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第13章 広大な平原の中で起きていた事
第428話 瘴気の消えた土地にて
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取りあえず当面の問題だった瘴気の件はどうにかなったし、ボラボともトラブルもなくお別れできたが、これはただの脇道であって、そもそもここに来た目的であるターダの兄を探す事は、何も片付いていない。
しかもいつの間にか日が暮れてきたようだ。
オレ一人なら今からでもパップスに戻れるだろうが、ターダを置いていくワケにもいかないしここは野宿しかないか。
瘴気が晴れたところで、周囲を見るとあちこちに水たまりがあるな。
考えてみればここは湿地帯だからくぼ地に水が集まるのは当たり前だな。
この『悪鬼の湿原』には瘴気だけでなく、とんでもないモンスターがうろついている可能性があるので、安心は出来ないがそれはいつものことだ。
そんなわけでオレはいつも使っている、ドルイド魔術で侵入者があったら警告を送る結界を張って眠りにつく。
だがそれからしばしの後、オレの結界に反応があった。
なんだ? 結界は敵意や悪意のあるなしに関係無く、侵入者があれば警告を送るものだから、敵と短絡的に決めつけるワケにはいかないが、それでもターダを起こすしかないな。
「ターダ。起きて下さい。誰か近づいてきています」
「なんだと? いったい何者だ?」
「それは今から確認しますよ」
ターダは暗闇を見通せないし、霊体も感知出来ない以上――要するに普通の人間だ――ここはオレが向かうしか無い。
少なくともこんなところを夜中に訪れる相手が常人とは考えにくい。
まあパップスの城壁を離れ、こんな湿地帯にわざわざ足を踏みいれている時点でオレ達と同じく普通で無いのは当たり前なんだけどな。
ただ小さな火の手――恐らくは松明――が見えることからすると、生身の人間なのは間違いないようだ。
そこはホッとするところだろうか。
とりあえず『夜目』の魔法をかけて相手を見てみると、どうもたった一人でだけらしい。
また身につけている装備からすると、遊牧民とは違うらしいが、文明社会の相手でもないのは確実なようだ。
この一帯ではボラボ達『飢えし幽鬼』のように、明らかに主流とはかけ離れた少数派の勢力もいるのは間違いないので、警戒は怠らないにしても、こちらから仕掛けるのは可能な限り避けたい。
まずは前もって『調和』をかけて、暴力的な行動に出られないようにした上で、こちらから話しかけるべきだろう。
それで相手が厄介な存在だと分かれば、とっととおさらばすればいい。
そんなわけでオレは近寄ってくる相手に向けて、ゆっくりと歩き出す。
「おい。アルタシャ、どうする気だ?」
「あの相手と話をします。ターダはここにいて下さい」
「お前一人では危険ではないか」
「大丈夫です。もしもわたしが襲われたら、そのときは手助けして下さい」
「……分かった。言うとおりにしよう」
ターダが言う事を聞いてくれたのは、瘴気の件を含めオレの能力を信頼してくれたからだろうか。
一人で近づくのはなるだけ相手を刺激しないためだ。
いくら『調和』の影響下では暴力的な行為が封じられているとしても、不要な警戒心を抱かれないに越したことはない。
そんなわけで相手に近づいて、少し間合いを取ったところでオレの方から声をかける。
「すみません。あなたはどなたですか?」
こちらの声を聞いたところで、ビクリと小さく相手の身が震える。
「その声は……女か……」
不本意だけど、オレが女の声である事はごまかしようが無い。
近くで見ると相手はオレよりもやや年上で、二十歳前後と思われる男性だ。
削った石を穂先とした粗末な槍を手にし、何らかの大きな動物をかたどったと思われる革製のかぶり物を身につけている。
守護霊のたぐいはいないのでシャーマンではないようだな。
相手は緊張した様子でゆっくりと槍の穂先をこちらに向けてくる。
「落ち着いて下さい。わたしはあなたと戦う気はありませんよ」
「お前は何者だ?」
「わたしの事はアルタシャと呼んで下さい。あなたの名前は?」
オレのこの問いかけに対し、相手は一瞬躊躇するもゆっくりと口を開く。
「我が名はロニール。この地で何をしている? ここは瘴気が吹き出す場所だったはずだが、どうして瘴気が消えているのだ」
ロニールが何者かはまだよく分からないが、いまオレ達がいるくぼ地から瘴気がいきなり消えたので、不思議に思って調べに来たということか。
松明を持ってやってきたところからして、かなり急いで来たのだろうな。
シャーマンでないところを見ると、たまたま瘴気が消えているのを見て、驚いて何があったのか駆けつけたというところだろうか。
ここで正直に答えてもいいのだけど、たぶん信じられないだろうし、ここは適当にはぐらかした方がいいだろう。
「わたしたちも瘴気の出所を探りに来たのですよ」
決してウソはついていないので、どうにか勘弁してもらいたい。
「そうか……それはともかく今の言い方からするとお前一人ではないのだな?」
「ええ。連れがいます」
ロニールの事はオレには分からないが、ボラボのようにターダと対立するような立場だったら面倒臭い。
ここは穏便にお引き取りを願うとしよう。
「あなたもご自身の部族があるのでしょう? ここから瘴気が消えた事を報告に戻った方がいいですよ」
「そうはいかん」
ここでロニールはどういうわけかオレを睨み付けてくる。
「ここは我らにとって《神聖なる地》だ。よそ者をそのままにしておくわけにはいかん」
それはどういうことだ?
まさかロニールの一派は瘴気を吹き出していたここを《神聖なる地》と思っているの?
しかもいつの間にか日が暮れてきたようだ。
オレ一人なら今からでもパップスに戻れるだろうが、ターダを置いていくワケにもいかないしここは野宿しかないか。
瘴気が晴れたところで、周囲を見るとあちこちに水たまりがあるな。
考えてみればここは湿地帯だからくぼ地に水が集まるのは当たり前だな。
この『悪鬼の湿原』には瘴気だけでなく、とんでもないモンスターがうろついている可能性があるので、安心は出来ないがそれはいつものことだ。
そんなわけでオレはいつも使っている、ドルイド魔術で侵入者があったら警告を送る結界を張って眠りにつく。
だがそれからしばしの後、オレの結界に反応があった。
なんだ? 結界は敵意や悪意のあるなしに関係無く、侵入者があれば警告を送るものだから、敵と短絡的に決めつけるワケにはいかないが、それでもターダを起こすしかないな。
「ターダ。起きて下さい。誰か近づいてきています」
「なんだと? いったい何者だ?」
「それは今から確認しますよ」
ターダは暗闇を見通せないし、霊体も感知出来ない以上――要するに普通の人間だ――ここはオレが向かうしか無い。
少なくともこんなところを夜中に訪れる相手が常人とは考えにくい。
まあパップスの城壁を離れ、こんな湿地帯にわざわざ足を踏みいれている時点でオレ達と同じく普通で無いのは当たり前なんだけどな。
ただ小さな火の手――恐らくは松明――が見えることからすると、生身の人間なのは間違いないようだ。
そこはホッとするところだろうか。
とりあえず『夜目』の魔法をかけて相手を見てみると、どうもたった一人でだけらしい。
また身につけている装備からすると、遊牧民とは違うらしいが、文明社会の相手でもないのは確実なようだ。
この一帯ではボラボ達『飢えし幽鬼』のように、明らかに主流とはかけ離れた少数派の勢力もいるのは間違いないので、警戒は怠らないにしても、こちらから仕掛けるのは可能な限り避けたい。
まずは前もって『調和』をかけて、暴力的な行動に出られないようにした上で、こちらから話しかけるべきだろう。
それで相手が厄介な存在だと分かれば、とっととおさらばすればいい。
そんなわけでオレは近寄ってくる相手に向けて、ゆっくりと歩き出す。
「おい。アルタシャ、どうする気だ?」
「あの相手と話をします。ターダはここにいて下さい」
「お前一人では危険ではないか」
「大丈夫です。もしもわたしが襲われたら、そのときは手助けして下さい」
「……分かった。言うとおりにしよう」
ターダが言う事を聞いてくれたのは、瘴気の件を含めオレの能力を信頼してくれたからだろうか。
一人で近づくのはなるだけ相手を刺激しないためだ。
いくら『調和』の影響下では暴力的な行為が封じられているとしても、不要な警戒心を抱かれないに越したことはない。
そんなわけで相手に近づいて、少し間合いを取ったところでオレの方から声をかける。
「すみません。あなたはどなたですか?」
こちらの声を聞いたところで、ビクリと小さく相手の身が震える。
「その声は……女か……」
不本意だけど、オレが女の声である事はごまかしようが無い。
近くで見ると相手はオレよりもやや年上で、二十歳前後と思われる男性だ。
削った石を穂先とした粗末な槍を手にし、何らかの大きな動物をかたどったと思われる革製のかぶり物を身につけている。
守護霊のたぐいはいないのでシャーマンではないようだな。
相手は緊張した様子でゆっくりと槍の穂先をこちらに向けてくる。
「落ち着いて下さい。わたしはあなたと戦う気はありませんよ」
「お前は何者だ?」
「わたしの事はアルタシャと呼んで下さい。あなたの名前は?」
オレのこの問いかけに対し、相手は一瞬躊躇するもゆっくりと口を開く。
「我が名はロニール。この地で何をしている? ここは瘴気が吹き出す場所だったはずだが、どうして瘴気が消えているのだ」
ロニールが何者かはまだよく分からないが、いまオレ達がいるくぼ地から瘴気がいきなり消えたので、不思議に思って調べに来たということか。
松明を持ってやってきたところからして、かなり急いで来たのだろうな。
シャーマンでないところを見ると、たまたま瘴気が消えているのを見て、驚いて何があったのか駆けつけたというところだろうか。
ここで正直に答えてもいいのだけど、たぶん信じられないだろうし、ここは適当にはぐらかした方がいいだろう。
「わたしたちも瘴気の出所を探りに来たのですよ」
決してウソはついていないので、どうにか勘弁してもらいたい。
「そうか……それはともかく今の言い方からするとお前一人ではないのだな?」
「ええ。連れがいます」
ロニールの事はオレには分からないが、ボラボのようにターダと対立するような立場だったら面倒臭い。
ここは穏便にお引き取りを願うとしよう。
「あなたもご自身の部族があるのでしょう? ここから瘴気が消えた事を報告に戻った方がいいですよ」
「そうはいかん」
ここでロニールはどういうわけかオレを睨み付けてくる。
「ここは我らにとって《神聖なる地》だ。よそ者をそのままにしておくわけにはいかん」
それはどういうことだ?
まさかロニールの一派は瘴気を吹き出していたここを《神聖なる地》と思っているの?
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