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第19章 神気の山脈にて
第775話 出会った危なっかしい学者は
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このままでは学者らしき人物が殺されてしまいかねない。
ここはとにかく止めるとしよう。
オレは今まさにその武器を振るおうとしている三人の山賊に対して順番に『平静』の魔法をかける。
そうすると連中はいきなり動きを止め、全てを忘れた様子で立ちすくむ。
「うん? これはいったい……」
さすがに学者は状況が呑み込めない様子でいるが、オレは急いで駆け寄る。
「大丈夫ですか?!」
「おや? 君はどこの誰だ?」
「今はとにかく急いでこの場を離れましょう!」
妙に落ち着いているというか、少しばかり間の抜けたというか、そんな男の手を取ってオレは引っ張る。
「ああ……そうだね。君の言う通りだ」
ええい。だから危ないのはアンタなのに何だってそんなに落ち着いているんだよ。
いや。この後に及んで、まだ危険な状況が分かっていないのかもしれないが、山賊連中に仲間がいるかもしれないし、魔法が切れて正気を取り戻しても、また面倒な事になるのは間違い無い。
そんなわけで男を引っ張って、オレはひとまず街道に戻った。
「どうやら追ってはこないようですね」
「はあ疲れたよ……」
男は地面にしゃがみ込んで、袋に入っている荷物を抱え込む。
「しっかりして下さい。だいたい命が危なかったのに、そんな荷物など捨ててしまえばよかったでしょう」
命がけで交易品を運んでいる商人達だって、商品のために命を捨てはしないだろう。
男は貴重なものだと言っていたが、いくら何でも命と引き替えにする程のものだとはとても思えない。
だがここで男は血相を変えつつ叫ぶ。
「何を言っているんだ!」
オレの指摘に対して、男は改めて荷物を抱え込む。
「無学なものには分からないだろうが、これはボク一人だけのものじゃないんだ!」
ううむ。ずいぶんな言いぐさだけど、この態度からして、この荷物が何なのかなんとなく見当がつくぞ。
「ひょっとするとその荷物は、どこかの遺跡から掘り出した発掘品か何かでしょうか?」
「え? まさか?」
意表をつかれた表情からして、やはり思った通りだ。
「学術的に価値があるので、あなたはそれを守るために命を駆けたのですね。その気持ちは分かりますよ」
「おお! 分かってくれるのか!」
男は急に嬉しげな表情を浮かべ、次いで頭を下げる。
「いや。さっきは無学などと言って済まない。こんな辺境の地でちゃんと学問の意義を理解してくれる人間に出会えるとは思っていなかったからな」
このオッサン――まだ二十代だろうけど――謝っているはずなのに、いちいち言っている事にトゲがあるな。
間違い無く、学問を持たない相手を『無学者』と見下していそうだ。
まあ今までにも似たような相手には大勢出会って来たから、特に腹も立たなくなったのはオレも人間が丸くなったというべきだろうか――女になったせいで体型も丸くなってしまったけどな。
ここまでの話からすると、これまではずっと『象牙の塔』にこもっていたのが、この『龍の背』山脈に学術的な調査に来た人間なんだろう。
「ボクの名はフォラジ。万智の主、マークホール神の目の一つだ」
「わたしの事はアルと呼んで下さい」
マークホール神というのは、フォラジの信仰している神様か。その称号からして知識神なのは間違い無い。
そして自分を『目の一つ』と表現しているのは、恐らく『自分達の見ているものを神も見ている』という意味合いなのだろう。
そのために信徒が知識を得ることは、神もまたより知識を深めるという信仰らしい。
「このボクは『目の一つ』として、この地域の学術調査に来たのだが、何しろ学問を理解しない蛮夷の者ばかりでね、お陰で何度危ない目にあってきたことか……」
「よく……今まで生きていられましたね」
これはオレの正直な感想だ。
そう思っているなら、もう少しやりようがあるだろうに。
まあ元の世界でも治安のいい国から、治安の悪い国に入った人間が『治安が悪いから気をつけろ』と幾ら言われていても、元の国の感覚でつい行動してしまって、犯罪に巻き込まれる事はしばしばあったから、このフォラジも似たようなものなのだろうな。
「これもきっと我が主、マークホール神のご加護だろう」
今までにも危なっかしい相手に出会った事は何度あるか分からないが、関わってしまった以上は見捨てられないのがオレなのだ。
学者としては若手の筈だから、たぶん功を焦っているのだろう。
ひょっとすると学閥の争いか何かで辺境に飛ばされて、中央に戻るため成果を挙げるのに必死なのかもしれない。
どっちにしろ命まで賭けるのはあまりにも無謀だ。
ここで別れてもいいのだが、このフォラジは先ほど山賊達に対して放った言葉から『椀かづき』――彼に言わせるとケフェルティリ神――について何か知っているらしいので、出来ればその話を聞いておきたい。
オレは『学問のための学問』には興味は無いが、それでも『知識は力』である事に変わりは無いのだ。
とりあえずフォラジを安全なところまで連れて行くとしよう。
「ところでフォラジさんはどこに向かうつもりだったのですか?」
「この先にあるマークホール神の社だよ。よかったら君も来たまえ」
フォラジからは学術的なコレクションを見せびらかしたそうな雰囲気があからさまに漂っているな。
「分かりました。お付き合いしましょう」
そんなわけでオレはフォラジと同行する事になった。
ここはとにかく止めるとしよう。
オレは今まさにその武器を振るおうとしている三人の山賊に対して順番に『平静』の魔法をかける。
そうすると連中はいきなり動きを止め、全てを忘れた様子で立ちすくむ。
「うん? これはいったい……」
さすがに学者は状況が呑み込めない様子でいるが、オレは急いで駆け寄る。
「大丈夫ですか?!」
「おや? 君はどこの誰だ?」
「今はとにかく急いでこの場を離れましょう!」
妙に落ち着いているというか、少しばかり間の抜けたというか、そんな男の手を取ってオレは引っ張る。
「ああ……そうだね。君の言う通りだ」
ええい。だから危ないのはアンタなのに何だってそんなに落ち着いているんだよ。
いや。この後に及んで、まだ危険な状況が分かっていないのかもしれないが、山賊連中に仲間がいるかもしれないし、魔法が切れて正気を取り戻しても、また面倒な事になるのは間違い無い。
そんなわけで男を引っ張って、オレはひとまず街道に戻った。
「どうやら追ってはこないようですね」
「はあ疲れたよ……」
男は地面にしゃがみ込んで、袋に入っている荷物を抱え込む。
「しっかりして下さい。だいたい命が危なかったのに、そんな荷物など捨ててしまえばよかったでしょう」
命がけで交易品を運んでいる商人達だって、商品のために命を捨てはしないだろう。
男は貴重なものだと言っていたが、いくら何でも命と引き替えにする程のものだとはとても思えない。
だがここで男は血相を変えつつ叫ぶ。
「何を言っているんだ!」
オレの指摘に対して、男は改めて荷物を抱え込む。
「無学なものには分からないだろうが、これはボク一人だけのものじゃないんだ!」
ううむ。ずいぶんな言いぐさだけど、この態度からして、この荷物が何なのかなんとなく見当がつくぞ。
「ひょっとするとその荷物は、どこかの遺跡から掘り出した発掘品か何かでしょうか?」
「え? まさか?」
意表をつかれた表情からして、やはり思った通りだ。
「学術的に価値があるので、あなたはそれを守るために命を駆けたのですね。その気持ちは分かりますよ」
「おお! 分かってくれるのか!」
男は急に嬉しげな表情を浮かべ、次いで頭を下げる。
「いや。さっきは無学などと言って済まない。こんな辺境の地でちゃんと学問の意義を理解してくれる人間に出会えるとは思っていなかったからな」
このオッサン――まだ二十代だろうけど――謝っているはずなのに、いちいち言っている事にトゲがあるな。
間違い無く、学問を持たない相手を『無学者』と見下していそうだ。
まあ今までにも似たような相手には大勢出会って来たから、特に腹も立たなくなったのはオレも人間が丸くなったというべきだろうか――女になったせいで体型も丸くなってしまったけどな。
ここまでの話からすると、これまではずっと『象牙の塔』にこもっていたのが、この『龍の背』山脈に学術的な調査に来た人間なんだろう。
「ボクの名はフォラジ。万智の主、マークホール神の目の一つだ」
「わたしの事はアルと呼んで下さい」
マークホール神というのは、フォラジの信仰している神様か。その称号からして知識神なのは間違い無い。
そして自分を『目の一つ』と表現しているのは、恐らく『自分達の見ているものを神も見ている』という意味合いなのだろう。
そのために信徒が知識を得ることは、神もまたより知識を深めるという信仰らしい。
「このボクは『目の一つ』として、この地域の学術調査に来たのだが、何しろ学問を理解しない蛮夷の者ばかりでね、お陰で何度危ない目にあってきたことか……」
「よく……今まで生きていられましたね」
これはオレの正直な感想だ。
そう思っているなら、もう少しやりようがあるだろうに。
まあ元の世界でも治安のいい国から、治安の悪い国に入った人間が『治安が悪いから気をつけろ』と幾ら言われていても、元の国の感覚でつい行動してしまって、犯罪に巻き込まれる事はしばしばあったから、このフォラジも似たようなものなのだろうな。
「これもきっと我が主、マークホール神のご加護だろう」
今までにも危なっかしい相手に出会った事は何度あるか分からないが、関わってしまった以上は見捨てられないのがオレなのだ。
学者としては若手の筈だから、たぶん功を焦っているのだろう。
ひょっとすると学閥の争いか何かで辺境に飛ばされて、中央に戻るため成果を挙げるのに必死なのかもしれない。
どっちにしろ命まで賭けるのはあまりにも無謀だ。
ここで別れてもいいのだが、このフォラジは先ほど山賊達に対して放った言葉から『椀かづき』――彼に言わせるとケフェルティリ神――について何か知っているらしいので、出来ればその話を聞いておきたい。
オレは『学問のための学問』には興味は無いが、それでも『知識は力』である事に変わりは無いのだ。
とりあえずフォラジを安全なところまで連れて行くとしよう。
「ところでフォラジさんはどこに向かうつもりだったのですか?」
「この先にあるマークホール神の社だよ。よかったら君も来たまえ」
フォラジからは学術的なコレクションを見せびらかしたそうな雰囲気があからさまに漂っているな。
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