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第14章 拳の王
第486話 『女性の人生談義』の結果
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とにかく今すぐミーリアに対して結論を示す事など出来ないし、下手に暴走されるのも困りものだ。
そうするとオレのやるべきことは、一つしか無い。要するに結論の先送りだな。
「ミーリアさんもいまこの場で、今後の事を決めるのは早すぎます」
「それではどうすればいいというのだ?」
「人生の決断なのですから、ご自身が納得する結論が出るまで考えて、そこで決めたらいいでしょう。人間は生き急ぐのも死に急ぐのも、どちらも愚かな事ですよ」
ミーリアの崇拝するザスターニック神の教団では戦闘における『速戦即決』が重んじられていると聞いていたが、信徒の人生は本人の納得するまでじっくりと時間をかける事を許してほしいものだ。
「私は急ぎすぎなのか……」
「そうですよ。人間はいつでも命がある限りやり直せます。だからミーリアさんもご自身に何が向いていて、何が向かないのか、もっと考えてから決めるべきなのです」
「あなたの言う事は分かるが、先ほど言ったように私は他の人生を知らない」
戦士としての己を悲観したので、こちらに人生相談に来ておきながら、いったん他の生き方を選ぶとなると不安が先に立っているのか。
いや。この世界では人生を選択すると言っても、普通は元の世界のように就職や進学について情報があふれている何てことも無い。
ましてやミーリアの場合は、父親が剣神の信徒でたぶん女戦士としての人生を自分の意志で選んだというより『気がついたら女戦士の人生を歩いていた』というタイプだろう。
さしずめ列車が隣のレールに移ることが出来ないように、先が行き詰まっても、すぐ隣に見えているからと言ってそうそう別の生き方は出来ないか。
「今は落ち着いてゆっくりと考えて下さい。何も今日や明日に決めねばならない話でもないでしょう」
そもそもビネースに戦いを挑む前に、そこはジックリと考えて欲しかったところだ。
どう考えても父親の方がミーリアよりも強かっただろうし、その父が敗れたビネースに正面から挑んでも勝算は低い事は分かっていただろう。
もちろんそれを覚悟の上で彼女も戦いを挑んだのは間違い無いが、たぶん後の事は考えていなかったのだろうなあ。
そういう意味では戦士を祝福するが、勝敗は関係無いというザスターニック神の忠実な信徒と言ってもいいかもしれない。
まあそれを言ったらビネースは物心ついたときから、ガイザーの信徒としてその拳で戦うべき鍛え上げられてきたのだろうし、たぶんマクラマンも似たようなものだろう。
「アルタシャの言う事は分かるが……あなたも今の人生をそうやって選んだのか?」
「それは……」
もちろんオレは考えた末に自分の現状を選んだワケじゃ無い。
むしろ行き当たりばったりで、その場その場で目の前に起きている事に取り組んできたら、今のようになってしまったのだ。
たぶんそんな事を言っても、誰一人信じないか、むしろ『それが神の御心』と過大評価されるかもしれないな。
いや。ひょっとするとあの何も考えていないようにしか見えない女神イロールが実は本当に『神のごとき頭脳』の持ち主で、オレなど想像もつかない深謀遠慮によって操り人形にされていたりするのか?
まさかな。今まで何柱もの神様に出会ってきたけどそんな相手はどこにもいなかった。
あの女神だけ例外なんてあるはずがない。
オレが少しばかり悩んでいると、ミーリアが不安げに問いかけてくる。
「どうしたのだ? 何かマズいことを聞いてしまったのか?」
「いいえ。何でも無いです」
そうだ。取りあえず今はミーリアの事が先決だ。どうせ幾ら考えたところで、あのとらえどころの無い女神の事なんか分からないからな。
「ちょっと自分の人生の選択と急に言われても、こちらもいろいろとありまして……」
ああ。なんか無様だ。
だってオレ、数ヶ月前までただの高校生だったんだから、他人の人生相談に乗れるほど人生を経験なんかしていませんよ。
これでミーリアも失望したかな――などと思ったらむしろミーリアはどこか嬉しげだ。
「そうか……何と言ってよいのか分からないが、ありがとう」
「え? どういう事です?」
「私からすれば、完全無欠に見えるあなたのような女性でも、人生は思うに任せないし、そう簡単に選べるものでもないのだろう?」
「ええ……その通りです」
本当にオレの人生は思うに任せない事だらけだし、それで望みもしないのに大陸に名声が勝手に鳴り響いて、今ではちょっと前に使い始めた偽名を名乗るだけで一騒動引き起こしかねない有様ですよ。
本当に人生は思うに任せないけど『完全無欠の女性』とはどういうことだよ。
まあ見た目だとか魔法だとか、いろいろと人並み外れている自覚はあるけどさ。それでも数ヶ月前までれっきとしたオレが本物の女性からそんな評価をされるなんて、本当に『人生は思うに任せない』という言葉通りだな。
「正直に言えば、私も出会ったばかりのアルタシャに相談したぐらいでどうにかなると思っていたワケではない。敢えて言えば少し愚痴を聞いてもらいたかっただけなのだ」
本当に正直ですね。
ミーリアは短気で癇癪持ちで、頭に血が上りやすい危なっかしい人間だけど、少なくとも悪い人でないのは確かだろう――もっともその『悪い人』でないミーリアが戦いとなれば、躊躇無く敵の兵士を切り裂くのもこの世界の現実ではあるのだけど。
「それでアルタシャは私よりもむしろ年下なのに、話を聞いていると正直に言って自分がどうしようもなく子供に思えてきた……しかしそんなあなたでも自由にならないのであれば、私の悩みなど幾らでもある事なのだな」
まあ人生経験というより、たぶん世界についての見識の違いだと思いますけどね。
それはともかく、ミーリアはたぶん現状では仲間もおらずひとりぼっちだったので、自分だけがこんな事になっているかのように思い悩んでいたのだろう。
だけどオレもそれほど変わらない事に気付いて気を取り直したらしい。
いろいろと熱しやすく冷めやすい人だ。
「だからお願いだ。もうしばらくあなたに同行させてもらえないだろうか?」
「それは……いいですけど、わたしがミーリアさんに出来る事などしれていますよ」
「ありがとう。あなたと一緒にいればきっと私にも次の道が開けると思っている」
まあ単純で直情なのは悪い事では無いので、ミーリアが再び女戦士の道を選ぶか、他を選択するか決めるまでお付き合いするとしよう。
そうするとオレのやるべきことは、一つしか無い。要するに結論の先送りだな。
「ミーリアさんもいまこの場で、今後の事を決めるのは早すぎます」
「それではどうすればいいというのだ?」
「人生の決断なのですから、ご自身が納得する結論が出るまで考えて、そこで決めたらいいでしょう。人間は生き急ぐのも死に急ぐのも、どちらも愚かな事ですよ」
ミーリアの崇拝するザスターニック神の教団では戦闘における『速戦即決』が重んじられていると聞いていたが、信徒の人生は本人の納得するまでじっくりと時間をかける事を許してほしいものだ。
「私は急ぎすぎなのか……」
「そうですよ。人間はいつでも命がある限りやり直せます。だからミーリアさんもご自身に何が向いていて、何が向かないのか、もっと考えてから決めるべきなのです」
「あなたの言う事は分かるが、先ほど言ったように私は他の人生を知らない」
戦士としての己を悲観したので、こちらに人生相談に来ておきながら、いったん他の生き方を選ぶとなると不安が先に立っているのか。
いや。この世界では人生を選択すると言っても、普通は元の世界のように就職や進学について情報があふれている何てことも無い。
ましてやミーリアの場合は、父親が剣神の信徒でたぶん女戦士としての人生を自分の意志で選んだというより『気がついたら女戦士の人生を歩いていた』というタイプだろう。
さしずめ列車が隣のレールに移ることが出来ないように、先が行き詰まっても、すぐ隣に見えているからと言ってそうそう別の生き方は出来ないか。
「今は落ち着いてゆっくりと考えて下さい。何も今日や明日に決めねばならない話でもないでしょう」
そもそもビネースに戦いを挑む前に、そこはジックリと考えて欲しかったところだ。
どう考えても父親の方がミーリアよりも強かっただろうし、その父が敗れたビネースに正面から挑んでも勝算は低い事は分かっていただろう。
もちろんそれを覚悟の上で彼女も戦いを挑んだのは間違い無いが、たぶん後の事は考えていなかったのだろうなあ。
そういう意味では戦士を祝福するが、勝敗は関係無いというザスターニック神の忠実な信徒と言ってもいいかもしれない。
まあそれを言ったらビネースは物心ついたときから、ガイザーの信徒としてその拳で戦うべき鍛え上げられてきたのだろうし、たぶんマクラマンも似たようなものだろう。
「アルタシャの言う事は分かるが……あなたも今の人生をそうやって選んだのか?」
「それは……」
もちろんオレは考えた末に自分の現状を選んだワケじゃ無い。
むしろ行き当たりばったりで、その場その場で目の前に起きている事に取り組んできたら、今のようになってしまったのだ。
たぶんそんな事を言っても、誰一人信じないか、むしろ『それが神の御心』と過大評価されるかもしれないな。
いや。ひょっとするとあの何も考えていないようにしか見えない女神イロールが実は本当に『神のごとき頭脳』の持ち主で、オレなど想像もつかない深謀遠慮によって操り人形にされていたりするのか?
まさかな。今まで何柱もの神様に出会ってきたけどそんな相手はどこにもいなかった。
あの女神だけ例外なんてあるはずがない。
オレが少しばかり悩んでいると、ミーリアが不安げに問いかけてくる。
「どうしたのだ? 何かマズいことを聞いてしまったのか?」
「いいえ。何でも無いです」
そうだ。取りあえず今はミーリアの事が先決だ。どうせ幾ら考えたところで、あのとらえどころの無い女神の事なんか分からないからな。
「ちょっと自分の人生の選択と急に言われても、こちらもいろいろとありまして……」
ああ。なんか無様だ。
だってオレ、数ヶ月前までただの高校生だったんだから、他人の人生相談に乗れるほど人生を経験なんかしていませんよ。
これでミーリアも失望したかな――などと思ったらむしろミーリアはどこか嬉しげだ。
「そうか……何と言ってよいのか分からないが、ありがとう」
「え? どういう事です?」
「私からすれば、完全無欠に見えるあなたのような女性でも、人生は思うに任せないし、そう簡単に選べるものでもないのだろう?」
「ええ……その通りです」
本当にオレの人生は思うに任せない事だらけだし、それで望みもしないのに大陸に名声が勝手に鳴り響いて、今ではちょっと前に使い始めた偽名を名乗るだけで一騒動引き起こしかねない有様ですよ。
本当に人生は思うに任せないけど『完全無欠の女性』とはどういうことだよ。
まあ見た目だとか魔法だとか、いろいろと人並み外れている自覚はあるけどさ。それでも数ヶ月前までれっきとしたオレが本物の女性からそんな評価をされるなんて、本当に『人生は思うに任せない』という言葉通りだな。
「正直に言えば、私も出会ったばかりのアルタシャに相談したぐらいでどうにかなると思っていたワケではない。敢えて言えば少し愚痴を聞いてもらいたかっただけなのだ」
本当に正直ですね。
ミーリアは短気で癇癪持ちで、頭に血が上りやすい危なっかしい人間だけど、少なくとも悪い人でないのは確かだろう――もっともその『悪い人』でないミーリアが戦いとなれば、躊躇無く敵の兵士を切り裂くのもこの世界の現実ではあるのだけど。
「それでアルタシャは私よりもむしろ年下なのに、話を聞いていると正直に言って自分がどうしようもなく子供に思えてきた……しかしそんなあなたでも自由にならないのであれば、私の悩みなど幾らでもある事なのだな」
まあ人生経験というより、たぶん世界についての見識の違いだと思いますけどね。
それはともかく、ミーリアはたぶん現状では仲間もおらずひとりぼっちだったので、自分だけがこんな事になっているかのように思い悩んでいたのだろう。
だけどオレもそれほど変わらない事に気付いて気を取り直したらしい。
いろいろと熱しやすく冷めやすい人だ。
「だからお願いだ。もうしばらくあなたに同行させてもらえないだろうか?」
「それは……いいですけど、わたしがミーリアさんに出来る事などしれていますよ」
「ありがとう。あなたと一緒にいればきっと私にも次の道が開けると思っている」
まあ単純で直情なのは悪い事では無いので、ミーリアが再び女戦士の道を選ぶか、他を選択するか決めるまでお付き合いするとしよう。
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