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第17章 海と大地の狭間に
第657話 案内された先にいたものは
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オレは男の後から歩きつつ、先ほど村人達が探していた『若い男女二人組』について考えていた。
村人達の話では別行動しているとは思えないという事だったけど、もしも女性の身体が弱くて倒れてしまったのならば、男の方がこっそりと助けを求める事は当然ありうる。
もちろんいま問い詰めても、正直に答えるとは思えないし、場合によっては警戒してオレを追い払おうとするかもしれない。
少なくとも助けを求めているのは本気だと感じられるので、まずは病人を癒やしてから話をするべきだろうな。
これでオレが最初に考えたように『貴族の駆け落ち』だったとしたら、ひとまず事情を聞いた上でオレなりに助言をさせてもらおう。
まあいつものように穏便に解決する事を望んではいるのだが、望み通りにならないのもまたいつものことなんだけどな。
そんなわけで『何かとんでもない事があるに違いない』という覚悟だけは固めておこう。
「ところでわたしの事はアルとお呼びください。それであなたのお名前を差し支えなければ教えてくれますか?」
「う……いや……すまんが名乗るような名前など持ち合わせておらん」
ひょっとすると偽名とかも考えてなかったりするのかな。
やっぱり世間知らずな『貴族の駆け落ち』のごとき雰囲気が感じられるぞ。
しかしそれならどこにどうやって隠れているのだろうか。
オレの事について何らかの啓示を得ていたのだとしたら、逃走についても何かの導きがある可能性もあるな。
いや。単純に協力者がいるというだけなのかもしれない。
そのあたりもおいおい尋ねるとして、いまはもっと優先すべきものがあるな。
「それではあなたが治癒を望んでいる病人はどんな方なのですか。あとどんな症状なのでしょうか。それぐらいはお教え下さいますよね?」
「相手は私と同じぐらいの年格好の女子だ」
ますます『駆け落ち』の線が強まってくるな。
「分かりました。それではお顔を見せてもらえますでしょうか? すみませんがあなたと同じと言われましても、それだけでは分かりませんから」
「……」
「どうされましたか? 顔を見せる事の出来ない理由でもおありなのでしょうか?」
やっぱり追われる身だから心配しているのかもしれないが、オレは通りすがりの旅人なのだから、ただ見ただけではどこの誰かも分からない以上、顔ぐらい見せてもいいはずだ。
それとも他人に見せるのは躊躇せざるを得ない――オレのように素顔があまりにも目立ち過ぎる――特別な理由があるのだろうか。
「……分かった。後で驚かないでくれ」
そう言って相手はゆっくりとフードを外して振り向く。
年齢はオレよりも少し上で、だいたい二十歳前ぐらいだろうか。どこか中性的な雰囲気のある、ちょっと線の細いハンサムというところだ。
引き締まった体躯の割にはややアンバランスな顔ではあるけど、たぶん普段から結構鍛えてはいるのだろう。
ただ美形とは言えるけど驚くようなものでもない。見せるのを躊躇した理由は何なのだろうか?
やっぱり追われているから可能な限り、素顔を晒したくないという意識の顕れかもしれないな。
「これでよいか?」
「ええ……つまりその人はあなたと同じぐらいの年の女性なのですね」
「……そういうことだ。分かってくれたら、早く来てくれ」
どうも相手はオレの顔には興味は無いらしい。少しホッとした気もするが、どうせ後で晒さないといけないかもしれないと思うと、単に先延ばしになっただけだろう。
「それでその人の体調はどうなのですか? どんな病気なのですか?」
「深刻な病気というわけではないのだが……少し疲れている様子でな……」
ただ疲れているというだけで、わざわざ助けを求めたり、何かの啓示があったりするものだろうか?
やっぱりどこかおかしい。
先ほど聞いた話から、女性の方は身体が丈夫ないそうだからそれがあるかもしれないな。
「ひょっとするとその方は生まれつき身体が丈夫ではないとか、そういう事なのでしょうか?」
「ああ……そうなんだ」
やっぱりそうか。だけどちょっとばかり面倒だな。
オレの魔法では病気や負傷を回復させる事は出来るが、生まれつき病弱な人間を頑健にするような事は不可能であって、せいぜい一時的に元気にさせるぐらいだ。
RPG的に言えば『キャラクターがHPに受けたダメージを回復させたり、短時間水増ししたりする事は出来ても、元の数値そのものはどうしようもない』のである。
「最初にお断りしておきますけど――」
「もちろん生まれつきのものはどうしようもない事は分かっている。それでも何か手助けに、一時だけでも元気になってくれさえすればそれでもいい」
やっぱり藁にもすがりたい気分なのだろうな。
そんなわけで一緒に歩いている、先の方に集落が見えてきた。いや。正確に言えば『集落の跡』か。
よくよく見ると建物には人の気配がなく、あちこちに大きな水たまりがあって、周囲もかなり広く水につかっている。
恐らく地盤沈下のためにしょっちゅう冠水するようになったので、住民が去って放棄されてしまったのだろう。
建物の傷み具合からすると人がいなくなったのはそう昔というわけでもないようだ。恐らく過去数年の間に地盤沈下が進み、それと供に人間が減っていったらしい。
かつては『水止めの寺院』に向かう巡礼者を受け入れ、それなりに栄えていたらしいけど、今はその残滓がかろうじて原型を止めているだけだ。
「それではこちらに来てくれ」
そういって男が案内したのは、比較的高いところにあったお陰で今のところは無事な様子の小さな家屋だ。
オレのいろいろな魔法のかかった知覚でも特別な点は感じられない。ただ男の魔法的なリンクは確かにこの建物の中に入っているので、ここにその相手がいるのは間違い無いな。
そして男がドアの前に立つと、中から静かな声が聞こえてきた。
「よかった。心配していたのですよ」
明らかに若い女性の声だ。ただあまり元気はなさそうだ。
外にこちらがいることに気付いていたとなると、やっぱり様子を伺っていたのかな。
ここまでは男の説明通りだ。
そしてドアを開けようとしたところで、男は念を押してくる。
「ただ……驚かないでくれるか?」
「どういうことですか?」
「説明するよりも実際に見た方が早いだろう」
そういって男はドアを開ける。
そしてその中にいた相手を見てオレは――
「え? これは……まさか?!」
これまで何かとんでもない事があるのでは無いかと、いろいろ覚悟を固めていたつもりだったが、それでもまさかこんな形で予想が裏切られるとは。
オレは中にいた相手をマジマジと見つめつつ、一瞬ながら呆然とならずにはいられなかった。
村人達の話では別行動しているとは思えないという事だったけど、もしも女性の身体が弱くて倒れてしまったのならば、男の方がこっそりと助けを求める事は当然ありうる。
もちろんいま問い詰めても、正直に答えるとは思えないし、場合によっては警戒してオレを追い払おうとするかもしれない。
少なくとも助けを求めているのは本気だと感じられるので、まずは病人を癒やしてから話をするべきだろうな。
これでオレが最初に考えたように『貴族の駆け落ち』だったとしたら、ひとまず事情を聞いた上でオレなりに助言をさせてもらおう。
まあいつものように穏便に解決する事を望んではいるのだが、望み通りにならないのもまたいつものことなんだけどな。
そんなわけで『何かとんでもない事があるに違いない』という覚悟だけは固めておこう。
「ところでわたしの事はアルとお呼びください。それであなたのお名前を差し支えなければ教えてくれますか?」
「う……いや……すまんが名乗るような名前など持ち合わせておらん」
ひょっとすると偽名とかも考えてなかったりするのかな。
やっぱり世間知らずな『貴族の駆け落ち』のごとき雰囲気が感じられるぞ。
しかしそれならどこにどうやって隠れているのだろうか。
オレの事について何らかの啓示を得ていたのだとしたら、逃走についても何かの導きがある可能性もあるな。
いや。単純に協力者がいるというだけなのかもしれない。
そのあたりもおいおい尋ねるとして、いまはもっと優先すべきものがあるな。
「それではあなたが治癒を望んでいる病人はどんな方なのですか。あとどんな症状なのでしょうか。それぐらいはお教え下さいますよね?」
「相手は私と同じぐらいの年格好の女子だ」
ますます『駆け落ち』の線が強まってくるな。
「分かりました。それではお顔を見せてもらえますでしょうか? すみませんがあなたと同じと言われましても、それだけでは分かりませんから」
「……」
「どうされましたか? 顔を見せる事の出来ない理由でもおありなのでしょうか?」
やっぱり追われる身だから心配しているのかもしれないが、オレは通りすがりの旅人なのだから、ただ見ただけではどこの誰かも分からない以上、顔ぐらい見せてもいいはずだ。
それとも他人に見せるのは躊躇せざるを得ない――オレのように素顔があまりにも目立ち過ぎる――特別な理由があるのだろうか。
「……分かった。後で驚かないでくれ」
そう言って相手はゆっくりとフードを外して振り向く。
年齢はオレよりも少し上で、だいたい二十歳前ぐらいだろうか。どこか中性的な雰囲気のある、ちょっと線の細いハンサムというところだ。
引き締まった体躯の割にはややアンバランスな顔ではあるけど、たぶん普段から結構鍛えてはいるのだろう。
ただ美形とは言えるけど驚くようなものでもない。見せるのを躊躇した理由は何なのだろうか?
やっぱり追われているから可能な限り、素顔を晒したくないという意識の顕れかもしれないな。
「これでよいか?」
「ええ……つまりその人はあなたと同じぐらいの年の女性なのですね」
「……そういうことだ。分かってくれたら、早く来てくれ」
どうも相手はオレの顔には興味は無いらしい。少しホッとした気もするが、どうせ後で晒さないといけないかもしれないと思うと、単に先延ばしになっただけだろう。
「それでその人の体調はどうなのですか? どんな病気なのですか?」
「深刻な病気というわけではないのだが……少し疲れている様子でな……」
ただ疲れているというだけで、わざわざ助けを求めたり、何かの啓示があったりするものだろうか?
やっぱりどこかおかしい。
先ほど聞いた話から、女性の方は身体が丈夫ないそうだからそれがあるかもしれないな。
「ひょっとするとその方は生まれつき身体が丈夫ではないとか、そういう事なのでしょうか?」
「ああ……そうなんだ」
やっぱりそうか。だけどちょっとばかり面倒だな。
オレの魔法では病気や負傷を回復させる事は出来るが、生まれつき病弱な人間を頑健にするような事は不可能であって、せいぜい一時的に元気にさせるぐらいだ。
RPG的に言えば『キャラクターがHPに受けたダメージを回復させたり、短時間水増ししたりする事は出来ても、元の数値そのものはどうしようもない』のである。
「最初にお断りしておきますけど――」
「もちろん生まれつきのものはどうしようもない事は分かっている。それでも何か手助けに、一時だけでも元気になってくれさえすればそれでもいい」
やっぱり藁にもすがりたい気分なのだろうな。
そんなわけで一緒に歩いている、先の方に集落が見えてきた。いや。正確に言えば『集落の跡』か。
よくよく見ると建物には人の気配がなく、あちこちに大きな水たまりがあって、周囲もかなり広く水につかっている。
恐らく地盤沈下のためにしょっちゅう冠水するようになったので、住民が去って放棄されてしまったのだろう。
建物の傷み具合からすると人がいなくなったのはそう昔というわけでもないようだ。恐らく過去数年の間に地盤沈下が進み、それと供に人間が減っていったらしい。
かつては『水止めの寺院』に向かう巡礼者を受け入れ、それなりに栄えていたらしいけど、今はその残滓がかろうじて原型を止めているだけだ。
「それではこちらに来てくれ」
そういって男が案内したのは、比較的高いところにあったお陰で今のところは無事な様子の小さな家屋だ。
オレのいろいろな魔法のかかった知覚でも特別な点は感じられない。ただ男の魔法的なリンクは確かにこの建物の中に入っているので、ここにその相手がいるのは間違い無いな。
そして男がドアの前に立つと、中から静かな声が聞こえてきた。
「よかった。心配していたのですよ」
明らかに若い女性の声だ。ただあまり元気はなさそうだ。
外にこちらがいることに気付いていたとなると、やっぱり様子を伺っていたのかな。
ここまでは男の説明通りだ。
そしてドアを開けようとしたところで、男は念を押してくる。
「ただ……驚かないでくれるか?」
「どういうことですか?」
「説明するよりも実際に見た方が早いだろう」
そういって男はドアを開ける。
そしてその中にいた相手を見てオレは――
「え? これは……まさか?!」
これまで何かとんでもない事があるのでは無いかと、いろいろ覚悟を固めていたつもりだったが、それでもまさかこんな形で予想が裏切られるとは。
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