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CCミサイル
しおりを挟む※ニア達がわちゃわちゃしていた頃その2
―アイシス国、謁見の間。
そこにはクルセイド王子、コーデリア王女、宰相シュルタイスと侍女長シータが集まっていた。そこへ近衛隊のソルトが現れた。
「城の屋上から広場を見てまいりました。魔獣が数体現れ、兵士達が戦っております。ハァ…胃が…」
「そうか…やはり国境では魔獣を防ぎきれなかったか。ニア達は無事だといいが…」
胃をさすりながらのソルトの報告に、シュルタイスは嘆息した。
「ねえ、クルセイド。わたくしたちも王族の一員なんだからちゃんと戦わないと、じゃない?」
「何を言っているんだよコーデリア。ボク達が出て行っても足手まといだよ。
それどころか、護衛してくれる兵士達も危険な目に合う。何も良いことは無いよ」
好戦的なコーデリアに対し、冷静に物事を見るクルセイド。双子なのにずいぶんと性格が違っていた。
「クルセイド様のおっしゃる通りですわ。
お二人はいずれこの国を背負う大事な方々。今はこちらに避難していて下さい。私達が命に代えてもお守り致しますわ」
シータも覚悟を決めた表情で、二人に話しかけた。
ふと、ソルトはクルセイドが背負っていたある物に目をやる。包帯でグルグル巻きにされているが…。
「ところで王子、その背負っているものは何です?重たそうですが…私が持ちましょうか?」
「ん?ああ、いいんだ。これはね…」
と、クルセイドが話しかけたその時。
―ガシャーン!!!!と、何かが割れる音がした。謁見の間入り口の、すぐ横のステンドグラスの壁だった。
壁が粉々になりポッカリあいた所から、のそっと現れたのは…大きな猿だった。
ソルトは慌てて剣を構え、指示する。
「魔獣か?!何故こんな所に?!
くっ。宰相様、シータさん!王子達と避難を!ここは私が!」
「堂々と扉から入れば良いものを!修繕費がいくらかかると思っている!」
「宰相様、そんな事言っている場合じゃありませんわ!!さっ、お二人とも!こちらへ!」
「きゃっ!」
「うわっ!」
しっかり者のシータが王子達の手を取り、後ろにある扉へと走った。シュルタイスも慌ててついて行く。
猿型魔獣は完全に王子達を狙っていた。真正面にいるソルトには目もくれず、後方へ逃げる彼等を見て威嚇した。
「ギシャアアアアア!!」
「おい猿!相手は俺だ!」
ソルトは懐から短剣を出し、大猿へと投げた。大猿はヒラリと躱し、ようやくソルトのほうを見た。
王子達が後ろの扉から出て行った事を確認し、剣を構え直す。
「こんな所まで侵入するとは…兵士達は何をしていたんだ?」
ソルトが呟いても、誰もいないが故に答えは返ってこない。
すると大猿は突然横飛びした。あまりの速さに一瞬消えたのかと錯覚した。一体どこへ…と、ソルトが振り返ったその時。
「キシャーッ!!」
「うわっ!!」
鋭い爪で左肩を引っ掻かれた。少し反応が遅れていたら、もっと抉れていたかもしれない。
大猿はピョンピョン飛びながら、部屋中の柱、壁へと移り、時折ソルトに襲いかかった。
避けてこちらから攻撃する頃には、その場から逃げている。巨体に似合わず、なんという跳躍力とスピードだろう。
気づけば防戦一方で、腕や足に傷が付いていく。一つ一つは致命傷でないものの、このままではこちらの体力が持たない。
「そうか。猿だから城には中からではなく、外から登って侵入して来たのか。
それにこの速さ…兵士達も追いつけなかったのか。くそっ!」
応援を呼びたいが無理だ。一人でやるしか無い。
「アイザック隊長も、セルゲイも、サーシャも…皆俺よりもっと大勢の魔獣と戦っているはずだ。こんな猿一匹に手こずる訳には…いかない!!」
ソルトは覚悟を決めた。胃の痛みはとっくに消えている。
最初に傷つけられた左肩と腕を出し、叫んだ。
「俺は逃げも隠れもしない!真正面から来るがいい!!」
左肩から流れ出る血を見て、大猿が興奮し襲いかかる。ソルトは集中した。
ヒットアンドアウェイが得意な敵だが、事前に左腕というエサを与えればどうだろう。
そこへ食い付いた隙を狙い、右手に持った剣で急所を刺す…左腕は使い物にならなくなるだろう。いや、もし内臓まで深くやられてしまったら…あえてその先は考えない。
大猿が振り上げた腕が、こちらに降ろされようとしていた。
…しかし、それで王子達を守れるなら安いものだ。
…願わくば、殉職して払われる遺族年金で、残された母と5人の兄弟達が困る事のないよう…
「わたくしの未来のだんな様になんて事するのよぉぉぉーーーー!!!!!!」
突然の叫びと共に、左から勢いよく何かが飛んで来た。
「ウギーーーーッ?!!」
大猿はその何かにぶつかり、その衝撃で右へと吹っ飛ばされ壁に激突した。地震のような震動が後からやって来る。
「ちょっとコーデリア!飛ばし過ぎだって!」
飛んで来たものの正体は、盾を持ったコーデリアと、後ろに抱きついていたクルセイドだった。ソルトは驚愕する。
「なっ!い、一体何だ?!!!」
「ソルト!早く魔獣を!」
「は?!王子?!あっ、はい!承知!!」
クルセイドに言われ大猿を見ると、衝撃を受け気絶していた。
ソルトは近づいて、なるべく二人には見えない位置に立ち、とどめを刺した。
一息ついて、二人の元へ無言で向かっていく。そこにいたコーデリアが胸を張って言った。
「無事でよかったわ!わたくしの風魔法、ごらんになって?ああやって風をまとわせて、敵に体当たりする事もでき…」
「何をやっているんですか!!貴方達は!!!」
普段の優しいソルトではなく、激しく憤っている彼の様子を間近で見た二人は、同時にビクッと体を震わせた。
「何故ここへ戻ってきたのです?!!しかも魔獣に攻撃までして……
一歩間違えたら、取り返しのつかない事になっていたのですよ?!!」
「だ、だってだって…猿だからすばやいだろうし…ソルト一人じゃ不利だと思って…わたくしの風魔法なら遠くから狙えるから…お手伝いできるし……ソルトに怒られた…うっ…うっ…うわあああああああん!!!!」
コーデリアが大声で泣き出した。意外と理に適っている?……いやいやいや、と自分で自分にツッコミながら、ソルトはまた胃が痛くなったのだった。
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