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第18章 奇怪なる殺戮者?
第757話 『最後の手段』として選んだものは
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思わぬ事を口にしてから立ち去ろうとするサレナに対し、オレは問い詰める。
「待って下さい!あなたが最期とはどういうことですか?」
「……あんたはあたしを心配しているのかしら」
「当たり前です」
「なぜよ? 分かっていると思うけど、あたしは十年前に本物のサレナを喰っただけの化け物なのよ?」
「関係ありません! わたしにとってあなたは『サレナ』です。そしてたぶん……シドンにとってもそうですよ」
オレが躊躇無く返答すると、サレナは本当に呆れたと言わんばかりにため息をつく様子を見せる。
水銀の女性の形態で本当にそんな事が出来るのかは分からないが。
「このままではずっとあなたはシドンから『大好きな姉さんを喰らって、記憶や知識を奪った怪物』だと誤解されたままですよ! それでもいいんですか!」
「あんたは本当に……残酷ね」
サレナはどこか恨めしそうに、瞳孔の無い白銀の目でオレを睨む。
「それを覚悟したつもりだったのに、そんな事を言われたらあたしだって……」
「とにかくどうするのか教えて下さい。その後でこちらも何をするか決めますから」
「分かったわよ」
ここで改めてサレナは、悶え苦しむように暴れ回っている、かつて『ガザック』だった巨体へと目を向ける。
「あたしはこれからあいつと一体化するのよ」
「え? そんな事をしたらあなただって取り込まれてしまうだけなのでは」
暴れているあの怪物は、いくつもの人格を短時間でまとめて取り込んでしまったために、人格が崩壊して暴走しているのだ。
それにサレナが加わったとしても、何の意味もないだろう。
「あんたは何も知らないのだから、これ以上は口を挟まないでよ。けが人の手当てだけでもしていればいいからさ」
「そういうわけにもいきませんよ! ちゃんと説明してくれるまでつきまといますからね!」
こんなことを口にするとは、我ながらどことなくミツリーンあたりに毒されて来たような気がするな。
だがここでサレナはまたしても思わぬ事を口にする。
「まったく……『大陸に名を馳せる聖女アルタシャ様』というのは、本当に呆れる程のお人好しなのね。人間じゃ無いあたしよりよっぽど『化け物』だわ」
「え? 知っていたんですか?!」
「その容姿と人間離れした魔力、それに信じがたいほどのお人好しを見せられたら、信じるしかないでしょ」
ああそうか。言われてみれば殺人鬼のラザラもオレを見て、普通の人間とは違うと見抜いていたものな。
サレナも当然、それは分かっていたはずだ。
「一体化しても人格まで取り込まずに、しばらくならあの身体をあたしが制御出来るわ。何しろあれはもう自我が崩壊しているからね」
「その後でどうするのですか?」
いくら何でも自爆装置など無いだろうし、首を吊っても死ぬというか活動停止になるとも思えない。
「人格を全部リセットするのよ。そうすれば取り込んだ疑似生命体は全て休眠状態に戻るはずよ。後は全部封印すれば、元通りになるわ」
「それはサレナさんも含めてと言う事なんですよね」
「当たり前でしょうが」
「そんな事は――」
オレが口を開こうとしたところで、サレナはピシャリと断言する。
「だったらあんたに何が出来るのよ。他にあれを止める手段でもあるの?」
確かにオレの力では、巨大化し人格も崩壊したガザックをどうする事も出来ない。
今はただ闇雲にその歪んだ手足を振るって、周囲の建物を破壊しているだけだが既に町のあちこちでパニックが起きている様子だし、放置していたら多くの犠牲が出るのは間違い無いだろう。
だけどオレはこのままサレナを見守るしか無いのか?
もちろん今までだって、オレに出来ることなんて限られたものだったけど、少しでも何か助けになる事があるはずだ。
「あんたにもどうしようも無い事は分かったでしょう? じゃあお別れよ……面倒だとは思うけどシドンの事は頼まれてくれるかしら」
「それは構わないと言いたいですけど、その前に一つ聞かせて下さい。一体化して、人格を取り込まないですませたのなら、その後で分離は出来ないのですか?」
「あたしが望んでも、くっついた方が望んでくれないわ。もうそんな事を考えるだけの理性が相手には無いからね」
「その言い方からすると、相手が望んだのならサレナさんは分離が出来るんですね?」
ここでサレナは首を小さくかしげる。
「それは可能だけど無駄よ。今度はあれを説得しようとか、そんなバカな事を考えているんじゃないでしょうね。幾ら聖女様でも理性も残ってない相手には、あんたの色仕掛けなんか通用しないわよ」
「いいえ。違いますよ――」
ここで否定したのはもちろん『色仕掛け』ではない。
だがオレはここで小さくため息をつく。出来ればこんな賭けなどしたくなかったのだけど、ここまで来たら仕方ない。
「ならばここでわたしの方と一体化して下さい!」
「ええ?!」
サレナの表情が本当に驚愕したものになる。どうやらそれは考えていなかったらしい。
ラザラもガザックもオレを取り込めば、強大な力が得られると言っていた。
それならばいまここでオレがサレナと一体化すれば、この危機を乗り切る事も出来るはず――我ながら向こう見ずにも程があるとは思うけどな。
「待って下さい!あなたが最期とはどういうことですか?」
「……あんたはあたしを心配しているのかしら」
「当たり前です」
「なぜよ? 分かっていると思うけど、あたしは十年前に本物のサレナを喰っただけの化け物なのよ?」
「関係ありません! わたしにとってあなたは『サレナ』です。そしてたぶん……シドンにとってもそうですよ」
オレが躊躇無く返答すると、サレナは本当に呆れたと言わんばかりにため息をつく様子を見せる。
水銀の女性の形態で本当にそんな事が出来るのかは分からないが。
「このままではずっとあなたはシドンから『大好きな姉さんを喰らって、記憶や知識を奪った怪物』だと誤解されたままですよ! それでもいいんですか!」
「あんたは本当に……残酷ね」
サレナはどこか恨めしそうに、瞳孔の無い白銀の目でオレを睨む。
「それを覚悟したつもりだったのに、そんな事を言われたらあたしだって……」
「とにかくどうするのか教えて下さい。その後でこちらも何をするか決めますから」
「分かったわよ」
ここで改めてサレナは、悶え苦しむように暴れ回っている、かつて『ガザック』だった巨体へと目を向ける。
「あたしはこれからあいつと一体化するのよ」
「え? そんな事をしたらあなただって取り込まれてしまうだけなのでは」
暴れているあの怪物は、いくつもの人格を短時間でまとめて取り込んでしまったために、人格が崩壊して暴走しているのだ。
それにサレナが加わったとしても、何の意味もないだろう。
「あんたは何も知らないのだから、これ以上は口を挟まないでよ。けが人の手当てだけでもしていればいいからさ」
「そういうわけにもいきませんよ! ちゃんと説明してくれるまでつきまといますからね!」
こんなことを口にするとは、我ながらどことなくミツリーンあたりに毒されて来たような気がするな。
だがここでサレナはまたしても思わぬ事を口にする。
「まったく……『大陸に名を馳せる聖女アルタシャ様』というのは、本当に呆れる程のお人好しなのね。人間じゃ無いあたしよりよっぽど『化け物』だわ」
「え? 知っていたんですか?!」
「その容姿と人間離れした魔力、それに信じがたいほどのお人好しを見せられたら、信じるしかないでしょ」
ああそうか。言われてみれば殺人鬼のラザラもオレを見て、普通の人間とは違うと見抜いていたものな。
サレナも当然、それは分かっていたはずだ。
「一体化しても人格まで取り込まずに、しばらくならあの身体をあたしが制御出来るわ。何しろあれはもう自我が崩壊しているからね」
「その後でどうするのですか?」
いくら何でも自爆装置など無いだろうし、首を吊っても死ぬというか活動停止になるとも思えない。
「人格を全部リセットするのよ。そうすれば取り込んだ疑似生命体は全て休眠状態に戻るはずよ。後は全部封印すれば、元通りになるわ」
「それはサレナさんも含めてと言う事なんですよね」
「当たり前でしょうが」
「そんな事は――」
オレが口を開こうとしたところで、サレナはピシャリと断言する。
「だったらあんたに何が出来るのよ。他にあれを止める手段でもあるの?」
確かにオレの力では、巨大化し人格も崩壊したガザックをどうする事も出来ない。
今はただ闇雲にその歪んだ手足を振るって、周囲の建物を破壊しているだけだが既に町のあちこちでパニックが起きている様子だし、放置していたら多くの犠牲が出るのは間違い無いだろう。
だけどオレはこのままサレナを見守るしか無いのか?
もちろん今までだって、オレに出来ることなんて限られたものだったけど、少しでも何か助けになる事があるはずだ。
「あんたにもどうしようも無い事は分かったでしょう? じゃあお別れよ……面倒だとは思うけどシドンの事は頼まれてくれるかしら」
「それは構わないと言いたいですけど、その前に一つ聞かせて下さい。一体化して、人格を取り込まないですませたのなら、その後で分離は出来ないのですか?」
「あたしが望んでも、くっついた方が望んでくれないわ。もうそんな事を考えるだけの理性が相手には無いからね」
「その言い方からすると、相手が望んだのならサレナさんは分離が出来るんですね?」
ここでサレナは首を小さくかしげる。
「それは可能だけど無駄よ。今度はあれを説得しようとか、そんなバカな事を考えているんじゃないでしょうね。幾ら聖女様でも理性も残ってない相手には、あんたの色仕掛けなんか通用しないわよ」
「いいえ。違いますよ――」
ここで否定したのはもちろん『色仕掛け』ではない。
だがオレはここで小さくため息をつく。出来ればこんな賭けなどしたくなかったのだけど、ここまで来たら仕方ない。
「ならばここでわたしの方と一体化して下さい!」
「ええ?!」
サレナの表情が本当に驚愕したものになる。どうやらそれは考えていなかったらしい。
ラザラもガザックもオレを取り込めば、強大な力が得られると言っていた。
それならばいまここでオレがサレナと一体化すれば、この危機を乗り切る事も出来るはず――我ながら向こう見ずにも程があるとは思うけどな。
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