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19. 汝は友
しおりを挟む「今日は赤いドレスにいたしましょう!」
きらきらした笑顔でリズが手にしたのは鮮やかな真紅のドレス。露出は無く決して下品なデザインではないが、いままで淡い色合いのものしか着たことがなかった私には若干抵抗がある。
「それは……私には少し、派手ではないでしょうか。私はその、もう年が……」
「何を仰ってるんですか、まだ御年二十歳でしょう! まだまだお洒落を楽しんで良いのですよ」
「お洒落と言っても……」
いままで、そこにこだわったことはなかった。基本的に昔から私の世話をしてくれているカトレアに全て任せていたし、彼女の選ぶものに不満もなかった。陛下に女性として扱ってもらう必要もなかった私は、王妃として恥ずかしくない程度の格好が出来ればそれで充分だったのだ。
社交の場で婦人達から流行の話を聞くことはあっても、それを追いかけるつもりはなかった。
「私、そういうことに明るくなくて。ただその、派手な格好は似合わないかと……」
「そんなことございませんわ! アイリス様はお色が白くていらっしゃるから、濃い色もお似合いになるはずです!」
自信満々に答えるリズはそれに、と胸を張る。
「それに陛下から依頼されているのです。アイリス様にめいっぱいお洒落してもらうようにと!」
「……エドウィンが?」
私がこの城で貸してもらっているドレスは、全てエドウィンの未来のお妃の為に集められたものだという。そんな物を借りられないと固辞したのだが、その相手もいないのに腐らせているのも勿体無いからと結局貸してもらう流れになったのだ。
それからしばらく押し問答があったものの、結局リズの勢いに流されるまま、私は彼女の選んだドレスを纏うことになった。
支度を終えた私は、いつものように与えられた部屋でエドウィンを迎えた。
普段ならば真っ先に声をかけてくれる彼は、私の姿を目にした瞬間に瞠目して足を止める。やはり似合わなかったのかと、堪えきれずに俯いた。
「……あの、申し訳ありません。リズが選んでくれたのですが、やはり私には不相応な格好でしょう。すぐに着替えて……」
「え、いや、……いや! 違うんだアイリス」
エドウィンが慌てたように私の前まで歩を進めた。
「よく、似合っている。大輪の薔薇が人の形を取ったようで驚いたんだ」
「そんな……」
「以前の青も良かったが、赤も良いな。貴女の白い髪はどの色とも調和して上品になる」
「あ、の……」
「城にあるドレスで足りるだろうか? 仕立て屋を呼ぶべきか……」
「エドウィン!」
私はたまらなくなって声を上げた。彼は私の声に驚いたようにぱちりと瞬きする。
「……お褒めの言葉は嬉しいです。私の服装にまで気を回してくれるのも有り難いことだと思います。けれど、そこまでしていただく必要はありません」
「しかしアイリス、」
「私は貴方の好意に甘えて、此処で療養させてもらっているに過ぎません。わざわざ私を着飾ることはないのです」
「…………」
「みっともない格好はしないよう気をつけます。でも、どうか私のために国民の血税を使うような真似は止してくれませんか」
「…………」
押し黙ったエドウィン。私を気遣ってくれた彼に対して失礼だったかもしれないが、そこは譲ることが出来ない。
私は、あくまでクレルシェンドの人間。その私の為にヴォーデルムの国庫が圧迫されることがあってはならないのだ。
しばらく考え込んでいたエドウィンは、やがて眉を下げて私に向き直った。
「……すまない、アイリス。近くで見る貴女があまりに美しくて、もっと着飾ってほしくなったんだ。貴女の意思を無視した行いだった」
女性の扱いは難しいな、と彼は独りごちる。
「貴女に喜んでもらうことがしたいんだが、うまくいかないな。大切な友達だというのに」
「……エドウィン」
私は静かに、彼の紅い瞳を真っ直ぐに見つめながら口を開いた。
「貴方は、私を友と呼んでくれました。私達は対等な存在だとも。私には、それだけで充分です」
「アイリス……」
「どうか、貴方の友のままでいさせてください」
「……ああ、勿論だ。貴女がそう言ってくれるなら、俺はいつまでも貴女の友達だ」
そう言ってくれたエドウィンに私も笑みが浮かぶ。やはり、彼が友人になってくれて良かった。
そのまま談笑する私達から少し離れたところで、ずっと控えていたリズと、エドウィンと共にやって来たギールが何事か囁き合っていることに、私は気がつかなかった。
「……あれ、陛下は振られてしまったのでしょうか?」
「いや……陛下自身が自覚していないようですからね。前途多難というか……『友達』の壁はなかなか越えられそうにないですね……」
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