私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

文字の大きさ
12 / 58

第10話 念のため、安全にも配慮

しおりを挟む
 翌日。

 約束通り、スミスがスチュワート邸へ意気揚々とやって来た。

「お待たせいたしました!」

 スミスは目の下にクマを作って、満面の笑みを浮かべた。

 その迫力にルシアはたじろいだ。

「ミススミス、もしかして無理をさせてしまったのではないかしら」

「そんなことありません!こんなに興奮して楽しい仕事は久しぶりだったわ!さっそくご覧になって」

 スミスは新作の水着を二着持って来ていた。

 一着はコーラルピンク、もう一着はレモンイエローの水着だった。

 二つの水着は、ニュアンスペアといったところか。

 雰囲気は似つつ袖やスカートの形が異なるデザインだった。

「どうかしら!?お嬢様の要望を汲み取れているかしら」

「わぁ!かわいいわ!」

「素敵ですね!きっとお嬢様に似合いますよ!」

 ルシアとステラは目をきらきらさせた。

「ねぇリアム、これなら着てもいいでしょう?肌も出ていないもの」

「そうですね。その水着を買いましょう」

「やった~!」

 スミスはトルソーから水着をはずすときれいに包んでリアムに渡した。

「代金は伯爵家へ請求してください」

「今回、お代はいりませんわ」

「そうはいきません」

「…その代わり、この商品を売り出させて欲しいのです。これは絶対売れます!デザイン料として売り上げの2割をお嬢様に納めるので!」

 リアムはにっこりと笑った。

「それはいいお話ですね。ですが、開発にかかった費用はきちんと清算するべきですよ?材料費も、あなたの労力も、安売りすべきではない。伯爵家に適切な金額を請求してください。それから、売り上げの1割で結構ですよ」

「…わかりました。ありがとうございます」

 水着を手に入れ嬉しくなったルシアは、今すぐにでも海へ行きたかった。

「浮き輪を買いに行きたいわ!」

「そうですね!バナナの形のボートがいいんじゃないですか?」

「いいえ、わたくしはドーナツ型に乗りたいの。ステラはバナナ型にしたらいいのではない?」

「え!私も海に入るのですか?」

「そうよ。だって一人じゃつまらないじゃない。水着も2着あるのだし」

「え――!!私が着るんですか?!」

「ふふふ、楽しみね」

 ステラは目を白黒させたが、ルシアと海で水遊びをするのは楽しそうなので、すんなりと受け入れた。


◆◆◆


 ルシアの水遊びのために、リアムはスチュワート伯爵家が経営しているリゾートホテルを完全貸し切りにさせた。

 他国の王族が静養に訪れたこともある超高級ホテルである。

 このリゾートホテルには景観の美しいプライベートビーチがある。

 ビーチ周辺は緑の木々が茂っているため、どこからの視線も防げる。

 ホテルの入り口からしかビーチには出られず防犯性も高い。

 王族の客があるときは、ビーチに護衛が立つのだが、今回は護衛不要と伝えてある。

 肌が隠れた水着とはいえ、スカートの生地は若干透ける。

 絶対に男たちの目に入らないようにと、リアムが完璧な布陣を敷いたのだ。

 なのに。

「ルシア~。遊びに来ちゃったよ~」

 呑気な声で伯爵邸に現れたのは、幼馴染のベンジャミン・パーカー子爵令息だ。

 領地が隣り合っており、子どもの頃から家族ぐるみで付き合いがある。

「ごきげんよう、ベンジャミン。あなたも領地に戻ったの?」

「うん、ルシアがいない王都なんてつまらないからね。…あれ?どこかにでかけるの?」

 小首をかしげてルシアに聞く姿はあざとくかわいい。

「そうなの。海へ遊びに行こうと思っていたのよ」

「へえ~。じゃあ、僕も一緒に行くよ」

 一瞬リアムから殺気がほとばしる。

 なんだか寒気がしてベンジャミンがリアムの方を見るが、涼しい顔をして立っている。

「リアム、僕の分の水着も用意してよ」

「かしこまりました。すぐに手配いたします」

 ベンジャミンの図々しい要求にも、リアムは礼儀正しくお辞儀をした。

「それでは、向かいましょう。おっと、ベンジャミン様はこちらですよ」

 ルシアが乗り込んだ伯爵家の馬車に便乗しようとしていたベンジャミンを、有無を言わせず華麗に子爵家の馬車に乗せ、二台の馬車は出発した。

 リゾートホテルに着くとホテルの支配人が丁重に出迎えた。

 今日は従業員一同も休みを取らせた。

 うっかりルシアの水着姿を目にしないように。

 一室でルシアとステラが着替えている間、隣の部屋でベンジャミンが着替える。

 女子チームより先にベンジャミンが着替えて出てきた。

「ちょっと~、リアム。何この水着」

 リアムが用意したのは海女の姐さんに人気とスミスが言っていた全身スーツであった。

 サイズはちょうどよかったようだ。

「なにか問題が?」

 真面目な顔でリアムが聞くと、ベンジャミンは口をとがらせて文句を言った。

「問題しかないよね!?かっこ悪いし、なんだか動きにくいんだけど!」

「ベンジャミン様、そちらの水着は安全性が最も高い物となっております。爆裂ウニの爆発にも耐えるとか。念のため、安全にも配慮してみました」

「何のため?!そんな危険なウニなんか取らないから!普通のハーフパンツのやつにしてよ。自分だけちゃっかり普通の水着を着てるじゃないか」

「お言葉ですが、お嬢様の前で半裸になるのですか?常日頃から体を鍛え、引き締まった上半身を、お嬢様に見せたいと?」

 お察しの通りベンジャミンの体は引き締まってなどいない。

 太ってもいないが、ぽよんと柔らかそうな、なんとも残念な胸とお腹である。

 シャツを羽織っていてもわかるリアムの鍛えられた体を目の当たりにし、ベンジャミンは敗北を悟った。

「ほわっ、筋肉…。うっ、もういいよ、これで」

「お待ちください。少し手直しいたしますので」

 そう言ってリアムはベンジャミンの頭に手を伸ばし、曲がっていた全身スーツをぴっちり顔の脇まで引っ張り伸ばしてフィットさせた。

 思わず笑ってしまいそうになるのをこらえ、リアムはベンジャミンをビーチへ案内した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

死亡予定の脇役令嬢に転生したら、断罪前に裏ルートで皇帝陛下に溺愛されました!?

六角
恋愛
「え、私が…断罪?処刑?――冗談じゃないわよっ!」 前世の記憶が蘇った瞬間、私、公爵令嬢スカーレットは理解した。 ここが乙女ゲームの世界で、自分がヒロインをいじめる典型的な悪役令嬢であり、婚約者のアルフォンス王太子に断罪される未来しかないことを! その元凶であるアルフォンス王太子と聖女セレスティアは、今日も今日とて私の目の前で愛の劇場を繰り広げている。 「まあアルフォンス様! スカーレット様も本当は心優しい方のはずですわ。わたくしたちの真実の愛の力で彼女を正しい道に導いて差し上げましょう…!」 「ああセレスティア!君はなんて清らかなんだ!よし、我々の愛でスカーレットを更生させよう!」 (…………はぁ。茶番は他所でやってくれる?) 自分たちの恋路に酔いしれ、私を「救済すべき悪」と見なすめでたい頭の二人組。 あなたたちの自己満足のために私の首が飛んでたまるものですか! 絶望の淵でゲームの知識を総動員して見つけ出した唯一の活路。 それは血も涙もない「漆黒の皇帝」と万人に恐れられる若き皇帝ゼノン陛下に接触するという、あまりに危険な【裏ルート】だった。 「命惜しさにこの私に魂でも売りに来たか。愚かで滑稽で…そして実に唆る女だ、スカーレット」 氷の視線に射抜かれ覚悟を決めたその時。 冷酷非情なはずの皇帝陛下はなぜか私の悪あがきを心底面白そうに眺め、その美しい唇を歪めた。 「良いだろう。お前を私の『籠の中の真紅の鳥』として、この手ずから愛でてやろう」 その日から私の運命は激変! 「他の男にその瞳を向けるな。お前のすべては私のものだ」 皇帝陛下からの凄まじい独占欲と息もできないほどの甘い溺愛に、スカーレットの心臓は鳴りっぱなし!? その頃、王宮では――。 「今頃スカーレットも一人寂しく己の罪を反省しているだろう」 「ええアルフォンス様。わたくしたちが彼女を温かく迎え入れてあげましょうね」 などと最高にズレた会話が繰り広げられていることを、彼らはまだ知らない。 悪役(笑)たちが壮大な勘違いをしている間に、最強の庇護者(皇帝陛下)からの溺愛ルート、確定です!

図書館でうたた寝してたらいつの間にか王子と結婚することになりました

鳥花風星
恋愛
限られた人間しか入ることのできない王立図書館中枢部で司書として働く公爵令嬢ベル・シュパルツがお気に入りの場所で昼寝をしていると、目の前に見知らぬ男性がいた。 素性のわからないその男性は、たびたびベルの元を訪れてベルとたわいもない話をしていく。本を貸したりお茶を飲んだり、ありきたりな日々を何度か共に過ごしていたとある日、その男性から期間限定の婚約者になってほしいと懇願される。 とりあえず婚約を受けてはみたものの、その相手は実はこの国の第二王子、アーロンだった。 「俺は欲しいと思ったら何としてでも絶対に手に入れる人間なんだ」

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

記憶喪失の私はギルマス(強面)に拾われました【バレンタインSS投下】

かのこkanoko
恋愛
記憶喪失の私が強面のギルドマスターに拾われました。 名前も年齢も住んでた町も覚えてません。 ただ、ギルマスは何だか私のストライクゾーンな気がするんですが。 プロット無しで始める異世界ゆるゆるラブコメになる予定の話です。 小説家になろう様にも公開してます。

【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。

朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。 宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。 彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。 加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。 果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

処理中です...