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本編第一章:高二になりました、進級して早々に波乱の展開が続いております。
♢第八話:偶然体育でペアを組むことになったテニス少女がドS過ぎる件について♢
しおりを挟む校外学習という非日常が明け、俺たちはまた通常の学校生活に戻っていった。
結局あの日、高松が咲菜に告白することはなかったようだ。島田が俺に嘘をついたのか、高松が日和ってやめたのか・・・真相は分からないが、まあ、俺にとっては悪くない結果となった。
・・・ところで諸君。話は変わるのだが・・・体育は、全国の高校生にもっとも好かれている科目と言って過言はないのではないだろうか?
もちろん、体を動かすことが嫌いで、または運動が苦手だったりして体育の授業を好まない生徒も少なからず存在する。しかし、数学や古典、物理などの大きく好みが分かれる学術的な科目と比較すると、アクティビティ性を持っている体育という科目は、やはり生徒人気は高い。
かく言う俺も、体育は嫌いではない。こんな俺にも、どこかに無邪気な野性的感覚が残っているのか、毎週水曜日と木曜日は普段よりも少しテンションが高いらしい。(咲菜調べ)だからこそ、二年生に上がってから始まったテニスの授業も楽しみにしていたのだが、俺はそこで思わぬ障壁にぶつかっていた。
「じゃあ、二人一組になってラリーを始めてみろ~」
先生からの指示が出ると、各々がちりじりなってペアを組み始める。俺はしばらく黙って成り行きを見守っていたが、もはや殆どが二人組を作り終え、テニスボールがあちこちで飛び交っている。
(まずい、乗り遅れた・・)
考えてみれば当然のこと。普段俺が一緒にいる咲菜はバスケットの選択だったため、ここにはいない。
《も~、右代ってば、私がいないと何もできないんだから~~困ったら咲菜お姉ちゃんを呼んでもいいんだよ?》
ふと咲菜のにやけ面が脳裏に浮かぶ。くそ、これじゃまんまあいつの言う通りじゃないか。
(そうだ、みや!)
俺は二週間前に知り合ったクラスメイトの女子を探したが、見当たらない。どうやらみやもバスケかクリケットを選択したようだ。
(仕方ない、壁打ちでもしてよ)
ぼっちとは常にあきらめや損切も早いものである。俺はそう考え至ると、一番奥のコートに併設された壁打ち用のスペースに移動した。
〖―――パコーンッ〗
ガットがボールの表面をこする音に続けて、テニスボールが壁へと衝突する乾いた衝撃が伝わる。
どうやら先客がいるようだ。
それが男であったら、俺は迷わずペアに誘っていただろうが、一人で懸命にラケットを振るその人物は女子だった。きれいな長い黒髪を後ろに束ね、テニス用の本格的なキャップをかぶっている。
(経験者か・・・)
俺は手本になるかと彼女のきれいなフォームを邪魔にならないように観察する。彼女の表情は真剣そのもので、きれいな真珠色の瞳を、ボールに合わせて動かす。
別に意識しているわけではないが、彼女がストロークのモーションに入るたび、揺れ動く胸部につい目が奪われてしまう。
(・・・・いかん)
俺はなるべく意識しないように、隅の方で壁打ちを始めた。
「・・・・・・・ねえ」
しばらくして、彼女の方から俺に声をかけてきた。
「あなたも一人なら、少し相手してくれない?」
「・・・別にいいが、俺はテニス初心者だぞ?」
思いがけない出来事に、俺は少し動揺しながらもそう答える。
それからしばしの間、お互い壁打ちをしながらの会話が始まるが、俺の方はすぐにボールを明後日の方角へと飛ばしてしまったのに対して、彼女は手を休めることなくボールを打ち続ける。
まったく器用なものだ。
「―――いないよりましだから」
「さいですか」
「・・・それは了承ととってもいいの?」
問いに対して俺が頷くと、彼女は飛んできたボールをキャッチし、黙って俺とは反対側のコートに移動した。
「優しくするから安心して」
「お、おう」
彼女、改め白川まつりは、俺がぎこちなくも構えたのを確認すると、ふんわりと浮き球をよこした。俺は見よう見まねで、そのボールを白川のもとに帰す。
「・・・驚いた。あなた、本当に素人?」
「まあ、もともと体を動かすのは苦手じゃないからな」
「そう」
彼女の口角が少し緩む。さすがテニス部、返すので精一杯な俺だが、白川が上手くボールを出してくれることもあって、途切れることなくラリーが続く。
「そういえば、お前以外の女子テニス部員は?」
「ほかの競技を選んだみたい。毎日テニス漬けだから、気持ちは分からなくはないけど」
「―――そうか」
なんだか今の会話だけで、部内での白川のボッチポジションが垣間見えてしまった気がする。
「―――なに?」
「いや別に」
俺の思考を見透かしたように、白川は語気を強めた。
「どうせ私を、一緒にラリーをする友達も居ない、かわいそうなやつだとか思ってるんでしょうけど、そんなこと、あなたも同じようなものでしょ?」
一転、コースを狙いすましたテニス部員の一撃は、俺のラケットをかすることもせず後方の柵へと達した。
「・・・フィフティーン・ラブ」
彼女はどこか楽しそうに、そうつぶやく。
(ラリーはどこ行ったんだラリーは・・・)
俺はポケットからボールを取り出すと、白川側に高く打ち上げた。
「・・・あ、UFO!」
「え⁉うそ‼」
面白いくらい簡単に引っかかった白川は、俺の指が示す方に釘付けになった。
「フィフティーン・オール!」
「・・・・・・・」
「いや、ごめん。まさか本当に引っかかるとは思わなくて」
普段はやられる側だが、俺のことをいつも面白がっている咲菜の気持ちが今、少しわかった。
「べっつにぃ⁉早く次の球頂戴」
「あ、ああ」
今度は普通にボールを相手コートに送り出し、白川の返球もさほど難しくない場所に届いたように思われた。
「――――!?」
しかし、着弾したボールはコート上をすべるようにして沈み込んだ。
「っ!」
俺はなんとかラケットに当てて返したが、もちろん勢いは弱弱しい。
それを白川は、容赦なくこちら側のコートにたたきつけた。
「っし!」
そう小さくつぶやいたように思えた白川は、左手を握り胸の方に寄せると、ガッツポーズを作った。
まさかこいつ、素人の俺相手にむきになってるんじゃ・・・。俺がボールを回収し、コートに戻ると、彼女は勝ち誇ったようにすがすがしいどや顔を向けてくる。
「サティー・フィフティーね」
(コノヤロウ―――)
・
・
「―――ってことがあってさぁ」
その日の放課後、いつも通り暇な部室で、俺はみやに授業のことを話した。あの後は一方的にボコボコに打ち込まれ、俺の脚はがくがくである。
「いいんじゃないかな。右代はいつもぼーっとしてるし」
ひどい言われようだ。授業自体は、ほぼ毎回真面目に受けているはずなんだが・・・。
「・・・で?これは?」
俺はちょうど目の前に差し出されたティーカップを見る。中に注がれた褐色の液体は、ほのかに紋を作りつつ、上品に輝いている。
「ティーセット。うちで余ってたのを持ってきたんだよ」
「俺はどちらかと言えば緑茶派なんだがな・・・」
「せっかく淹れたんだから、一杯くらい飲みなよ。実は私、紅茶検定の資格も持ってるんだ」
「へえ・・・」
みやの意外な一面に、俺はつい「キャラづくりか?」とこぼす。
「君はそうやっていつも人のことを馬鹿にするよね・・・もしかしてサディスト?」
「冗談だよ・・・」
俺はそう言いながらも、資格保有者の実力はどんなもんかと、芳醇な香りを醸す目の前の紅茶をさっそく試飲する。
(―――ん!)
これは・・・なかなかうまい。単純な味もさることながら、一番素晴らしいのが、紅茶特有の後味の悪さをも軽減していることだ。
悔しいがさすが資格保有者といったところだ。まあ、当の本人はすでに興味の対象をゲーム画面に移してしまっているようだが。
〈コンコン・・〉
突然部室に響いたノックオンに、俺たちは体を震わせ顔を見合わせる。当然だ、この部に来客など、少なくとも俺がいる間には一度もなかった。
「―――取り込み中ごめんね、出直したほうが良かったかな?」
「あ、いや・・・大丈夫です」
俺がそう一言かけると、部屋の扉が静かに開いて、女子が二人入ってきた。
確かクラスメイトだったはずだが、親しくした覚えはないどころか、話したことすらないと思う。そもそも名前すら出てこないのがその証拠だ。
「・・桜井さん、道木さん。どうしたのこんなところに?」
(名前言ってくれたのはありがたいが、こんなところとはなんだ)
「あの、実は女子テニス部を代表して、榮倉君に折り入って相談があるの」
二人は、自分たちがテニス部に所属していることを明かす。彼女の口からテニスの三文字が出てきたことで、俺の脳内には嫌な予感が立ち込めた。
そして間もなくそれは現実となる。
「まつりのことなんだけど・・・」
桜井さんがそう切り出すと、今度は道木さんが話を進める。
「彼女、最近調子が良くないんだ・・・この前も練習試合で惨敗して」
「へえ、そうなのか・・・」
五限の体育のときはそうは思えなかったが。
「でもまあ、そういう時期もあるだろ。プロだっていつでも調子がいいわけじゃないし」
「そうなんだよね。だから私たちもそう言ってるんだけど・・・あの子一人で根詰めちゃってるんだ。体育も、一人だけテニスを選択して・・・」
なるほど・・・体育で白川が一人だったのは、そういうことだったのか。
「・・・話はだいたいわかったが、俺になにかできることはあるのか?」
「うん・・・まつり最近、昼休みとか部活がない日の放課後もずっと休まず練習してるの」
「それって、どのくらいだ?」
「もう一週間にはなると思う」
それは確かに心配だな・・・根詰めすぎるとけがにつながるし、焦るとどんどん調子が悪くなって負のスパイラルになりかねない。
「・・・言っておくが、俺は白川とは親しくないし、なんなら今日始めた話したんだ・・・多分俺が何言っても聞かないと思うぞ?」
「うん、たぶんいまのまつりには、先生が言っても聞かないと思う・・・でも今日体育のときコートの方を覗いてたんだけど、あんなに楽しそうにしてるまつり、久しぶりに見たよ!」
「―――だからお願い、榮倉君!しばらくまつりの練習に付き合ってあげてくれないかな?」
「練習・・・というか、俺は今日一方的に蹂躙されてただけなんだがな」
「それでもいいから、というかいまのまつりには、そのくらいがちょうど良いんだと思う」
(・・・つまり俺にサンドバッグになれと・・・?)
「・・・引き受けてあげなよ、右代。ほかの仕事は私に任せてくれていいからさ」
(よく言うぜ・・・この部にほかの仕事なんてないのを知っておいて)
といっても、クラスメイトにここまで頼まれたら、さすがの俺にも断ることはできない。
加えて、俺たちはボランティア部。たまにはこういう活動もしておかないと、部費が減るどころか、おそらく部自体消されかねない。
「・・・・わかった。とりあえずなんとかやってみるか」
「本当に⁉ありがとう‼」
俺は残り二年ある高校生活を快適なものにするためにも、ボランティア部として初めて本格的な奉仕活動に従事することになった。
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