異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

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第10章 神造者とカミツクリ

第232話  テセルから逃げ出した先にて

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 翌朝になってオレは朝日を受けて目を覚ます。
 今のオレはドルイド魔術を周囲の植物にかけて、侵入者を察知出来るのだが、とりあえずそのような相手はいなかったようだ ―― そしてテセルもオレの寝込みを襲ってはこなかったわけだ。

 どうやら朝日については、このフォンリット帝国でも他の地域と変わらないようだな。
 さすがの神造者も太陽までは操作できないのか、それとも『現時点では出来ない』というだけなのかは分からない。
 だが改めて空を見るとその中にかなり大きな黒点が浮かび挙がっていた ―― どうやらあれが『新しき月』の昼間の姿らしい。
 正直に言ってかなり不気味な光景だが、もう慣れるしかないのだろう。
 ただこの光景だけでも帝国が他国から疑念の目を向けられるのは、当然のような気がしてしまうな。

 見ると傍らでテセルはまだ熟睡しているようだ。
 神造者としての赴任地に向かう途中だと言っていたが、長旅を重ねていてかなり疲れていたのかもしれないな。
 このままとっとと立ち去ってもいいのだが、一応の別れぐらいは言っておくべきだろう。

「ふわあ~」

 そんな事を考えていると、テセルは何とも定番通りの寝起きの声を挙げてその身を起こす。

「おはようございます。テセル」
「ああおはよ……」

 半ば寝ぼけたテセルの瞳が、オレの方に向けられたところでなぜかその目が驚愕に開く。
 まさかまた何かとんでもない事を言われるのかと、思わずオレは身構えざるを得なかった。

「お前……アルタシャか?」
「他に誰がいるんですか」

 テセルは悪党ではないにしても、こんな高慢な相手に付き合う人間なんてそうそういないだろうに。

「いや……何というか……その……」

 あれ? 妙に動揺しているぞ。
 それになぜか妙に顔を赤らめているし、視線をあからさまに逸らしつつ、それでいてチラチラとこっちを盗み見るかのような態度だ。
 今さら何を慌てているんだ。

 あ? そうだ!
 オレは魔法で夜目を強化していたから、あの『新しき月』の明かり ―― だいたい元の世界の夜の街ぐらい ―― でもハッキリ見えていたが、テセルにとってはオレの顔をまともに見たのは今が初めてだったのだろう。

「いや……僕もちょっとは驚いたよ」

 ははん。昨晩はオレの容姿をよく見ていなかったけど、朝日の中でハッキリ認識したものだからかなり意識しているな。
 まあ神や精霊のたぐいが常に美形とは限らないし、テセルもオレが女の身である事は見抜いても、薄明かりの中で容貌まではよく見てなかったのだろう。
 明らかにテセルは『選りすぐりのエリート』として勉学に励んできた一方で、異性経験が殆ど無い童貞野郎のリアクションだな。

 ここはちょっとばかりからかってやろうか ―― いや。待て。容姿で男を手玉に取ろうなんてそんな発想をしてどうする。
 女にかなり慣れてきてしまっていることを、またしても痛感させられてしまうな。
 オレがちょっと動揺していたとこで、テセルは少々顔を赤らめつつ問いかけてくる。

「なあお前。改めて言うけど、僕と一緒にこないか?」
「あいにくですけど、こっちの答えは変わりませんよ」

 正直に言えば、このフォンリット帝国内で明確に行く当てがあるわけでもないが、あからさまに下心満載の相手と同行する気は無い。

「悪い事は言わないから、僕と同行した方がいいぞ」
「今度は脅しですか?」

 そりゃまあオレだって『何が襲ってきても大丈夫』と考えるほど思い上がってはいないつもりだが、それでもこっちの容姿を見て態度を豹変させた相手に付き合うのは別の意味で危ないだろう。

「そうじゃない。ここでお前は本当に危険なんだよ」
「そんな危険な相手と同行する方が、エリートのテセルにとっても危ないでしょう?」
「何を言っているんだ! 人々を護るのも神造者の役目だと言っているだろうが。お前のための危険なら喜んで引き受けるぞ」

 それはオレの容姿を見る前から言っていたののなら、まだ説得力が少しはあった気がするけどな。

「悪いけどテセルと一緒でも十分に危ないと思いますので、これで失礼させてもらいます」

 オレはテセルに背を向けつつ、オレは移動力増強の魔法を自分にかけて走り出す。

「おい! まだ話は終わってないぞ!」

 背後からテセルの悲鳴に似た声が響いてきたが、オレは一気に振り切った。
 これがテセルとの今生のお別れだろう ―― と、この時のオレは本気で考えていた。

 しばらくしてテセルの姿が見えなくなったところで、一安心したオレは周囲を見回す。
 あたりは何の変哲も無い朝の山道 ―― のはずだったが急に影が差してきたような気がしてくるぞ。
 いったい何が起きたんだ?
 あたりを見回すと空にいきなり雲がわき出してきている。しかもなぜかオレの上空に集中しているらしい。
 まさかまたテセルの言う『廃神』が出てくるのか?
 かなりやばそうな空気が漂ってくるな。
 こうなったらさっさと逃げるしかない。
 そう思って駆け出そうとしたとき、曇り空からいきなり閃光が走りオレの視界が白一色で満たされた。

 な、なんだ? 落雷?
 雷が落ちるようなところなんて、オレの周囲には無かったはず。
 いや。この世界の雷は元の世界と違って電気ではなく『神の力の現れ』なんだろうけど、それでもわざわざこっちを狙ったかのように落ちてきたのはなぜなんだ?
 そして困惑するオレの前で、落雷のあった地点に『何か』が姿を見せていた。
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