私の執事は王子様〜イケメン腹黒執事は用意周到にお嬢様の愛を乞う〜

玖保ひかる

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第23話 ただひたすら昏々と眠る

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「き、消えた…」

 リアムは転移の魔法を発動し、ルシアの許へと飛んだ。

 これは日ごろからルシアにリアムの魔力を籠めたペンダントをつけさせているために実現できた魔術である。

 魔力の目印があれば、そのもとへ転移できるのだ。

 いつでも駆けつけられるようにと、リアムが古典を読み漁って実用化した失われた古代魔術の一つである。

 救護院の部屋にフッと現れたリアムに、ナリスと護衛、ルシアの治療に当たっていた医師は仰天した。

 護衛は驚いて剣を抜くところであった。

「な、いつからそこに!」

「失礼いたしました。お嬢様が意識不明と聞き駆けつけました」

 リアムは礼儀正しくお辞儀をしたのち、ルシアの側に寄ると青白いルシアの頬に触れた。

「ドクター、ケガの状態は」

「左わき腹付近に刺された傷があります。出血がひどく、意識を失われたものと思います」

「そうですか…」

 リアムはナリスにスッと冷たい視線を向けた。

「第二王子殿下、御身にお怪我がなかったのは幸いでした」

「すまなかった」

「いえ、王子殿下の護衛ならお嬢様を守れると過信した私の落ち度です」

 ナリスの背後に控えていた護衛騎士が気色ばんだが、ナリスが目配せをして鎮めた。

「そう言われてしまうとこちらも肩身が狭いね。しかし現にルシアに怪我をさせてしまったからね。きみの信頼にこたえられずすまなかった。背後から突然ぶつかられて防げなかったのだ」

「あなたが狙われたのではないのですね?」

「ああ、ルシア嬢をはじめから狙ったと思う」

「犯人は?」

「捕まえて取り調べをしているところだが、あの女は見たことがある。エジンバラ子爵令嬢だ」

 エジンバラ子爵令嬢アントワーヌ。

 ナリスの誕生パーティーの際に、ルシアに難癖をつけて絡んで来たスカーレットの取り巻きだ。

 悪い連中とつるんでルシアを穢そうと画策していたという。

 リアムが髪の毛を燃やした令嬢たちの一人だ。

「あの女か…!」

 リアムの瞳が怒りで染まる。

 何の瑕疵もないルシアを襲わせようと醜い画策をしておきながら、髪が燃やされ、立場があやうくなったらそれを恨み、ルシアの命まで狙うとは。

 リアムは何とか怒りを抑えて、医師に向き合った。

「ドクター、お嬢様を屋敷に連れて帰りたい」

「まだ、あまり動かさない方がよいだろう」

「しかし屋敷の方が療養にはいいのです。このような所ではまたお嬢様が襲われたときに対処できない。それに、伯爵家に戻れば回復薬があるので」

「回復薬はすでに飲ませましたぞ」

 医師はそう答えたが、リアムは軽くほほ笑んで首を横に振った。

「ここで手に入る回復薬では傷もふさがりますまい」

「それは、そうだが」

「当家にはどのような傷もすぐに癒える回復薬が保管されています。ゆっくり休める環境もすぐに用意できますので、連れて帰らせていただきます」

「…わかりました。くれぐれも安静にしてくださいね」

「ええ、もちろんです」

 そう言うと、リアムはルシアを横抱きに持ち上げ、やり取りを見守っていたナリスに一礼をした。

「では王子殿下、これにて失礼いたします」

 来た時同様、一瞬で姿が掻き消えた。

 取り残されたナリスは、我知らず気おされていたことに気が付く。

「ただ者ではないね…」

 小さく口の中で呟き、何とか気を取り直して、自分たちもスチュワート邸へと戻った。


 ◆◆◆


 一瞬にしてスチュワート邸に戻るとすぐに、リアムは万能回復薬を薬品庫から取り出した。

 万能回復薬はケガを含むあらゆる状態異常を回復させる効能があり、大変に希少で高価な薬品だ。

 国一番の資産家であるスチュワート伯爵家だからこそ入手できた代物である。

 手足の欠損程度なら回復できるため、よほどのことがない限り使用しないつもりの備えである。

 いま使わなければ、それは宝の持ち腐れである。

 意識のないルシアに薬を飲ませるため、リアムは躊躇なく自分の口に薬を含み口移しで飲ませた。

 うまく入らなかった薬が一筋、ルシアの口元からツーッとこぼれた。

 口の中に入った分は、なんとか飲み下したようだ。

 すると腰の刺し傷はみるみる塞がり、苦しそうだったルシアの呼吸もスーッと静まった。

 土気色をしていた顔も、青白く見えるくらいまでには回復した。

 あとは失った血液が体内で作られ、体力が戻るまで安静にしていればよい。

「早く目覚めてください、お嬢様」

 ルシアの眠るベッドの淵に腰かけ、静かに囁くと、そっとルシアの唇にキスをした。

 ルシアは身動き一つせず、ただひたすら昏々と眠るのだった。

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