森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。

玖保ひかる

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第25話 レオンとハリソン

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 ハリソンの部屋に家令が入ってくる。


「坊ちゃま、少々よろしいでしょうか」

「ああ、かまわないが…。その呼び方はやめてくれないか」

「これは失礼いたしました。それでは今後は若様と」

「まあいい。それで?」

「アリステルお嬢様の捜索に出ておりました者が、拾い物をして戻りまして」

「拾い物?」


 聞けば、スコルト国へ派遣されていた私兵が、スコルト国とオーウェルズ国の国境をなす大河で行き倒れている男を見つけ保護したとのことだった。

 三日三晩高熱でうなされていたが、熱が下がってからの回復は早かったが、男は記憶を失っていた。

 どうやら腕もたつし、機転も利くので、ヴァンダーウォール家で雇ってはどうかと、連れてきたという。


「身元はわからないのか」

「はい、調査はまだ」

「じいやは会ってどう思った?」

「私はまっすぐな青年かと」

「そうか。ならば会おう」


 家令に連れてこられた男は、背が高く引き締まった体をしている。

 しなやかな筋肉が全身に付き、よく鍛えられていることが見て取れる。

 物怖じをせず、背筋をまっすぐに伸ばして立っている姿に、ハリソンは一目でこの男が気に入った。


「記憶がないと聞いたが、何か覚えていることは?」

「・・・刃物の扱いには慣れていたようだ。獣をさばいたり、火をおこしたり、そういったことは考えなくてもできる。剣をふるうこともできた。そういったことを生業としていたのだろう。」

「なるほど。では軍人か、傭兵か、冒険者といったところかな。しかし君の態度は軍人らしくはないね。おそらく自由な冒険者だったのではないか」


 刃物の扱いを心得ていたように、軍人であれば、上官や目上の者に対する礼儀作法も体が覚え込んでいるものだ。

 このように不遜な態度であるからには、誰かに仕えていたとは考えにくい。


「私はハリソン・ヴァンダーウォール。伯爵家の長男だ。私に仕える気はあるか」

「自分は何者かわからない。もしかしたら伯爵家と敵対する勢力の者だったかもしれない。なぜ記憶を失って、河岸に打ち上げられていたのかもわからない。そんな者でも雇ってもらえるのであれば、記憶が戻るまでは世話になりたいと思う」

「そうか。いいだろう。記憶が戻って、なお私のもとで働く意思があるならば、それを尊重しよう。お前には頼みたいことがある。お前を拾ったキールと共に、私の妹を探し出して欲しい。詳しくは家令に聞いてくれ」

「承知した」


 家令と共に部屋を退出し、キールが待っている使用人が食事を取る広間へと下がった。


「どうだった?雇ってもらえたか」

「ああ。キールのおかげだ」


 キールはにやりと笑って、レオンの背中をバンとたたいた。


「これからは同僚だな。よろしく頼むぜ」


 そのやり取りを家令がにこやかに見て、きりの良いところで話始めた。


「さて、ではキールはアリステルお嬢様を探す任務に戻りなさい。ゼロを同行するように。ゼロ、君はキールに従って動くように。ヴァンダーウォール家はいま、行方不明のお嬢様を捜索している。お嬢様はアリステル様と言って、金髪に碧緑色の瞳を持つ美しいお方だ。年は16歳。キール、お嬢様の絵姿をゼロに見せなさい」

 キールが胸元から畳んだ絵姿を取り出し、広げて見せると、レオンはハッと何かに気が付いたように身を固くし、次の瞬間には絵姿を奪うように取った。


「アリス!」


 そう叫ぶと同時に、ガン!と頭を殴られたような衝撃を受け、レオンは痛みに耐えかねうずくまる。


「うっ・・・!」

「ゼロ!どうした、大丈夫か?!」


 キールが突然のことに慌ててレオンの体を支える。

 レオンの頭の中に、濁流のように記憶が戻ってくる。


(そうだ!アリスを、アリスを守らなくては!)


 痛みが引いてくると、荒い息を整え、レオンは立ち上がった。

 そこへ、ハリソンが小走りにやってくる。家令が呼びに行ったのだ。


「大丈夫か?」


 ハリソンが声をかけると、レオンはまっすぐにハリソンを見た。


「俺は、冒険者レオン。記憶を失う前、アリスと行動を共にしていた」

「「なんだって!!」」

「思い出したんだ。俺は襲ってきた魔獣に剣を突き立て、魔獣と共に川へ落ちた。その時、アリスも一緒にいたのだ」

「待て!そのアリスというのは、アリステルのことで間違いないのか!?」

「ああ、この絵姿のアリスだ」


 ハリソンはようやくもたらされたアリステルの生存情報に、涙を流して喜んだ。


「アリス、生きていてくれたかっ!よかった・・・!」

「あなたは、アリスの兄上のハリソン様か」

「ああ!そうだとも。アリスが僕のことを?」

「研究機関で働いている兄上に会うため、俺たちはスコルト国を目指していた」

「なんだって?そうか。アリスは僕が国に帰ったことを知らないんだね。では、スコルト国へ迎えをやらなくては。いや、僕が行こう」


 レオンの胸には焦燥感があった。

 アリスはあの後、どうしただろか。

 レオンが魔獣と共に川に落ちてから、2週間が経っている。

 エイダンは野営地の合図に気が付いてくれただろうか。

 二人で取り決めた標を読み解けば、行く先と進んだ距離がわかるはずである。

 エイダンがアリステルと合流していてくれれば、何の心配もないのだが・・・。


「兄上、アリスはオーウェルズの王都でとある貴族の娘に目を付けられ、命を狙われていた。逃げ延びようとスコルトへ旅をしていた途中に、俺が魔獣に襲われヘマをしてしまった。スコルトへ迎えに行くならば、急いだほうがいい」


 アリスの無事を知って歓喜に満ちていたハリソンは、一気に血の気がひいた。


「なんということだ。詳しく聞きたいが、今はそれどころではないようだ。すぐに救出に向かう。じいや、用意をしてくれ」

「かしこまりました」

「俺は先に行く!」


 レオンは素早く身をひるがえし、キールが止めるもの聞かず屋敷を出て行ってしまった。


「よい。キール、お前は私の護衛として付いて来い」
「はっ」


 レオンは急いで屋敷から出たものの、冷静さを失っていたわけでない。

 アリステルとはぐれた場所まで戻るにも、どう見積もっても1週間はかかる。

 ある程度の食料と水を用意し、馬を走らせた。

 ハリソンと共に行動することは、足枷になると考えた。

 アリステルを森に捨てた継母と結託していないことは先ほどの様子を見ていれば信じられたが、それでも武にたけているわけでもない伯爵令息と一緒では、進度に大きな影響が出てしまうだろう。

 キールと談笑しながら来た道を、レオンは一気に駆け抜けた。
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