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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第418話 瘴気に近づくと
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「おい! アルタシャ! 辞めておけ! 余計な事にクビを突っ込むな」
「ターダはそこにいて下さい」
引き留めようとするターダを振り切って、オレはひとまず瘴気に魅入られたという人達の方に駆け寄る。
そこにいた人数は四人で全員男性だ。
この地域の人間の服装には詳しくないので、どのような相手なのかはよく分からない。
それはともかく霊体を見る『霊視』の魔法をかけて、周囲の様子を見ると思わぬものが目に飛び込んできた。
周囲に漂っている瘴気というのは、巨大な霊体だったのだ。どうやらそれで何人もの人間を包み込んで取り憑き、操っているらしい。
ただサイズは大きいものの有する魔力は突出して強力というわけでもなく、せいぜい並よりも上という程度のようだ。
そして黄色い霞のようなガスを己の依り代のようにして動き回り、人間を引き込んでいるに違いない。
信仰されている霊体は、信徒からの崇拝を受けて自分を維持しているが、この瘴気は生者を食い物にしているのだろう。
殆どの場合、このような霊体はシャーマンが礼拝してなだめたり、地元の神の司祭によって放逐されたり、一神教徒なら時には封印して道具扱いしたりもするけど、この湿地帯では手が及んでいないのだな。
そうこうしていると瘴気の霊体はオレの方向にも伸びてくる。動きに風任せのところはあるけど、近寄った相手を引き込むぐらいの事は出来るらしいな。
まあいい。この程度の霊体ならば、オレに取り憑く事など出来ない。
ここは『追放』の魔法でこの世から追い払うとしよう。
そう思って魔術をかけようとしたところで、思わぬ声がかかる。
「ああそこの人。余計な事はしないでくれるかな?」
「え?」
見ると瘴気に魅入られた団体の中で、一人の男がオレに制止の声をかけてきたのだ、
どうやらこの人だけは正気であるらしい。
いったいどういうことだ?
「君はいまこの瘴気を追い払おうとしたんじゃないのかな? それではすぐにまたこの世に戻ってきて他の人を襲うよ。何の意味もない」
見たところ相手の年齢はだいたい三十歳ぐらいだろうか。
外見はかなりいかついもので、筋肉に覆われていてかなりたくましい。
そういえばよく見ると、この人の周りは瘴気では無く、別の霊体に覆われているようだ。
今までの経験から恐らく『守護霊』だろう。
そうするとシャーマンか?!
ただ肉体も鍛え上げられている様子で、魔法も戦闘も両方こなせそうなタイプだな。
その割にはかなり物腰は穏やかに感じられる――周囲に恐ろしい瘴気が蔓延している状況下では不自然な程に。
「どうやら君はよそ者のようだな。悪いけどこの地の流儀に従ってもらうよ」
そう言って男はオレを制するように手を突き出す。
しかし考えて見ると今のオレはフードを被ってはいるものの、外見だけでは瘴気に立ち向かうような相手には見えないはずだ。
やはり何か見抜いているのだろうか。
「とにかくこの瘴気はこちらに任せてくれ。それが仕事だからな」
どうやらここにある瘴気は言ってみれば、この男の『獲物』であるらしい。
それはいいのだけど、だったらなぜ魅入られている人達を止めないんだ?
そりゃ瘴気の相手は危険が伴うだろうから、無関係なシャーマンなら知らん顔をしてもまだ理解は出来る――支持はしないけど。
しかしこの人は瘴気を止めるなり、なだめるなりするのが仕事だと自分で言っているのだ。
それでも無関係の人間はどうなろうと構わないのだろうか。
「あなたはこの人達がどうなろうと気にしないと言うのですか」
「まさか。そんなはずが無いだろう。何を言っているんだね?」
男はハッキリと否定した。どうやらオレの思い違いだったらしい。
少しはホッとしたけど、それではどうする気なんだ。
普通に考えると、瘴気が出てくる穴にまで案内させるつもりだろうか。
危険だけどやむを得ない事なのだろうか、と少しばかり考えるが、やっぱりそんな見込みは甘すぎた。
「この人達は瘴気の穴に入って、瘴気の元をなだめさせるのだよ」
「な!」
オレが思わず絶句したところで、シャーマンらしき男は意外そうな表情を浮かべる。
「おや? 君の知り合いがこの中にいるのかな?」
「いませんよ!」
反射的に答えたところで、男はクビをひねる。
「それならなぜ驚いているんだね」
「だからそれでは放置しているのと何も変わらないじゃないですか!」
「失敬な。まるでこちらが仕事をしていないかのように言わないでくれ」
実際にやってないのと一緒じゃないか。
しかし男は憤慨しているらしいけど、それほど深刻そうにも見えない。
人の命のかかった緊迫した場面のはずなんだけど、どうも調子が狂うな。
「まあ分かってくれとは言わないから、邪魔をせず立ち去ってくれまいかね?」
「あなたに悪いけど、そういうわけにはいかないんですよ!」
オレはここで『追放』の魔法をかけて、周囲の瘴気というかガスを依り代としている霊体を追い払う。
そうすると黄色いガスは瞬く間に雲散霧消し、それと同時に魅入られていた三人の男は糸が切れたように倒れ伏す。
「ああ。何をするんだよ」
男は余計な事をされたと言わんばかりだが、やっぱりあまり深刻そうには見えないな。
「困ったなあ。こんなことをされたら犠牲者が増えるじゃないか」
これまでの話からすると、オレがやったことはあくまでも瘴気の霊体を一時的に追い払っただけなので、すぐに瘴気の穴から戻ってきてしまうということだろう。
そしてこの男は生け贄同然に魅入られた人達を瘴気に与え、そこでシャーマンとしての儀式を行って、しばらくの間その活動を抑え、近隣の人間が安全に過ごせるようにしようと考えていたに違いない。
そういう事がすぐに思い浮かぶようになったのは、かなりこの世界に慣れてきてしまったという気もするけど、オレはそれに合わせる気はないんですよ。
「ターダはそこにいて下さい」
引き留めようとするターダを振り切って、オレはひとまず瘴気に魅入られたという人達の方に駆け寄る。
そこにいた人数は四人で全員男性だ。
この地域の人間の服装には詳しくないので、どのような相手なのかはよく分からない。
それはともかく霊体を見る『霊視』の魔法をかけて、周囲の様子を見ると思わぬものが目に飛び込んできた。
周囲に漂っている瘴気というのは、巨大な霊体だったのだ。どうやらそれで何人もの人間を包み込んで取り憑き、操っているらしい。
ただサイズは大きいものの有する魔力は突出して強力というわけでもなく、せいぜい並よりも上という程度のようだ。
そして黄色い霞のようなガスを己の依り代のようにして動き回り、人間を引き込んでいるに違いない。
信仰されている霊体は、信徒からの崇拝を受けて自分を維持しているが、この瘴気は生者を食い物にしているのだろう。
殆どの場合、このような霊体はシャーマンが礼拝してなだめたり、地元の神の司祭によって放逐されたり、一神教徒なら時には封印して道具扱いしたりもするけど、この湿地帯では手が及んでいないのだな。
そうこうしていると瘴気の霊体はオレの方向にも伸びてくる。動きに風任せのところはあるけど、近寄った相手を引き込むぐらいの事は出来るらしいな。
まあいい。この程度の霊体ならば、オレに取り憑く事など出来ない。
ここは『追放』の魔法でこの世から追い払うとしよう。
そう思って魔術をかけようとしたところで、思わぬ声がかかる。
「ああそこの人。余計な事はしないでくれるかな?」
「え?」
見ると瘴気に魅入られた団体の中で、一人の男がオレに制止の声をかけてきたのだ、
どうやらこの人だけは正気であるらしい。
いったいどういうことだ?
「君はいまこの瘴気を追い払おうとしたんじゃないのかな? それではすぐにまたこの世に戻ってきて他の人を襲うよ。何の意味もない」
見たところ相手の年齢はだいたい三十歳ぐらいだろうか。
外見はかなりいかついもので、筋肉に覆われていてかなりたくましい。
そういえばよく見ると、この人の周りは瘴気では無く、別の霊体に覆われているようだ。
今までの経験から恐らく『守護霊』だろう。
そうするとシャーマンか?!
ただ肉体も鍛え上げられている様子で、魔法も戦闘も両方こなせそうなタイプだな。
その割にはかなり物腰は穏やかに感じられる――周囲に恐ろしい瘴気が蔓延している状況下では不自然な程に。
「どうやら君はよそ者のようだな。悪いけどこの地の流儀に従ってもらうよ」
そう言って男はオレを制するように手を突き出す。
しかし考えて見ると今のオレはフードを被ってはいるものの、外見だけでは瘴気に立ち向かうような相手には見えないはずだ。
やはり何か見抜いているのだろうか。
「とにかくこの瘴気はこちらに任せてくれ。それが仕事だからな」
どうやらここにある瘴気は言ってみれば、この男の『獲物』であるらしい。
それはいいのだけど、だったらなぜ魅入られている人達を止めないんだ?
そりゃ瘴気の相手は危険が伴うだろうから、無関係なシャーマンなら知らん顔をしてもまだ理解は出来る――支持はしないけど。
しかしこの人は瘴気を止めるなり、なだめるなりするのが仕事だと自分で言っているのだ。
それでも無関係の人間はどうなろうと構わないのだろうか。
「あなたはこの人達がどうなろうと気にしないと言うのですか」
「まさか。そんなはずが無いだろう。何を言っているんだね?」
男はハッキリと否定した。どうやらオレの思い違いだったらしい。
少しはホッとしたけど、それではどうする気なんだ。
普通に考えると、瘴気が出てくる穴にまで案内させるつもりだろうか。
危険だけどやむを得ない事なのだろうか、と少しばかり考えるが、やっぱりそんな見込みは甘すぎた。
「この人達は瘴気の穴に入って、瘴気の元をなだめさせるのだよ」
「な!」
オレが思わず絶句したところで、シャーマンらしき男は意外そうな表情を浮かべる。
「おや? 君の知り合いがこの中にいるのかな?」
「いませんよ!」
反射的に答えたところで、男はクビをひねる。
「それならなぜ驚いているんだね」
「だからそれでは放置しているのと何も変わらないじゃないですか!」
「失敬な。まるでこちらが仕事をしていないかのように言わないでくれ」
実際にやってないのと一緒じゃないか。
しかし男は憤慨しているらしいけど、それほど深刻そうにも見えない。
人の命のかかった緊迫した場面のはずなんだけど、どうも調子が狂うな。
「まあ分かってくれとは言わないから、邪魔をせず立ち去ってくれまいかね?」
「あなたに悪いけど、そういうわけにはいかないんですよ!」
オレはここで『追放』の魔法をかけて、周囲の瘴気というかガスを依り代としている霊体を追い払う。
そうすると黄色いガスは瞬く間に雲散霧消し、それと同時に魅入られていた三人の男は糸が切れたように倒れ伏す。
「ああ。何をするんだよ」
男は余計な事をされたと言わんばかりだが、やっぱりあまり深刻そうには見えないな。
「困ったなあ。こんなことをされたら犠牲者が増えるじゃないか」
これまでの話からすると、オレがやったことはあくまでも瘴気の霊体を一時的に追い払っただけなので、すぐに瘴気の穴から戻ってきてしまうということだろう。
そしてこの男は生け贄同然に魅入られた人達を瘴気に与え、そこでシャーマンとしての儀式を行って、しばらくの間その活動を抑え、近隣の人間が安全に過ごせるようにしようと考えていたに違いない。
そういう事がすぐに思い浮かぶようになったのは、かなりこの世界に慣れてきてしまったという気もするけど、オレはそれに合わせる気はないんですよ。
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