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第15章 とある御家騒動の話
第538話 皇帝との語らいの中で
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オレの文句を受けてウァリウスは安心した様子を見せる。
「今の態度を見て分かったよ。君は後宮にいた頃と変わっていないのだね。それは僕にとっても嬉しい事だね」
まあウァリウスが女装し、ユリフィラスと名乗って後宮に隠れていた時、オレが国民の税金を豪奢な中庭に浪費している事に対する文句をずっと聞いていたからな。
オレが今でも富貴や権力に興味が無いことは理解してくれたようだ。
「それではもしもわたしが、そんな黄金の像をつくるように要求したらどうするつもりだったのですか?」
「これまでの君の評判を聞いていれば、そんな事などあり得ないと分かりそうなものだけどね。万が一にもそんな要求をされたのならば……」
ここでウァリウスは少しばかり考えこむ様子を見せるが、そこでまた柔らかく微笑む。
「そうなれば『傾国の乙女』と共に破滅の道を歩むのも悪くはないだろう」
「その返答は失格ですね。栄耀栄華に惑って自分を見失っているのなら、殴り倒してでも思い出させるとでも答えるべきでしたよ。あなたは皇帝なのですから、最優先すべきは国と国民の事です」
「やれやれ。国よりも愛する乙女を優先すると伝えたつもりだったのに、それでは不服なのかい。皇帝である僕よりも、君の方がよほど愛国心に燃えているのだね」
もちろんオレは別にマニリア帝国に対する愛国心など持ち合わせていません。
しかしどこの国だろうとトップが民衆を苦しめるような真似をするのは、認めるわけにはいかないだけです。
「それでは少しばかりこちらの質問について答えてくれますか」
「もちろん。何でも言ってくれればいいよ」
ウァリウスは嬉しそうだけど、オレの質問を聞くと落胆するだろうな。
ちょっとばかりだが心が痛むよ。
「ウァリウスはドズ・カムの後継者争いについて聞いていますか?」
「折角の機会なのに、僕に問うのはそんな事なのかい?」
思った通りウァリウスは落胆したと言うか、不満げな表情だな。
まあこの連絡魔法もそれほど長時間は使えない筈なので、それをウァリウスにとって『余計な事』に使われるのはお望みではないだろうけど、オレにとっては関係無い。
「もちろんですよ。それがいまのわたしの興味ですから」
「その件ならば話ぐらいは聞いているけど、皇帝と言えど後継者が誰になるか口を挟む事は出来ないよ。どうなるかは個々の領主家の問題だからね」
「それでも知っている限りの事を、教えてくれませんか?」
「実を言えばさほど詳しいワケじゃ無い。辺境のいち領主の後継者がどうなるかなど、皇帝として少しばかり報告を受けただけで、教えられるほどの事は知らないよ。だけど君が僕のいる首都コルストに来てくれさえすれば、帝国の学者を総動員させてでも調べさせるのだけどね」
「自分でお願いしておいてなんですけど、それは公私混同ですよ。だいたいコルストに行くぐらいなら、ドズ・カムに直接行った方がよほど早いでしょう」
「要するに今の君はドズ・カムの後継者争いに関わろうとしているということなのだね?」
ここでウァリウスは困った様子で肩をすくめる。
「詳しい事情も分からないのに、そんな事にクビを突っ込むなんて、どうしてそんな事をするんだね? 君がドズ・カムの町にそんな関わりがあるとは思えないがなあ」
「それは本気で聞いているんですか?」
この質問に対し、ウァリウスはどこか皮肉な笑みを浮かべる。
「君にとっては関わりのあるなしや、損得は関係無い。ただ人々が困っているなら力を貸したいだけ。我が後宮に来た時と同じようにね」
「分かっておられるなら、それで十分でしょう」
「しかし危険がある事には変わりは無い。だからアルタシャがそんな危険を犯さなくとも皇帝の勅命で、君の望む相手を領主に任命してもいいのだよ」
実のところオレは後継者争いをしている連中の名前も知らないので、それは無意味だ。
もっともそんな事を口にしたら、確実にからかわれるし、何よりついさっきのウァリウスの発言と矛盾している。
「さきほど後継者を誰にするかは皇帝でも口を挟めないと言ってませんでしたか?」
「建前上はその通りだ。領主家どころか平民であろうとも、個々の家の中の事までは皇帝の管轄外だからね」
「その言い方だと例外があると言う事ですか?」
「そうだよ。領主家が問題を引き起こし、領地を統治する能力に欠けていると判断されたら皇帝が勅命でいろいろ出来るんだ。後継者の任命から、最悪の場合は領地の取り上げまで可能だよ」
確かにそれは『君主』として当然かもしれないけど、少なくとも今のドズ・カムはそこまで状況が悪化しているとは思えない。
いくら何でも皇帝が乗り出すのはやり過ぎだろう。
「そんな強引な真似をしたら、それこそ皇帝の権威に傷がつきかねないでしょう。いまようやく国内が収まりかけているのに、辺境の領主家の騒動一つのために国内が動揺しかねないですよ」
「何を言うんだ。君の身体に傷がつくことを思えば何でもないさ」
まったく相変わらずヌケヌケと言ってくれるものだ。
少しばかり嬉しいかなと思ったけど、たぶんそれは錯覚だろう。
「今の態度を見て分かったよ。君は後宮にいた頃と変わっていないのだね。それは僕にとっても嬉しい事だね」
まあウァリウスが女装し、ユリフィラスと名乗って後宮に隠れていた時、オレが国民の税金を豪奢な中庭に浪費している事に対する文句をずっと聞いていたからな。
オレが今でも富貴や権力に興味が無いことは理解してくれたようだ。
「それではもしもわたしが、そんな黄金の像をつくるように要求したらどうするつもりだったのですか?」
「これまでの君の評判を聞いていれば、そんな事などあり得ないと分かりそうなものだけどね。万が一にもそんな要求をされたのならば……」
ここでウァリウスは少しばかり考えこむ様子を見せるが、そこでまた柔らかく微笑む。
「そうなれば『傾国の乙女』と共に破滅の道を歩むのも悪くはないだろう」
「その返答は失格ですね。栄耀栄華に惑って自分を見失っているのなら、殴り倒してでも思い出させるとでも答えるべきでしたよ。あなたは皇帝なのですから、最優先すべきは国と国民の事です」
「やれやれ。国よりも愛する乙女を優先すると伝えたつもりだったのに、それでは不服なのかい。皇帝である僕よりも、君の方がよほど愛国心に燃えているのだね」
もちろんオレは別にマニリア帝国に対する愛国心など持ち合わせていません。
しかしどこの国だろうとトップが民衆を苦しめるような真似をするのは、認めるわけにはいかないだけです。
「それでは少しばかりこちらの質問について答えてくれますか」
「もちろん。何でも言ってくれればいいよ」
ウァリウスは嬉しそうだけど、オレの質問を聞くと落胆するだろうな。
ちょっとばかりだが心が痛むよ。
「ウァリウスはドズ・カムの後継者争いについて聞いていますか?」
「折角の機会なのに、僕に問うのはそんな事なのかい?」
思った通りウァリウスは落胆したと言うか、不満げな表情だな。
まあこの連絡魔法もそれほど長時間は使えない筈なので、それをウァリウスにとって『余計な事』に使われるのはお望みではないだろうけど、オレにとっては関係無い。
「もちろんですよ。それがいまのわたしの興味ですから」
「その件ならば話ぐらいは聞いているけど、皇帝と言えど後継者が誰になるか口を挟む事は出来ないよ。どうなるかは個々の領主家の問題だからね」
「それでも知っている限りの事を、教えてくれませんか?」
「実を言えばさほど詳しいワケじゃ無い。辺境のいち領主の後継者がどうなるかなど、皇帝として少しばかり報告を受けただけで、教えられるほどの事は知らないよ。だけど君が僕のいる首都コルストに来てくれさえすれば、帝国の学者を総動員させてでも調べさせるのだけどね」
「自分でお願いしておいてなんですけど、それは公私混同ですよ。だいたいコルストに行くぐらいなら、ドズ・カムに直接行った方がよほど早いでしょう」
「要するに今の君はドズ・カムの後継者争いに関わろうとしているということなのだね?」
ここでウァリウスは困った様子で肩をすくめる。
「詳しい事情も分からないのに、そんな事にクビを突っ込むなんて、どうしてそんな事をするんだね? 君がドズ・カムの町にそんな関わりがあるとは思えないがなあ」
「それは本気で聞いているんですか?」
この質問に対し、ウァリウスはどこか皮肉な笑みを浮かべる。
「君にとっては関わりのあるなしや、損得は関係無い。ただ人々が困っているなら力を貸したいだけ。我が後宮に来た時と同じようにね」
「分かっておられるなら、それで十分でしょう」
「しかし危険がある事には変わりは無い。だからアルタシャがそんな危険を犯さなくとも皇帝の勅命で、君の望む相手を領主に任命してもいいのだよ」
実のところオレは後継者争いをしている連中の名前も知らないので、それは無意味だ。
もっともそんな事を口にしたら、確実にからかわれるし、何よりついさっきのウァリウスの発言と矛盾している。
「さきほど後継者を誰にするかは皇帝でも口を挟めないと言ってませんでしたか?」
「建前上はその通りだ。領主家どころか平民であろうとも、個々の家の中の事までは皇帝の管轄外だからね」
「その言い方だと例外があると言う事ですか?」
「そうだよ。領主家が問題を引き起こし、領地を統治する能力に欠けていると判断されたら皇帝が勅命でいろいろ出来るんだ。後継者の任命から、最悪の場合は領地の取り上げまで可能だよ」
確かにそれは『君主』として当然かもしれないけど、少なくとも今のドズ・カムはそこまで状況が悪化しているとは思えない。
いくら何でも皇帝が乗り出すのはやり過ぎだろう。
「そんな強引な真似をしたら、それこそ皇帝の権威に傷がつきかねないでしょう。いまようやく国内が収まりかけているのに、辺境の領主家の騒動一つのために国内が動揺しかねないですよ」
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