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隊長、違う、そうじゃない

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「…それで、アマタ様は回復したのですか?私はちゃんと王に報告しましたよ?今は魔獣との戦いに備えている所です」

(全快とはいえないわね…あなたのアホ毛が突然ヘタって…力が中々もらえなかったんだもの…非常にまずいわよ…)

「それについては父の責任です…すみません。で、まずいとは何がです?」

(魔獣の一部がタナノフ国とマルロワ国に向かったわよ…応戦したいけど駄目ね…こっちはまだ回復していないのだもの…)

「ええっ?!じゃあ急いでアイシスの皆に知らせないと…あっ、でもアマタ様も回復しないとだし…どうしよう?!」

(………とりあえず、銅像に触れてもらえるかしら?直接力をもらえば少しは回復が早まるわ…)

「あー、はい、こうですか?」

 ベンチから立ち上がり、ペタッと銅像に触ってみた。銅像自体は何も変化は起きないが、仁亜はひどく脱力感を感じた。
 思わずその場に倒れそうになる所を、アイザックに抱き止められ、そのまま横抱きにされる。

「…大丈夫か?」
「あ、はい。すみません…だいぶ力を吸い取られた感じです」

 そこへアマタ様のツッコミが入る。

(できればもっと欲しかったけど…ここまでにしておくわ…あなた顔が真っ青だもの…でもありがとう、これでほぼ全快に近いわ…さあ、早く城へ報告に行きなさい…またここで会いましょう…)

 相変わらずの身勝手さに色々言い返したいが、頭がクラクラしてできない。仁亜はアイザックに事情を話し、城へ帰る事にした。




・・・・・・・




「それにしても…正門から堂々とお姫様抱っこされて入場とは…お主達は話題に尽きないのう」
「もうホントその話は終わりにして下さいよ王様ぁ…」

 少し休憩し、体調が良くなってから王と謁見した仁亜だったが、城への入場の仕方が悪かった。
 てっきり馬車を呼ぶのかと思いきや、アイザックは仁亜を横抱きにしたまま城へ一目散と向かっていったのである。
 城の正門で彼と応対した兵士が動揺し、王に「あの女性に無関心のアイザック隊長が…うら若き乙女を横抱きにしている上、謁見を求めております!」と報告をした。
 その時は流石に飲んでいた紅茶を吹いた王であった。

「それで、何じゃ。ラブラブだというのを報告しにきたのかえ?」
「ち、違います!もっと真面目な、深刻な事態なんです!!」

 そして、ようやく仁亜は魔獣の侵攻を報告できたのであった。

「…いよいよ、といった所じゃな。よかろう。ワシはタナノフとアイシスの国境付近まで向かおう。あそこである程度の魔獣を押さえるとしようぞ。
 ギリアムとヒルダ、お主達は…城下の広場に待機じゃ。あそこなら少しは動きやすいからの。
 クルセイドとコーデリアは城の中へ。なんとしても城へ魔獣は入れさせぬ」
「私達は広場ですね、わかりました。
 そうだ、近くには民家がたくさんありましたけど、あそこに住んでいる人々はどうしたら…」
「ひとまず城内の敷地へ避難させるしかないのう。場合によっては、広場が戦場になる可能性が高いからの」
「そうですね…」

 覚悟はしていたけれど、いざ戦いが始まると思うとやっぱり怖い。
 王はそんな私を見てから、後ろに控えていたアイザックにこう言った。

「アイザック、お主も頑張りどころじゃの。全力で彼女を守ってやるが良い。
 …これから緊急会議じゃ。話がまとまったら出陣するわい」
「はっ!…どうかご無事で」

 数刻後、先遣隊が向かった後に、アイシス国カイザー王は兵を連れ、国境を目指して進軍したのであった。




・・・・・・・




「行ってしまいましたね、王様」
「ああ、無事に戻られる事を願うばかりだ」

 仁亜とアイザックはシュルタイスの執務室へと向かいながら話をしていた。

「セルゲイとサーシャさんも…大丈夫かな」
「彼らを信じよう。俺も近衛隊長として、かなり厳しく鍛えたつもりだ。そんなに簡単にやられはしないさ」

 王の護衛には近衛隊からセルゲイとサーシャが選ばれた。
 魔獣との戦いに緊張するサーシャと「やったああああついにオレも王族の、しかもいきなりトップの護衛だあああああ!!」とテンション高めのセルゲイだった。正直不安である。

 執務室に着くと、さっそく眉間に皺を寄せたシュルタイスと対面した。

「おとうさんはどこに避難するの?お家?」
「いや、ここに泊まり込みで執務を続ける。王族が不在の間も、仕事が山のようにあるからな」
「うそ?!じゃあおかあさんとセイバーはどうするの?城に連れて来る?」
「魔獣の狙いが王族なら、城にいるのはかえって危険だろう。幸い自宅は広場を過ぎた先の高台にある。よほどの事がない限り、魔獣が向かうことはないだろう」
「じゃあ二人だけでお留守番?!心配だよ…」

 すると、シュルタイスは苦渋に満ちた顔をした。

「出来る事なら今すぐにでも家へ帰りたいさ!
 しかし、王族や民や仕事を放って戻ってきても、コハル達はきっと歓迎しないだろう。
 …私はコハル達を信じて、自分の責務を果たすつもりだ」
「おとうさん…」
「お前達は広場へ行くのだろう?何度も言っているが…無茶だけはしないでくれ」
「うん。おとうさんも…気をつけてね」

 そうして仁亜は退出し、アイザックも後に続こうとして、呼び止められた。

「…アイザック」
「なんでしょう?宰相様」
「すまないが…娘(の護衛)を頼む。危なっかしいからな」
「わかりました、一生大切にします」
「一生…えっ?」
「それでは、失礼します」

 そのままパタン、と閉じられたドアを、シュルタイスは珍しくポカンとした表情で見つめていたのだった。
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