえさま」
「え?じゃあセイバー、私の事もおねえちゃん、で良いよ?おねえさまって柄じゃないし。
なんかごめんね。セイバーが思い描いていた、理想のお姉さまじゃないかも知れないけど…」
「そんなことないよ。アマタに勝手に連れて来られても、腐らずに一生懸命頑張ってさ。
家族になれて本当に嬉しいよ。大好き、ニアおねえちゃん!」
ギュッと抱きつかれた。可愛いがすぎる。思わず頭を撫でようとして…あれ?と思った。
「ん?アマタ様の事ってセイバーに話したっけ…?」
「あ。しまった、口が滑っちゃった」
ペロッと舌を出すセイバー。まさにテヘペロである。
「ごめんね、ニアおねえちゃん。
先に言っておくと、実はボク、天上人なんだ」
「へぇー、そうなんえええええっへぶっ『待って、大声出さないで。メイドさん達が来ちゃう』」
セイバーに口を塞がれフガフガしながら頷いた後、そっと解放される。
「…ぷはっ。え、ちょ、ちょっと待って。
どういう事なの?アマタ様と同族?でも小春さんと宰相の息子で…あれぇ?」
理解できない、私が頭悪いのがいけないのか?
「ふふっ、心配しないで。おねえちゃんの反応が普通だよ。ボクは『天上神』の一番新しい子供で…アマタにとっては弟、って事になるかな」
「テンジョウシン?」
「天上人達はそれぞれ与えられた世界を、一人につき一つ管理するんだ。
天上神は彼らを統括するさらに上の存在で、ボクやアマタを含めた全ての天上人の、生みの親なんだ」
サラッと、またとんでもない重要用語が出た気がする。
「え、じゃあセイバーは小春さん達の実の子じゃないって事…?」
「国への届け出は養子になっているね。
昔『シェパード家の門前に赤ん坊が置き去りにされている』って騒ぎになって、駆けつけたおかあさまが保護して、そのままボクを育ててくれたんだ」
「え!誰がセイバーを置き去りにしたの?ひどい!」
置き去りと聞くと、人一倍敏感になる仁亜だった。
「それは天上神だよ。
アマタがこの世界で好き勝手な事をした上に、アーバンとの戦いで動けなくなったでしょ?それでここの管理者が不在になってしまった。
だから苦肉の策として『天上人を赤子のうちから人間のいる世界に送ると、どう育つか』という実験のもと、ボクが送られたんだ。ふふっ、面白い事考えるよね。我が親ながら」
「面白いって…セイバーは怒らないの?っていうか、その話はどこで聞いたの?」
「あの広場で直接アマタに聞いたんだ。身体は動かなくても、ボク達天上人はお互い意思疎通ができるから。
怒るって感情はよく分からないな。ボクはおかあさま達にほめられて育ったから。
元々天上人は感情というものを待ち合わせていないんだ。だから自分が担当する世界の住人の影響が大きい。
アマタは長い間人々が争う姿しか見ていなかったから、少し怒りっぽいよね」
なるほど。確かにそうかも。
セイバーは的確に答えてくれるから話が進む。
「じゃあセイバーが優しくて良い子なのは、小春さん達の影響が大きかったんだね」
「たぶんね。
ボク自身が天上人だと知って、アマタと会話できるようになったのは、ニアおねえちゃんが来た時の発光現象を見たからだよ。
頭にいきなり沢山の情報が入ってきて驚いたんだから。
それまではごく普通の…ちょっと賢い男の子、ってだけだったけど」
「10歳にしてはちょっと所じゃない賢さだけどねぇ。あ、アマタ様って今何してるんだろ?セイバー分かる?」
セイバーは目を閉じて、少ししてから答えた。
「うーん、呼びかけてるけど反応がないなぁ。完全に眠る事で、力を取り戻そうとしてるみたい。
でもあまり回復してない…というか、ニアおねえちゃんのアホ毛が元気なくて、力が上手く届いてないみたい」
「元気がない…?あ!さっきオッサンに思いっきり引っ張られたせい?!」
「ぷっ!…ふふっ、そんな事もあったね。じゃあ明日にでも広場の銅像に行って、直接力をあげてきたら?その方が手っ取り早いよ」
そうしよう。ほんとにもう、あのオッサンはろくな事しない。とりあえずヘタったアホ毛を、手で整えた。
「広場まではここから近いもんね。あっ!この前銅像と向かい合っていたのは、やっぱりセイバーだったんだ?」
「うん、そう。ごめんね、さっきは質問されかけたのに誤魔化しちゃって。
あの時はコッソリ家を出て来ていたんだ。だからバレたら心配して泣かれちゃう、と思って」
「怒るより先に泣かれる、っていうのが想像できる…。小春さん優しいからね」
「…本当に、あの二人の息子になれて良かったよ。おかげて人を愛する心を知ったし、人間の面白さにも気づけた。
アマタも早くに知っていれば、ああもプライドだけは人一倍高い、傲慢女にならなかったのに」
「セイバー、それは言いすぎ。めっ!」
仁亜はピッ、と軽くデコピンした。
「わっ。痛いよぉ~。おねえちゃんだって、おとうさまをオッサン呼ばわりしてるじゃない」
セイバーは文句を言いつつ、仁亜に抱きついた。二人はお互い笑いながら、しばらくじゃれていた。
「あ、そうだ。おかあさまはボクが20歳になって成人したら、実は養子だって事を打ち明けるみたい。この前盗み聞きしちゃった。
それまでは多分、おねえちゃんにも本当の事を言わないと思う。だから、この話は内密にね?」
「わかった。セイバーは、自分が天上人だって事をいつ言うの?」
「そうだねー、やっぱり成人するタイミングでかなぁ。今言っても混乱させるだけで、何のメリットもないし」
…この子気遣いしすぎ!と感心していると、小春さんが部屋に入ってきた。
「うふふ。二人とも楽しそうね。
でももう夕飯の時間だから、食堂へいらっしゃい」
「やったあ!ご飯だー!」
「わーい!行こ行こおねえちゃん!」
お腹を空かせた二人が同じようにはしゃぐ姿は、まるで本当の姉弟のようだった。
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