異世界転移したら女神の化身にされてしまったので、世界を回って伝説を残します

高崎三吉

文字の大きさ
657 / 1,316
第17章 海と大地の狭間に

第657話 案内された先にいたものは

しおりを挟む
 オレは男の後から歩きつつ、先ほど村人達が探していた『若い男女二人組』について考えていた。
 村人達の話では別行動しているとは思えないという事だったけど、もしも女性の身体が弱くて倒れてしまったのならば、男の方がこっそりと助けを求める事は当然ありうる。
 もちろんいま問い詰めても、正直に答えるとは思えないし、場合によっては警戒してオレを追い払おうとするかもしれない。
 少なくとも助けを求めているのは本気だと感じられるので、まずは病人を癒やしてから話をするべきだろうな。
 これでオレが最初に考えたように『貴族の駆け落ち』だったとしたら、ひとまず事情を聞いた上でオレなりに助言をさせてもらおう。
 まあいつものように穏便に解決する事を望んではいるのだが、望み通りにならないのもまたいつものことなんだけどな。
 そんなわけで『何かとんでもない事があるに違いない』という覚悟だけは固めておこう。

「ところでわたしの事はアルとお呼びください。それであなたのお名前を差し支えなければ教えてくれますか?」
「う……いや……すまんが名乗るような名前など持ち合わせておらん」

 ひょっとすると偽名とかも考えてなかったりするのかな。
 やっぱり世間知らずな『貴族の駆け落ち』のごとき雰囲気が感じられるぞ。
 しかしそれならどこにどうやって隠れているのだろうか。
 オレの事について何らかの啓示を得ていたのだとしたら、逃走についても何かの導きがある可能性もあるな。

 いや。単純に協力者がいるというだけなのかもしれない。
 そのあたりもおいおい尋ねるとして、いまはもっと優先すべきものがあるな。

「それではあなたが治癒を望んでいる病人はどんな方なのですか。あとどんな症状なのでしょうか。それぐらいはお教え下さいますよね?」
「相手は私と同じぐらいの年格好の女子だ」

 ますます『駆け落ち』の線が強まってくるな。

「分かりました。それではお顔を見せてもらえますでしょうか? すみませんがあなたと同じと言われましても、それだけでは分かりませんから」
「……」
「どうされましたか? 顔を見せる事の出来ない理由でもおありなのでしょうか?」

 やっぱり追われる身だから心配しているのかもしれないが、オレは通りすがりの旅人なのだから、ただ見ただけではどこの誰かも分からない以上、顔ぐらい見せてもいいはずだ。
 それとも他人に見せるのは躊躇せざるを得ない――オレのように素顔があまりにも目立ち過ぎる――特別な理由があるのだろうか。

「……分かった。後で驚かないでくれ」

 そう言って相手はゆっくりとフードを外して振り向く。
 年齢はオレよりも少し上で、だいたい二十歳前ぐらいだろうか。どこか中性的な雰囲気のある、ちょっと線の細いハンサムというところだ。
 引き締まった体躯の割にはややアンバランスな顔ではあるけど、たぶん普段から結構鍛えてはいるのだろう。
 ただ美形とは言えるけど驚くようなものでもない。見せるのを躊躇した理由は何なのだろうか?
 やっぱり追われているから可能な限り、素顔を晒したくないという意識の顕れかもしれないな。

「これでよいか?」
「ええ……つまりその人はあなたと同じぐらいの年の女性なのですね」
「……そういうことだ。分かってくれたら、早く来てくれ」

 どうも相手はオレの顔には興味は無いらしい。少しホッとした気もするが、どうせ後で晒さないといけないかもしれないと思うと、単に先延ばしになっただけだろう。

「それでその人の体調はどうなのですか? どんな病気なのですか?」
「深刻な病気というわけではないのだが……少し疲れている様子でな……」

 ただ疲れているというだけで、わざわざ助けを求めたり、何かの啓示があったりするものだろうか?
 やっぱりどこかおかしい。
 先ほど聞いた話から、女性の方は身体が丈夫ないそうだからそれがあるかもしれないな。

「ひょっとするとその方は生まれつき身体が丈夫ではないとか、そういう事なのでしょうか?」
「ああ……そうなんだ」

 やっぱりそうか。だけどちょっとばかり面倒だな。
 オレの魔法では病気や負傷を回復させる事は出来るが、生まれつき病弱な人間を頑健にするような事は不可能であって、せいぜい一時的に元気にさせるぐらいだ。
 RPG的に言えば『キャラクターがHPに受けたダメージを回復させたり、短時間水増ししたりする事は出来ても、元の数値そのものはどうしようもない』のである。

「最初にお断りしておきますけど――」
「もちろん生まれつきのものはどうしようもない事は分かっている。それでも何か手助けに、一時だけでも元気になってくれさえすればそれでもいい」

 やっぱり藁にもすがりたい気分なのだろうな。
 そんなわけで一緒に歩いている、先の方に集落が見えてきた。いや。正確に言えば『集落の跡』か。
 よくよく見ると建物には人の気配がなく、あちこちに大きな水たまりがあって、周囲もかなり広く水につかっている。
 恐らく地盤沈下のためにしょっちゅう冠水するようになったので、住民が去って放棄されてしまったのだろう。

 建物の傷み具合からすると人がいなくなったのはそう昔というわけでもないようだ。恐らく過去数年の間に地盤沈下が進み、それと供に人間が減っていったらしい。
 かつては『水止めの寺院』に向かう巡礼者を受け入れ、それなりに栄えていたらしいけど、今はその残滓がかろうじて原型を止めているだけだ。

「それではこちらに来てくれ」

 そういって男が案内したのは、比較的高いところにあったお陰で今のところは無事な様子の小さな家屋だ。
 オレのいろいろな魔法のかかった知覚でも特別な点は感じられない。ただ男の魔法的なリンクは確かにこの建物の中に入っているので、ここにその相手がいるのは間違い無いな。
 そして男がドアの前に立つと、中から静かな声が聞こえてきた。

「よかった。心配していたのですよ」

 明らかに若い女性の声だ。ただあまり元気はなさそうだ。
 外にこちらがいることに気付いていたとなると、やっぱり様子を伺っていたのかな。
 ここまでは男の説明通りだ。
 そしてドアを開けようとしたところで、男は念を押してくる。

「ただ……驚かないでくれるか?」
「どういうことですか?」
「説明するよりも実際に見た方が早いだろう」

 そういって男はドアを開ける。
 そしてその中にいた相手を見てオレは――

「え? これは……まさか?!」

 これまで何かとんでもない事があるのでは無いかと、いろいろ覚悟を固めていたつもりだったが、それでもまさかこんな形で予想が裏切られるとは。
 オレは中にいた相手をマジマジと見つめつつ、一瞬ながら呆然とならずにはいられなかった。
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに

千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」 「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」 許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。 許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。 上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。 言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。 絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、 「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」 何故か求婚されることに。 困りながらも巻き込まれる騒動を通じて ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。 こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

処理中です...